繊細な悪党

はるば草花

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番外

弱いとこ1

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あの天才魔術師に恋人ができた。

その情報の衝撃は強く、噂は爆発的に広まった。さすがに一般市民にまで流れるものではないが、貴族だと学生達にまで知られることになる。

上位学部に通っているリンメルが、その恋人だということも一部は知ることになった。


「なんだあ?」

「リ、リンメル。逃げたほうがいいよ」


学校の庭で複数の人に囲まれたリンメルとクルク。似た状況を何度か体験しているクルクは危険だとすぐに察知した。


「ひとつ聞きたいことがあるだけなんだけど、呼び出しに応じないから、こっちから来たんだよ」


相手のうちの一人の、綺麗な顔の男が相手が馬鹿リンメルだと知ってるので説明する。


「はああ? 呼び出しに応じるなんて馬鹿だろ。聞きたければ最初から来い」


馬鹿リンメルが正論っぽく煽ってくるのに、綺麗な男は切れそうになりながらも堪える。


「そうだね。では、聞きたいんだけど、信じられない噂を聞いてね。君が天才魔術師、国の至宝たる美しいウィンレイ様の恋人だなんて馬鹿馬鹿しいことはないよね?」

「あん?」


男の言葉にクルクはこんなにも早く情報が伝わってしまってることに驚愕し、そしてやはりこういうことが起きたかと、苦痛の表情を浮かべた。
当事者はまだ言葉も理解していないけど。複雑な言い方をしたからである。


「ウィンレイ?がなんだって」

「だからっ。ウィンレイ様の恋人は君かと聞いてるんだ!」

「あー。あー……。違うぞ」


面倒になるから内緒という話を思い出した。なので嘘を言ったが。このあっさりさが肯定している。キャラが違う。


「はああ?! あんたなんかがなんで、麗しいウィンレイ様の恋人になれるわけ?!」


綺麗な男以外もリンメルを批判する声をあげる。


「そうだ! そんな訳ありえない!」

「そう。違うぞ。そう言ったのに、なんでそう思い込むんだ?」


またあっさりした返しで、さらにリンメルの顔が馬鹿にしてるように見える。それが余裕からきているようにしか見えない。


「とぼけないで! あんたがウィンレイ様を騙しているに違いない。あんたみたいな不細工が側にいるというだけでありえないんだから!」

「ああん?」

「うっ、ば、馬鹿だし! 金目当てでしょ! あんたの悪事を調べ上げてさらしてやるから!」


金切り声が響く。その状況にクルクが身を固くする。相手は貴族だ。怒らせればどんな報復をされるか分からない。そしてその結果で、リンメルが愛するウィンレイと別れなければならないことになってしまうのではないかと、悲痛に感じる。


「はっ。坊っちゃん供が俺をどーこーできるとでも思ってんのか?」

「こっちは貴族だ。その違いも分からないとでも言うつもりか?」


貴族と庶民の違いは大きい。庶民をぷちりと潰すことは簡単なことだと綺麗な男は思ってる。


「何言ってる。そっちが貴族かどうかなんてたいしたことじゃない」

「は?」

「うちのウィンレイは誰よりも一番強いんだよ。お前らが束になっても無駄だぞ」


複雑なことは考えてない。こっちの陣地には最強に強い味方がいるという話だ。しかし色んな意味で攻撃力は高い。


「あんたはただの庶民だろ。あんたの悪事をウィンレイ様に言ってやるって言ってるの!」

なんとでもでっちあげるつもりだ。

「はあ? 俺のした悪事はウィンレイは全部知ってるぞ。なんとかしてくれたくらいだしな」


呼ぶ人騒動の話をしているだけであるが、それがもう、相手にクリティカルヒット。もう深い深い仲なんですと言ってるのと同じ。嘘には到底見えない。


「ふ、ふざけないでっ!」

「うおっと」


平手打ちをしてきたが、警戒していたリンメルは躱す。相手はお坊っちゃんなので余裕だ。


「リンメル!」


リンメルは強いと思ってるクルクもここまで相手を怒らせては危険だと考えた。実際に複数の人間がリンメルに向かっていく。


「はっ。坊っちゃん供は馬鹿だなあ」

「いった」


鞄に隠し持っていた短い棒を手慣れた感じで取り出したリンメルは躊躇なく相手を殴る。


「リ、リンメルっ」


貴族に怪我をさせると庶民は不利だ。


「これがどういうことか、いった」


クルクが心配するようなことを相手もわかってるが、複雑に考えないリンメルはさらに殴った。リンメルからすると防衛の範疇である。やる気ならもっとちゃんと考える。

不良同士のやり取りなんて知らない坊っちゃん達からすると狂人である。全員パニックになって逃げていった。


「リ、リンメル。大丈夫?」

「見てただろ? 俺の圧勝だ」

「それは心配してなかったよ。リンメル強いからね。そのことじゃなくて、今後もウィンレイ様の恋人ってことで色々言ってくる人がいると思うんだ。リンメルが嫌だと思うことを探してしてくると思う」

「あー…。あいつも目立つから内緒にしとけって言ってたしな。あいつの財産を狙う奴は貴族でも多いってことだろうな。まあ、大丈夫だろ。ウィンレイは強いし。全部ウィンレイにちくってやる」

「そっか。そうなんだね。すごいな」


二人がとても仲良いことは知っていたが、リンメルの言い方が深い信頼関係を感じさせる。クルクはまだまだセルツァーに甘えることはできない。
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