上 下
82 / 187

扉の奥の秘宝 (23) 頭脳明晰

しおりを挟む
「いや、待て。それはおかしいぞ。お前はギルドからの紹介状を持って、選抜試験に臨んだはずだ。オレも持っているが、そう簡単に偽造できる品ではない。

今回の試験は急に決まったものだから、精巧な偽物を用意する時間はなかったはずだ」

フューイが、淡々と語ります。

「おうよ。確かに、あんたの言う通りだ。だから、俺様が持っていた紹介状は、まごう事なき本物だよ」

「……つまり、ゾルウッドという人物は実在していて、彼の貰った紹介状をお前が奪ったわけか。まぁ、そいつはもう生きてはいまい」

フューイの表情が少し曇ります。もちろん、本物のゾルウッドに会った事はありませんが、突然命を奪われた彼の口惜しさを思うと胸が痛みました。

「やっぱり、あんたは頭がいい。違う出会い方をしていたら、是非、仲間に欲しい人材だよ。実に惜しいねぇ」

「だが、お前が選抜試験で合格する保証なんてないだろう。落ちたらどうする気だったんだ?」

フューイが、問います。

「そしたら合格者を殺っちまって、後釜におさまるだけよ。病気や事故に見せかけて始末するなんざ、お手の物だからな」

「なるほど。だが、どうしてそこまでして、ここへ潜り込んだんだ。鍵が掛かっていては、秘宝も盗めないだろうに」

フューイの意識は、言葉とは裏腹に、更に後ろの兵士へと注がれます。

「その通り、まぁ、ここからが冥土の土産話の本番よ。俺様たちは、かねてからこの宝物要塞に眠る秘宝を狙っていてよ。だが色々調べても、ラチが明かねぇ。

そんな時、鍵の選抜試験の話を聞きつけたんだ。俺様も、昔は一流の鍵士でならした腕利きよ。ま、ちょっとした挑戦心が湧いて来たわけさ。それに合格者は二人だと、予め決まっていたからな。そいつが鍵開けに成功しても、全く問題ないわけだよ。

実際、もう一人の合格者であるあんたが、こうして開けてくれたわけだしな」

「なるほど、それがスパイからの情報か」

フューイが、突然言いました。

「ス、スパイ? お、おめぇ、何でそれを!」

モゼントが思わず、宝箱から腰を浮かします。

「そりゃ、そうだろう。オレは今回の具体的な依頼、つまり宝物庫の鍵を開けるという内容をここに到着してから初めて知らされた。それを事前に知っていたとなると、どこかにスパイを潜り込ませていたと考えるしかないだろう」

フューイは平然と答えます。モゼントが思っている以上に、彼は頭が働くようですね。

「て、てめぇ……、そこまでわかってるのか。感心……というよりも、むしろ恐ろしいぜ。やい、他に何に勘付いている? 言わないと、今すぐ喉元をかっ切ってやるぞ」

モゼントは、次第にイラつき始めました。余裕しゃくしゃくでいた所を、次々とフューイに企みを言い当てられているのですから当然ですね。

「おいおい、そっちが冥土の土産話をしてくるんじゃなかったのか?」

「うるせぇ!さっさと話しやがれ」

モゼントが怒鳴ると、フューイの首にかざされているナイフが、一段と彼の頸動脈に近づきました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

勇者は魔王に屈しない〜仲間はみんな魔王に寝返った〜

さとう
ファンタジー
魔界からやって来た魔王に、人間界の一部が乗っ取られた。 その魔王に対抗するべく、人間界に存在する伝説の『聖なる武具』に選ばれた5人の勇者たち。 その名は聖剣士レオン、魔術師ウラヌス、刀士サテナ、弓士ネプチュン。 そして俺こと守護士マイトの、同じ村の出身の5人の幼馴染だ。 12歳で『聖なる武具』に選ばれ、人間界最大の王国である『ギンガ王国』で修行する毎日。 辛くも苦しい修行に耐えながら、俺たちは力を付けていく。 親友であるレオン、お互いを高め合ったサテナ、好き好きアピールがスゴいネプチュン、そして俺が惚れてる少女ウラヌス。 そんな中、俺は王国の森で、喋る赤い文鳥のふーちゃんと出会い、親友となる。 それから5年。17歳になり、魔王討伐の旅に出る。  いくつもの苦難を越え、仲間たちとの絆も深まり、ついには魔王と最終決戦を迎えることに。 だが、俺たちは魔王にズタボロにやられた。 椅子に座る魔王を、立ち上がらせることすら出来なかった。 命の危機を感じたレオンは、魔王に命乞いをする。 そして魔王の気まぐれと甘い罠で、俺以外の4人は魔王の手下になってしまう。 17年間ずっと一緒だった幼馴染たちは俺に容赦ない攻撃をする。 そして、ずっと好きだったウラヌスの一撃で、俺は魔王城の外へ吹き飛ばされる。 最後に見たのは、魔王に寄り添うウラヌスだった。 そんな俺を救ったのは、赤い文鳥のふーちゃんだった。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない

兎屋亀吉
ファンタジー
底辺冒険者クロードは転生者である。しかしチートはなにひとつ持たない。だが救いがないわけじゃなかった。その世界にはスキルと呼ばれる力を後天的に手に入れる手段があったのだ。迷宮の宝箱から出るスキルオーブ。それがあればスキル無双できると知ったクロードはチートスキルを手に入れるために、今日も薬草を摘むのであった。

フェンリルと幼女は二人で最強

メメ
ファンタジー
小さい頃から魔力量がが弱く期待されるのはいつもひとつ上の姉ばかり、そうだ!!だったら邪魔者は出ていこう!!と4歳で家出を決行、そして旅の最中に森の中で怪我したフェンリルを助けたら、私の護衛になりたいと言われ、、、。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...