繊細な悪党

はるば草花

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繊細な悪党

繊細な悪党5苦い記憶

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なるべく離れて監視しようと思ったのにクリュアの野郎、こういうのよく知らないだろうから教えてあげるよとか、上からな親切心で俺を隣に座らせやがった。
俺の顔は今死んでると思う。

菓子はすげーうまそうなんだけど、他の奴は少しづつしか食わねえから、俺もがつがつ食えないし。
繊細だからな、俺。街で見かける馬鹿連中だと笑いながら好きなだけ食ってそうだ。本当、俺をこの役に選んだ奴って見る目あるな。


なに喋ってんだか全っ然わからんかった。お茶会って結局なんだ。一生分かる気がしねえ。


一応、本当に不良なくせに精神弱いリンメルは精神疲労でふらふらになりながら寮の部屋へと帰った。

監視を続けて一週間ほど経つが、とくになんの変化も情報も手に入らない。面倒になってきたリンメルであるが、食事のうまさを力に我慢する。

そしてうんざりした顔で今日も教室に行くが、今日はすぐに声をかけてくるクリュアが別の人間を構っている。不思議に思いつつ、クリュアの関心を引く人間を確認しようと近づいた。


「おや、リンメル。おはよう」

「はよ。そいつは………」

「ああ、君はまだ知らなかったね。彼は怪我で休んでいたんだよ。クルクというんだ。君と同じ庶民で優秀なんだ。クルク、この人は君がいない間にやってきたんだよ」


必要以上に長く説明をするクリュア。

クルクという生徒は見た目は普通の少年である。

クリュアの言葉で、クルクはリンメルに目を向け、少し驚いた表情を見せた。


「あ、あの…」

「あー、初めまして。同じ教室同士よろしくな?」


リンメルは動揺を悟らせないように笑顔を作って余計なことは言うなと目に込める。

リンメルと違って本当に優秀で上位学部にやってきたクルクは、リンメルの視線の意味に気づき、言おうとしたことを引っ込めて、よろしくとだけ言った。


その日、リンメルは苛立ち、クリュアの監視も放棄して、授業が終わればすぐに教室を出ていった。

その後を追う、1つの影がある。

苛立ったリンメルは廊下で関係のない生徒を睨みながら寮に帰る。
暴れたい。クリュアなんて無視して今日は街に出掛けて朝まで酒でも飲みたい。

妙に真面目なところのあるリンメルは結局それはできず、それでもイライラを解消したくて、帰ってきた部屋をすぐに出る。

しかし扉を開けてすぐに固まった。

部屋の前にはクルクがいたからだ。


「あ、リンメル。あの、ごめんなさい。リンメルと話したくて、教室を出ていくリンメルをすぐに追いかけたんだけど、とろい僕じゃ追いつかなくて…。でも、この部屋に入っていくのを見たんだ。部屋の前に待つなんて行儀が悪いかもしれないけど、話たかったし」


あわあわとそれまでの経緯を話すクルク。話すのに夢中でリンメルが睨んでいるのに気づかない。

顔を上げてやっと気づき、さらに焦る。


「あ、あの…、ごめんね? 僕と知り合いだなんて知られたくないんだよね。ちゃんと誰にも言わないし」

「…お前、俺になんの用なわけ?」


リンメルの言葉にクルクは一瞬、口を閉ざしたが、困ったように笑い、言葉にする。


「えと、あの、懐かしかったから…、話たくなって」

「俺は、懐かしくないし、会いたくなんてなかったし。もうあんま声なんてかけてくんなよ」


突き放すようなリンメルの言葉にクルクは眉を下げるが笑顔を見せる。

それが気に入らないリンメルは、大きな音をたてて部屋の中へと戻った。

不機嫌な顔のまま、リンメルは寝台の上にうつ伏せた。


リンメルとクルクは孤児院での知り合いだ。2人とも親に捨てられた。

年齢が近いこともあって、それなりの交流はあるが、リンメルは悪い連中と連んで盗みもするような子供で、クルクは大人しく孤児院の手伝いをするようないい子と、まるっきり違っているので、仲良しとはほど遠い。

リンメルはクルクを裏切っている。

よくある話で、孤児院を離れて生きていくことにした時に、クルクがお店の手伝いで稼いだお金を盗っていったのだ。

裏切られたりなんて何度もされたことのあるリンメルであるが、裏切った相手と気軽に話せる神経はしていない。

クルクは恨みごとを言ってこなくて、ただ話をしたかっただけと言う。

リンメルには理解できない行動だった。

ちょっとおかしいことのある奴だったから、おかしいんだろうと結論にした。
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