123 / 187
大魔法使いの死 (7) オマージュという名の…… (2215)
しおりを挟む
「どうでしたって、何が?」
シュプリンの問いかけに、パーパスが憮然として答えます。
「今の小説の出来ですよ、出来。面白かったですか? 感動しましたか? どっちですか?」
最後のページをめくり、全ての内容を話し終わったシュプリンが言いました。パーパスの評価を、今か今かと身を乗り出して待っています。
「まぁ、八十点といったところじゃろう」
ソファーに身をゆだね、ハーブティーをすすりながらパーパスが言いました。これは、いつもシュプリンに厳しいパーパスとしては破格の評価です。
シュプリンが思わず、
「でしょう、かなり良かったでしょう。まぁ、私が本気を出せばこんなもんですけどね」
と鼻高々となりました。
「もっとも、千点満点での八十点だがな」
え? という事は、百点満点になおせば、わすか八点という評価ですか。
「ちょっと、そりゃどういう基準ですか。こんなに面白い小説が、たった八点!?」
天国から地獄へとつき落されたシュプリンが、そんな事など知ったこっちゃないと言わんばかりのパーパスに詰め寄りました。
「ふん、三文小説にもなっとらんぞ」
パーパスが、毒づきます。
あ、みなさん、もうお気づきですよね。今まで展開して来たお話は、実は、シュプリンが自分で書いた小説だったんです。それを、パーパスに読み聞かせていたというわけです。
「何が三文小説ですか。斬新な発想。手に汗握るストーリー。見事な伏線の回収。そして感動的なラスト。どれをとっても珠玉の名作でしょ?」
木で出来た人形ながら、顔を真っ赤にしてシュプリンが熱弁を振るいます。
「そこまで言うなら、添削してしんぜよう。
まずな、異世界の描き方が雑そのものじゃ。お前の頭の中には色々とあるんじゃろうが、全く断片的で伝わって来ん。
それに、登場人物へ全く思い入れが出来ん。ワシやお前を知っている者が読むのならともかく、見ず知らずの他人が読んだら”はぁ?”ってな感じになるじゃろうな」
パーパスの酷評は、まだまだ続きます。
「それにな、ワシはお前に重鎧なみの体や、無双の剣術スキルなんぞ、付与した覚えはこれっぽっちもないぞ。そもそも家事一般に使う刃物以外、触った事すらないじゃろうが」
「い、いや。そこはフィクションですから、い、いいんですよ」
図星を突かれて、シュプリンがどぎまぎします。
「他にもあるぞ。何じゃ、自分ばかりを優秀だの主人思いじゃのと猛烈に美化しおってからに。まるで、自分がヒーローになった姿を想像する子供と変わらんよ」
既に湯気が出る寸前まで、その顔が紅潮したシュプリン。しかしパーパスの真っ当な批評に、なす術がありません。
「あと、ワシの扱いが酷すぎんか? 殆どお前に頼りっぱなしの、頑固で情けない爺さんじゃないか。そして、あっさりと死んでしまう。
ワシの心が傷つくとは、思わなかったのかの?」
「そ、そこは、考えましたよ。でもマスターって、見た目は今にも死にそうなお年寄りですけど、実際は不老不死なんだから、別にいいじゃないですか」
”少し主人を貶めすぎたかな”と自覚のある執事が、へどもどと言い訳をします。
「それにニンチショウだっけか? わけのわからん病気を持ち出して、都合のいいように話を進めとる。
小説では、最もやってはいけないテクニックだと思うがな。それを伏線回収などとは、片腹痛いわ」
パーパスは、既に白旗を上げかけている召使いの心に、えぐるようなパンチをお見舞いました。
「いや、し、しかしですね。……まぁ、いつも魔法書しか読んでいないマスターには、文学なんてわからないのかも知れませんけど……」
シュプリンがそう言いかけた時、パーパスがトドメの一言を発します。
「おまけに現実と異世界を行き来する話。そして、どちらかの世界が夢なのかも知れないという話。確かそんな話を描いた小説が去年出版されたよな。キャシーキャシーって言う小説家の名前で」
素人小説家は、脳天に雷が落ちたような衝撃を受けました。
「な、なんでそれを……」
シュプリンが、恐る恐る尋ねます。
「フン、甘く見ないでほしいの。ワシだって世の流行りものくらい読んどるわ。世事に疎い老人とでも思っていたか」
”思ってました”
シュプリンが、心の中で呟きます。
「こ、これはマネとかパクリとかじゃなくてですね。リスペクトというか、オマージュというか、胸を借りたというか……。とにかく、私がタップリと時間をかけて……」
あ~あ。シュプリンってばすっかり取り乱しちゃって……。マネとかパクリとか、自分の方から言っちゃいましたね。主人を甘く見ていた、彼の一本負けというところでしょうか。
しかし、パーパスは更に続けます。
「ほぉ~。タップリと時間をかけてとな。最近、食卓に上がる料理の種類が少なくなったのは、その為か。
趣味を持つなとは言わんがの。本業をおろそかにするとは言語道断。
しかと猛省せい!」
ティーカップを強めにソーサーに置いたパーパスは、時間の無駄だったと言わんばかりに、地下の実験室へと足早に戻っていきました。ハラモイド草とヒカリゴケの融合実験をするために。
一方、シュプリンと言えば、肩を落として夕食の洗い物に取り掛かります。ちょっと可愛そうな気もしますけど、どうやら彼の小説人生は処女作のみで終わってしまいそうです。
それにしてもシュプリンが描いた異世界って、本当にヘンテコな世界でしたよね。そんな世界が実際にあるんでしょうか。
みなさんは、どう思いますか?
【大魔法使いの死・終】
シュプリンの問いかけに、パーパスが憮然として答えます。
「今の小説の出来ですよ、出来。面白かったですか? 感動しましたか? どっちですか?」
最後のページをめくり、全ての内容を話し終わったシュプリンが言いました。パーパスの評価を、今か今かと身を乗り出して待っています。
「まぁ、八十点といったところじゃろう」
ソファーに身をゆだね、ハーブティーをすすりながらパーパスが言いました。これは、いつもシュプリンに厳しいパーパスとしては破格の評価です。
シュプリンが思わず、
「でしょう、かなり良かったでしょう。まぁ、私が本気を出せばこんなもんですけどね」
と鼻高々となりました。
「もっとも、千点満点での八十点だがな」
え? という事は、百点満点になおせば、わすか八点という評価ですか。
「ちょっと、そりゃどういう基準ですか。こんなに面白い小説が、たった八点!?」
天国から地獄へとつき落されたシュプリンが、そんな事など知ったこっちゃないと言わんばかりのパーパスに詰め寄りました。
「ふん、三文小説にもなっとらんぞ」
パーパスが、毒づきます。
あ、みなさん、もうお気づきですよね。今まで展開して来たお話は、実は、シュプリンが自分で書いた小説だったんです。それを、パーパスに読み聞かせていたというわけです。
「何が三文小説ですか。斬新な発想。手に汗握るストーリー。見事な伏線の回収。そして感動的なラスト。どれをとっても珠玉の名作でしょ?」
木で出来た人形ながら、顔を真っ赤にしてシュプリンが熱弁を振るいます。
「そこまで言うなら、添削してしんぜよう。
まずな、異世界の描き方が雑そのものじゃ。お前の頭の中には色々とあるんじゃろうが、全く断片的で伝わって来ん。
それに、登場人物へ全く思い入れが出来ん。ワシやお前を知っている者が読むのならともかく、見ず知らずの他人が読んだら”はぁ?”ってな感じになるじゃろうな」
パーパスの酷評は、まだまだ続きます。
「それにな、ワシはお前に重鎧なみの体や、無双の剣術スキルなんぞ、付与した覚えはこれっぽっちもないぞ。そもそも家事一般に使う刃物以外、触った事すらないじゃろうが」
「い、いや。そこはフィクションですから、い、いいんですよ」
図星を突かれて、シュプリンがどぎまぎします。
「他にもあるぞ。何じゃ、自分ばかりを優秀だの主人思いじゃのと猛烈に美化しおってからに。まるで、自分がヒーローになった姿を想像する子供と変わらんよ」
既に湯気が出る寸前まで、その顔が紅潮したシュプリン。しかしパーパスの真っ当な批評に、なす術がありません。
「あと、ワシの扱いが酷すぎんか? 殆どお前に頼りっぱなしの、頑固で情けない爺さんじゃないか。そして、あっさりと死んでしまう。
ワシの心が傷つくとは、思わなかったのかの?」
「そ、そこは、考えましたよ。でもマスターって、見た目は今にも死にそうなお年寄りですけど、実際は不老不死なんだから、別にいいじゃないですか」
”少し主人を貶めすぎたかな”と自覚のある執事が、へどもどと言い訳をします。
「それにニンチショウだっけか? わけのわからん病気を持ち出して、都合のいいように話を進めとる。
小説では、最もやってはいけないテクニックだと思うがな。それを伏線回収などとは、片腹痛いわ」
パーパスは、既に白旗を上げかけている召使いの心に、えぐるようなパンチをお見舞いました。
「いや、し、しかしですね。……まぁ、いつも魔法書しか読んでいないマスターには、文学なんてわからないのかも知れませんけど……」
シュプリンがそう言いかけた時、パーパスがトドメの一言を発します。
「おまけに現実と異世界を行き来する話。そして、どちらかの世界が夢なのかも知れないという話。確かそんな話を描いた小説が去年出版されたよな。キャシーキャシーって言う小説家の名前で」
素人小説家は、脳天に雷が落ちたような衝撃を受けました。
「な、なんでそれを……」
シュプリンが、恐る恐る尋ねます。
「フン、甘く見ないでほしいの。ワシだって世の流行りものくらい読んどるわ。世事に疎い老人とでも思っていたか」
”思ってました”
シュプリンが、心の中で呟きます。
「こ、これはマネとかパクリとかじゃなくてですね。リスペクトというか、オマージュというか、胸を借りたというか……。とにかく、私がタップリと時間をかけて……」
あ~あ。シュプリンってばすっかり取り乱しちゃって……。マネとかパクリとか、自分の方から言っちゃいましたね。主人を甘く見ていた、彼の一本負けというところでしょうか。
しかし、パーパスは更に続けます。
「ほぉ~。タップリと時間をかけてとな。最近、食卓に上がる料理の種類が少なくなったのは、その為か。
趣味を持つなとは言わんがの。本業をおろそかにするとは言語道断。
しかと猛省せい!」
ティーカップを強めにソーサーに置いたパーパスは、時間の無駄だったと言わんばかりに、地下の実験室へと足早に戻っていきました。ハラモイド草とヒカリゴケの融合実験をするために。
一方、シュプリンと言えば、肩を落として夕食の洗い物に取り掛かります。ちょっと可愛そうな気もしますけど、どうやら彼の小説人生は処女作のみで終わってしまいそうです。
それにしてもシュプリンが描いた異世界って、本当にヘンテコな世界でしたよね。そんな世界が実際にあるんでしょうか。
みなさんは、どう思いますか?
【大魔法使いの死・終】
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
勇者は魔王に屈しない〜仲間はみんな魔王に寝返った〜
さとう
ファンタジー
魔界からやって来た魔王に、人間界の一部が乗っ取られた。
その魔王に対抗するべく、人間界に存在する伝説の『聖なる武具』に選ばれた5人の勇者たち。
その名は聖剣士レオン、魔術師ウラヌス、刀士サテナ、弓士ネプチュン。
そして俺こと守護士マイトの、同じ村の出身の5人の幼馴染だ。
12歳で『聖なる武具』に選ばれ、人間界最大の王国である『ギンガ王国』で修行する毎日。
辛くも苦しい修行に耐えながら、俺たちは力を付けていく。
親友であるレオン、お互いを高め合ったサテナ、好き好きアピールがスゴいネプチュン、そして俺が惚れてる少女ウラヌス。
そんな中、俺は王国の森で、喋る赤い文鳥のふーちゃんと出会い、親友となる。
それから5年。17歳になり、魔王討伐の旅に出る。
いくつもの苦難を越え、仲間たちとの絆も深まり、ついには魔王と最終決戦を迎えることに。
だが、俺たちは魔王にズタボロにやられた。
椅子に座る魔王を、立ち上がらせることすら出来なかった。
命の危機を感じたレオンは、魔王に命乞いをする。
そして魔王の気まぐれと甘い罠で、俺以外の4人は魔王の手下になってしまう。
17年間ずっと一緒だった幼馴染たちは俺に容赦ない攻撃をする。
そして、ずっと好きだったウラヌスの一撃で、俺は魔王城の外へ吹き飛ばされる。
最後に見たのは、魔王に寄り添うウラヌスだった。
そんな俺を救ったのは、赤い文鳥のふーちゃんだった。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない
兎屋亀吉
ファンタジー
底辺冒険者クロードは転生者である。しかしチートはなにひとつ持たない。だが救いがないわけじゃなかった。その世界にはスキルと呼ばれる力を後天的に手に入れる手段があったのだ。迷宮の宝箱から出るスキルオーブ。それがあればスキル無双できると知ったクロードはチートスキルを手に入れるために、今日も薬草を摘むのであった。
フェンリルと幼女は二人で最強
メメ
ファンタジー
小さい頃から魔力量がが弱く期待されるのはいつもひとつ上の姉ばかり、そうだ!!だったら邪魔者は出ていこう!!と4歳で家出を決行、そして旅の最中に森の中で怪我したフェンリルを助けたら、私の護衛になりたいと言われ、、、。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる