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バルファ旅行記すりー前編
すりー前編14
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昨日は緒深に別に平気だとは言ったものの、ラルクスの問題を無視はできない。これでも長の息子だしな。
緒深を1人で行かせるのはとても心配ではあったが、新しく手に入れた魔法具もあるし、緒深自身の強さも十分にあるから問題はないだろう。
なにせ、騎士達に訓練を受ける前は、格闘技などもほとんど知らなかったというのに、教えてもらえばするすると覚えて、今では習って数ヶ月の人間とは思えないような強さになっている。
会計の一十はずるいと言っていたな。もともとの基礎能力が異常にいいんだろう。騎士達の見立ては、あらゆる意味で正解だったわけだ。
ラルクスの問題に関して緒深に言わなかったのは、これ以上心配してほしくなかったからだ。
訓練を受けているということは、この先嫌な事にも遭遇はするのだろうけど。できれば知ってほしくないし、俺が守りたいものだ。
俺は宿の主にシバルのことを聞き、シバルが最近よくいるという酒場へとやってきた。というか昼間から酒場とかどういうことだ。
「本気で盗賊か?」
「ちげーよ。つうか、美人さんは違うな。会っていきなりそんな言葉とはな。まあ、俺に会いたくてしかたなかったんなら仕方ない。俺の正体が気になるのも当然だろう」
「分かってて言ってるだろう。話がある」
シバルはなかなか目立つ男だ。むさ苦しい男達の中でもすぐに存在が分かったので近づいた。
女でも買ってはべらせてるかと思ったが、壁際の席で1人で酒を飲んでいて、話をじっくり聞く為にシバルの前に座る。
「おお! 今日も酌してくれんのか? やっっと俺にも運が巡ってきたな」
鼻息荒い。勘違いすんなと睨むがさらに息が激しくなった。うっとうしい。伸びてきた手は叩いた。
「つれねえ…。だが、負けねえ! いい男だって証明してやる。で、話ってなんだ?」
話を聞こうとする姿勢だけは褒めてやろう。口にはしないが。
「…それより、昨日連れていたラルクスは?」
「ああ、ジェスか。可愛くて気に入ったか? あいつならここの臭いが苦手なんで、部屋で大人しく待ってるよ」
「それはいい判断だな。それで単刀直入に聞く。あのラルクスはどこで拾った?」
「あー、もしかして調査してる関係か?」
「………あまり言いたくないが、そう捉えてもらっても構わない」
実際、犯罪に関わる職につきそうだしな。ただ、今回は個人的であるが。
「へー。それだと色々納得できる。どう見ても特級の坊ちゃんなのに、動きに無駄はないし、度胸がある。そしてこんな場所でうろつく理由もはっきりする」
「………ラルクスのことは突然知ったことだがな」
この場所にいるのはただ罠にかかりかけたせいによるもので、ただの旅人なんだが、ここは調査中と匂わせたほうがいいか?
「俺のラルクスを見て、か。いいぜ。見返りくれんなら、いい情報もやるよ?」
にやりと嫌らしく口角を上げるシバルの望みは俺達の身体ってとこか。どこかの調査員だと身体くらい使うらしいからな。それは何があろうと緒深にはさせないぞ。
「気色悪いこと言うな。さっさっと言え」
「セイナ、だっけ? まだあんまり駆け引き上手じゃねえな」
「分かってる。そしてこの先もうまくはなるまい。性分だ。そうだな。借り、とする。それでどうだ」
「へー、それもけっこう高くつくぜ?」
「高く払うのは考えなくもないが、お前が喜ぶものは与える気はない」
「ちっ。やっぱ俺にはこういう運がないな。会って尊敬されてもふられんだよな。いいぜ。美人さん2人はかなり気に入ったんだ。ラルクスの情報ならいくらでもやるよ」
「…ありがとう」
なんだ、思ったより早く話してくれそうでよかった。
「うおっ。つんつんからのそんな顔たまらん」
おかしな言葉も聞き流してやろう。早く言わないなら強行手段に出たかもしれないが、ラルクスを保護してくれた恩人にあまり手荒な手は使いたくなかったんだよな。
「…それで」
「戻るの早いなあ。うちのラルクス、ジェスを拾った場所はなんにも関係ねえよ。ここよりずっと遠い大河の港街にいたんだしな。セイナが欲しい情報は、取引した連中だろ? 俺も職業柄、多少そういった情報は入ってくる。依頼もないんで確かめたことはないが、幻獣を取引している場所なら、この街から近いようだ」
「…本当のことか?」
「セイナはここらに来たのは初めてか?ここらじゃ幻獣を売り買いしてるなんて話、誰も普通に知っている。国があまり調査できない場所なんでな。幻獣は普通の獣と同じで、売っても別に問題なんてないだろうという考えの奴が大半なくらいだ」
「………………」
それは聞いたことがある。しかし、はっきり聞くと言葉を失うな。
緒深を1人で行かせるのはとても心配ではあったが、新しく手に入れた魔法具もあるし、緒深自身の強さも十分にあるから問題はないだろう。
なにせ、騎士達に訓練を受ける前は、格闘技などもほとんど知らなかったというのに、教えてもらえばするすると覚えて、今では習って数ヶ月の人間とは思えないような強さになっている。
会計の一十はずるいと言っていたな。もともとの基礎能力が異常にいいんだろう。騎士達の見立ては、あらゆる意味で正解だったわけだ。
ラルクスの問題に関して緒深に言わなかったのは、これ以上心配してほしくなかったからだ。
訓練を受けているということは、この先嫌な事にも遭遇はするのだろうけど。できれば知ってほしくないし、俺が守りたいものだ。
俺は宿の主にシバルのことを聞き、シバルが最近よくいるという酒場へとやってきた。というか昼間から酒場とかどういうことだ。
「本気で盗賊か?」
「ちげーよ。つうか、美人さんは違うな。会っていきなりそんな言葉とはな。まあ、俺に会いたくてしかたなかったんなら仕方ない。俺の正体が気になるのも当然だろう」
「分かってて言ってるだろう。話がある」
シバルはなかなか目立つ男だ。むさ苦しい男達の中でもすぐに存在が分かったので近づいた。
女でも買ってはべらせてるかと思ったが、壁際の席で1人で酒を飲んでいて、話をじっくり聞く為にシバルの前に座る。
「おお! 今日も酌してくれんのか? やっっと俺にも運が巡ってきたな」
鼻息荒い。勘違いすんなと睨むがさらに息が激しくなった。うっとうしい。伸びてきた手は叩いた。
「つれねえ…。だが、負けねえ! いい男だって証明してやる。で、話ってなんだ?」
話を聞こうとする姿勢だけは褒めてやろう。口にはしないが。
「…それより、昨日連れていたラルクスは?」
「ああ、ジェスか。可愛くて気に入ったか? あいつならここの臭いが苦手なんで、部屋で大人しく待ってるよ」
「それはいい判断だな。それで単刀直入に聞く。あのラルクスはどこで拾った?」
「あー、もしかして調査してる関係か?」
「………あまり言いたくないが、そう捉えてもらっても構わない」
実際、犯罪に関わる職につきそうだしな。ただ、今回は個人的であるが。
「へー。それだと色々納得できる。どう見ても特級の坊ちゃんなのに、動きに無駄はないし、度胸がある。そしてこんな場所でうろつく理由もはっきりする」
「………ラルクスのことは突然知ったことだがな」
この場所にいるのはただ罠にかかりかけたせいによるもので、ただの旅人なんだが、ここは調査中と匂わせたほうがいいか?
「俺のラルクスを見て、か。いいぜ。見返りくれんなら、いい情報もやるよ?」
にやりと嫌らしく口角を上げるシバルの望みは俺達の身体ってとこか。どこかの調査員だと身体くらい使うらしいからな。それは何があろうと緒深にはさせないぞ。
「気色悪いこと言うな。さっさっと言え」
「セイナ、だっけ? まだあんまり駆け引き上手じゃねえな」
「分かってる。そしてこの先もうまくはなるまい。性分だ。そうだな。借り、とする。それでどうだ」
「へー、それもけっこう高くつくぜ?」
「高く払うのは考えなくもないが、お前が喜ぶものは与える気はない」
「ちっ。やっぱ俺にはこういう運がないな。会って尊敬されてもふられんだよな。いいぜ。美人さん2人はかなり気に入ったんだ。ラルクスの情報ならいくらでもやるよ」
「…ありがとう」
なんだ、思ったより早く話してくれそうでよかった。
「うおっ。つんつんからのそんな顔たまらん」
おかしな言葉も聞き流してやろう。早く言わないなら強行手段に出たかもしれないが、ラルクスを保護してくれた恩人にあまり手荒な手は使いたくなかったんだよな。
「…それで」
「戻るの早いなあ。うちのラルクス、ジェスを拾った場所はなんにも関係ねえよ。ここよりずっと遠い大河の港街にいたんだしな。セイナが欲しい情報は、取引した連中だろ? 俺も職業柄、多少そういった情報は入ってくる。依頼もないんで確かめたことはないが、幻獣を取引している場所なら、この街から近いようだ」
「…本当のことか?」
「セイナはここらに来たのは初めてか?ここらじゃ幻獣を売り買いしてるなんて話、誰も普通に知っている。国があまり調査できない場所なんでな。幻獣は普通の獣と同じで、売っても別に問題なんてないだろうという考えの奴が大半なくらいだ」
「………………」
それは聞いたことがある。しかし、はっきり聞くと言葉を失うな。
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