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努力してます1
しおりを挟む人が踏み込んだことのないような深い森。
その奥にて、尖った大きな岩の上に登ったクロアフィートは、その頂点に立ち眼下を見る。景色は雲で霞んであまり見えないが。
勇者としての力を高める為、この純粋な空気が濃密に漂う場所に定期的に訪れているのだ。
ノノロリルが監視していなくてもちゃんと勇者らしくしているのである。
身体のすみずみに純粋な力が巡っていることを確認したクロアは岩から飛び降りた。その勢いのままに、さらに下へ下へと進んでいき、開けた場所についた。
「キィーユ」
「お待たせ、ロンヴィルド」
「キュゥー…」
クロアを待っていたのは真っ白な竜だ。
白の鱗が輝いて美しく、神聖な生物だと思わせる。
体が大きいのでその場所が狭く、身を小さくしていても翼が木の枝を折っている。
白竜は甘えるようにクロアに頭を寄せ、その鼻の先をクロアは撫でる。
「ロンヴィルド、これさっき採ったんだよ」
白竜の目の前にこの森で採った拳大の果実を見せる。それはぺろっと一飲みされた。その実は人も食べることができるので、もちろんノノロリルへのお土産も兼ねている。
ちなみに実を入れている革製の小袋はノノ特製である。といっても、誰が作っても同じようにできる簡単な作りのもので、つまりは量産品だ。それでもノノ特製である。
「そろそろ戻って仕事しないと。よろしく頼むよ、ロンヴィルド」
白竜の横に立ったクロアは、その体に足をかけ、ひらりとその背に乗った。
一鳴きして、飛び立つ白竜。
拠点として住んでいるカリルド国へと戻る。
カリルド国は大国であり、豊かな国だ。
民も穏やかで治安もよく、遙か昔から歴代の勇者達にも手厚いサポートをしてきている歴史がある。
その上、現勇者のクロアはカリルドの出身とあって、全面的に協力をしている。
とはいっても、ノノロリルのこととなると別である。
王城に赴いたクロアフィートは、とある一室にて書類を手にしていた。
「では、こちらのほうもお願いします」
手にしていた書類を目の前で座っている男の手前へと置く。
その書類を持ち上げ見ている男は、このカリルド国の国王だ。
まだ20代と若いが、非常に優秀で、このクロアフィートという厄介な勇者と関わっていることで才能を遺憾なく発揮し、ただの一国の王として終わるのでなく、勇者クロアフィートの重要人物として歴史に名を残すだろう。
剣技の技術も高く、顔もかなりよくて、クロアがノノに会わせたくないうちの1人である。
「…いつもと違うようだが?」
「はい。今までこれを輸入していた国と仲がよくない隣国が最近動きがよくないんですよ。一国に頼りすぎるのもよくないでしょうから、少しづつ分散してはどうかと思います」
「確かにな。分かったそうしよう」
書類にサインがされて、クロアはそれを受け取る。
「では、そろそろ休憩にしましょうか」
「お、そんな時間か。お茶をいれてくれ」
「はい。いつものでよろしいですね」
お茶は手際よく用意された。
「んー、うまい。お前はなんでも出来るよなー。勇者やめて、俺専属の従者になれよ」
「僕でなくても城にはたくさんの優秀な方がいるじゃないですか」
「…そーゆーとこも優秀だな。ま、これはおまけで手伝ってくれてるってのは分かってるがな。恋人の為だろ?涙ぐましいな」
ノノロリルの情報を隠してもらう為にかなり力を使ってもらっている。なので、こうしてお手伝いをして好感をもってもらえるようにしている。
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