バルファ旅行記

はるば草花

文字の大きさ
上 下
37 / 49
バルファ旅行記すりー前編

すりー前編14

しおりを挟む
昨日は緒深に別に平気だとは言ったものの、ラルクスの問題を無視はできない。これでも長の息子だしな。
緒深を1人で行かせるのはとても心配ではあったが、新しく手に入れた魔法具もあるし、緒深自身の強さも十分にあるから問題はないだろう。
なにせ、騎士達に訓練を受ける前は、格闘技などもほとんど知らなかったというのに、教えてもらえばするすると覚えて、今では習って数ヶ月の人間とは思えないような強さになっている。

会計の一十はずるいと言っていたな。もともとの基礎能力が異常にいいんだろう。騎士達の見立ては、あらゆる意味で正解だったわけだ。

ラルクスの問題に関して緒深に言わなかったのは、これ以上心配してほしくなかったからだ。

訓練を受けているということは、この先嫌な事にも遭遇はするのだろうけど。できれば知ってほしくないし、俺が守りたいものだ。


俺は宿の主にシバルのことを聞き、シバルが最近よくいるという酒場へとやってきた。というか昼間から酒場とかどういうことだ。


「本気で盗賊か?」

「ちげーよ。つうか、美人さんは違うな。会っていきなりそんな言葉とはな。まあ、俺に会いたくてしかたなかったんなら仕方ない。俺の正体が気になるのも当然だろう」

「分かってて言ってるだろう。話がある」


シバルはなかなか目立つ男だ。むさ苦しい男達の中でもすぐに存在が分かったので近づいた。

女でも買ってはべらせてるかと思ったが、壁際の席で1人で酒を飲んでいて、話をじっくり聞く為にシバルの前に座る。


「おお! 今日も酌してくれんのか? やっっと俺にも運が巡ってきたな」


鼻息荒い。勘違いすんなと睨むがさらに息が激しくなった。うっとうしい。伸びてきた手は叩いた。


「つれねえ…。だが、負けねえ! いい男だって証明してやる。で、話ってなんだ?」


話を聞こうとする姿勢だけは褒めてやろう。口にはしないが。


「…それより、昨日連れていたラルクスは?」

「ああ、ジェスか。可愛くて気に入ったか? あいつならここの臭いが苦手なんで、部屋で大人しく待ってるよ」

「それはいい判断だな。それで単刀直入に聞く。あのラルクスはどこで拾った?」

「あー、もしかして調査してる関係か?」

「………あまり言いたくないが、そう捉えてもらっても構わない」


実際、犯罪に関わる職につきそうだしな。ただ、今回は個人的であるが。


「へー。それだと色々納得できる。どう見ても特級の坊ちゃんなのに、動きに無駄はないし、度胸がある。そしてこんな場所でうろつく理由もはっきりする」

「………ラルクスのことは突然知ったことだがな」


この場所にいるのはただ罠にかかりかけたせいによるもので、ただの旅人なんだが、ここは調査中と匂わせたほうがいいか?


「俺のラルクスを見て、か。いいぜ。見返りくれんなら、いい情報もやるよ?」


にやりと嫌らしく口角を上げるシバルの望みは俺達の身体ってとこか。どこかの調査員だと身体くらい使うらしいからな。それは何があろうと緒深にはさせないぞ。


「気色悪いこと言うな。さっさっと言え」

「セイナ、だっけ? まだあんまり駆け引き上手じゃねえな」

「分かってる。そしてこの先もうまくはなるまい。性分だ。そうだな。借り、とする。それでどうだ」

「へー、それもけっこう高くつくぜ?」

「高く払うのは考えなくもないが、お前が喜ぶものは与える気はない」

「ちっ。やっぱ俺にはこういう運がないな。会って尊敬されてもふられんだよな。いいぜ。美人さん2人はかなり気に入ったんだ。ラルクスの情報ならいくらでもやるよ」

「…ありがとう」


なんだ、思ったより早く話してくれそうでよかった。


「うおっ。つんつんからのそんな顔たまらん」


おかしな言葉も聞き流してやろう。早く言わないなら強行手段に出たかもしれないが、ラルクスを保護してくれた恩人にあまり手荒な手は使いたくなかったんだよな。


「…それで」

「戻るの早いなあ。うちのラルクス、ジェスを拾った場所はなんにも関係ねえよ。ここよりずっと遠い大河の港街にいたんだしな。セイナが欲しい情報は、取引した連中だろ? 俺も職業柄、多少そういった情報は入ってくる。依頼もないんで確かめたことはないが、幻獣を取引している場所なら、この街から近いようだ」­­

「…本当のことか?」­­­­

「セイナはここらに来たのは初めてか?ここらじゃ幻獣を売り買いしてるなんて話、誰も普通に知っている。国があまり調査できない場所なんでな。幻獣は普通の獣と同じで、売っても別に問題なんてないだろうという考えの奴が大半なくらいだ」

「………………」


それは聞いたことがある。しかし、はっきり聞くと言葉を失うな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もう一度、貴方に出会えたなら。今度こそ、共に生きてもらえませんか。

天海みつき
BL
 何気なく母が買ってきた、安物のペットボトルの紅茶。何故か湧き上がる嫌悪感に疑問を持ちつつもグラスに注がれる琥珀色の液体を眺め、安っぽい香りに違和感を覚えて、それでも抑えきれない好奇心に負けて口に含んで人工的な甘みを感じた瞬間。大量に流れ込んできた、人ひとり分の短くも壮絶な人生の記憶に押しつぶされて意識を失うなんて、思いもしなかった――。  自作「貴方の事を心から愛していました。ありがとう。」のIFストーリー、もしも二人が生まれ変わったらという設定。平和になった世界で、戸惑う僕と、それでも僕を求める彼の出会いから手を取り合うまでの穏やかなお話。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

公爵様のプロポーズが何で俺?!

雪那 由多
BL
近衛隊隊長のバスクアル・フォン・ベルトランにバラを差し出されて結婚前提のプロポーズされた俺フラン・フライレですが、何で初対面でプロポーズされなくてはいけないのか誰か是非教えてください! 話しを聞かないベルトラン公爵閣下と天涯孤独のフランによる回避不可のプロポーズを生暖かく距離を取って見守る職場の人達を巻き込みながら 「公爵なら公爵らしく妻を娶って子作りに励みなさい!」 「そんな物他所で産ませて連れてくる!  子作りが義務なら俺は愛しい妻を手に入れるんだ!」 「あんたどれだけ自分勝手なんだ!!!」 恋愛初心者で何とも低次元な主張をする公爵様に振りまわされるフランだが付き合えばそれなりに楽しいしそのうち意識もする……のだろうか?

華麗に素敵な俺様最高!

モカ
BL
俺は天才だ。 これは驕りでも、自惚れでもなく、紛れも無い事実だ。決してナルシストなどではない! そんな俺に、成し遂げられないことなど、ないと思っていた。 ……けれど、 「好きだよ、史彦」 何で、よりよってあんたがそんなこと言うんだ…!

欲情列車

ソラ
BL
無理やり、脅迫などの描写があります。 1話1話が短い為、1日に5話ずつの公開です。

処理中です...