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使命を選ぶ君3
しおりを挟む「ク、クロア…」
なにを始めたのかノノには分からず、クロアに手を伸ばそうとする。
「問題ない。クロアフィートはこの穴を閉じようとしている」
「え…、そうなの?」
「ああ、本人はできるか確証がなくしているのだろうが、これで上手く収まるだろう」
「…レフェがそういうなら…」
レフェのお墨付きに安心する。そのことが聞こえていたならクロアはさらに嫉妬しただろうが、集中により聞こえてない。
「今、クロアフィートは神から与えられた力を使って修復をしようとしている。修復はただの魔力だと膨大な量を必要とするが、人が簡単に用意できるものではない。なのでクロアフィートは向こう側に行って閉じようとしていたんだろうな。修復より簡単、いやそれしか方法がないと考えていたのかもしれん。だが、クロアフィートはおのれの能力で修復を試すことにしたんだろう。それで問題ない」
「そうなんだ…」
説明を聞いたノノロリルは体の力が抜けた。そういえば家も修復していた。
「しかし、クロアフィートもあれだけのことを言っておきながら諦めるとは情けないな」
「だよな」
「お仕置きが必要か?」
「かもしれない」
元気を取り戻したノノロリルにひそかに安堵したレフェレクト。今度はわずかに崩れて柔らかい表情だ。皆クロアに視線を向けているので、誰も見ることはなかった。
力を渦全体に張り巡らせたクロアはそれを外側から変化させていく。するとじょじょに渦が縮んでいく。上手くいきそうだ。しかし簡単に渦を消すとはいかず時間がかかる。
成功しているとはいえ緊迫した雰囲気の中、疲れてきたノノロリルはレフェの大きな体にもたれて意識をなくす。
体力を回復して目覚めてもクロアは渦を消そうと頑張っていた。だいぶ小さくなった渦で、さらに時間が経つと場の空気が変わる。
「…終わったな…」
ぼそりとレフェレクトが呟くと、クロアは姿勢を崩した。
「クロア!」
「ふうっ…、ノノ、うまくいったみたいだよ」
疲れきったクロアだけど、変わらぬ笑顔を向ける。ノノロリルはクロアに抱きついた。
「クロアフィート、うまくできたようだな」
「おかげさまで、レフェのおかげだよ」
「ずいぶん疲れた様子だな。今ならたやすく消滅させることができそうだ」
「レフェ…」
魔王の挑発は、ほぼ演技だと分かってるクロアとノノは暢気に思う。レフェは他の人がいるから魔王らしく頑張ってるんだなあと。
「我にあの穴を任せればよかったものを。今の無様なやり方よりもはるかに上手くしてみせたぞ?そうすればノノロリルも我に感謝しただろうな」
レフェレクトは魔王の微笑みを付け加える。
クロアはノノロリルのことを言われたので、黒い笑みをしてみせる。
「これから先もレフェを頼る気はないよ。僕とノノロリルを引き離すことは何者にもできない」
「フッ…、例えそれが運命だったとしても、我は壊すという存在なのだぞ?まあ、弱りきった獲物を追い込んでもつまらないからな。今回は面白いものが見れただけで満足としよう」
フワリ、地面から浮かんだレフェレクトは黒いもやを出して闇の中に消えるようにしていなくなる。退場まで凝った演出しなきゃならないなんて大変だな、とノノは思い、クロアも思った。それと、2人は知っている。
運命の中にいるのは魔王も同じで、逃げられないでいるのだと。
身体の力がなくなったクロアは動くのもままならず、昨夜泊まった客室のベッドに横になる。背にクッションをあて、上半身を起こしてるので休む気は薄い。
ベッドのわきにノノロリルがイスを持ってきて座ってる。背負ってきた籠は無事フラーナに渡せた。
「…もう大丈夫か?」
「運動して疲れたのと一緒だから、休めばいいだけだよ」
「じゃあゆっくり休めよ」
「ノノロリルが側にいてくれればすぐに癒されるよ」
「……………」
反論したいがノノロリルの顔は赤い。
「ね、ノノ、これからは何が起ころうと、ノノロリルと一緒にいられることを望むようにするよ。今回のことは上手くいったけど、もし、どうしようもなかったらノノと2人で遠いところへ逃げることにする。この場合ノノが反対してもダメ」
「……お前は勇者、というか使命を行うことが望みじゃないのかよ」
大泣きしてだだこねてしまっただけにあまり強く反論できないノノロリルだが、クロアは選ばれたから使命をまっとうするのではなく、そうしたいと望んで使命をするような人なわけで、そこが気になって乱暴に尋ねた。
「もちろん。これからだって、僕のできる限りのことはするよ。ただノノが一番ってだけ。前から言ってるでしょ」
「……………ばかっ。…今回のことはお仕置きだからな」
照れて真っ赤な顔を隠す為に俯く。
「ふふふ。それはとっても楽しみだね。すぐ元気になれそうだ」
「クロアの喜ぶことするわけないだろ!」
近くにあるクロアの足をぺちりと叩く。それでも、ふふふと笑ってるクロア。
クロアは本気でノノロリルなら何されたって幸せな気分にしかならないと思う。幸せいっぱいのゆるゆるのクロア脳内だが、片隅では真剣に決意する。
ノノロリルを悲しませるような事はしないと。
今回の珍しい事象によるクロアの活躍は勇者クロアフィートの伝説として、後々語られることになるほどのこととなった。もちろん、後のことなので恋人の活躍?も語られる。
それをノノロリルが知ったなら、絶叫してクロアフィートを責めるだろう。
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