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4 おまじない

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 萌樹は、手にした三枚の『絵』をまじまじと眺めながら、蒼の病室へと向かった。

 二十二時。

 本来は、面会時間外だが、以前のバイトでこの病院の食堂に居たことがある。時間外でも出入り出来る場所……しかも、セキュリティキーが不要な場所があるのを、知っていたのが幸いだった。

 夜の病院へ忍びこむ。

 最初は、少し不気味だったが、今は、見回りの看護師に見つからないか、だけ気にすれば、大方のことは問題なかった。

 病室は通い慣れている。

 やや、緊張しながら、萌樹は病室へと立ち入る。二十四時間、点滴を付けたままにしてあるのは、栄養補給のためだ。蒼は、顔色も悪く、大分、痩せていた。事故に遭う前は、髪はそう長くなかったはずだが、今は、酷く、長い。落ち武者みたいだ、と萌樹は思う。

(本当に、獏なんか来てくれるのかね)

 獏。

 悪夢を喰らう、伝説上の生き物だ――というのは、インターネットで調べてみたら、出てきた。姿を描いた紙を枕の下に入れて寝れば良いというのも、書いてあった。おそらく、その程度のまじないなのだろう。

(それなら、それで……)

 気は静まる。と考えた時、萌樹はハッとした。

 気が静まるのは、何かを『してやった』という、自分自身の、卑しい気持ちではないのかと。自分の気が済めば良いのか。純粋に、友人を助けたいという気持ちではなく……。一瞬、過った考えを、一度頭を振って否定する。

(自己満なら自己満で良いじゃねぇか)

 このまま眠り続けたら、蒼は死ぬだろう。その時、何もしなかったら、きっと、萌樹が後悔する。それだけだ。それがないだけで、十分だろう。

 これは、自分のための行動だ。

 そう決めただけで、迷いが消えた。

 枕の下に、あの雑貨屋で交換して貰った、絵を入れる。

 しばらく待ったが、何も起きない。

(ま、当然か)

 夢の中に、獏が出てきて、そして悪夢を食べているのだろう。

 萌樹は、獏の姿を想像した。同じ名前の獣の姿で。アリクイのように、鼻が長くて、頭から肩の辺りまでと、四本の足だけが黒くて、残りは白い身体をした、豚や猪に似た形をした動物だ。大きさは、写真では解らなかったが、そう、大きな生き物ではないような気もする。

 白と黒のツートンカラー。

 中々、愛嬌がある。

 きっと、蒼の夢の中で、もの凄い勢いで悪夢を食べるのだ。

「結構、可愛いかも知れないな」

 ははっと笑った時だった。

 枕の下が、ほの青い燐光を放ち始めた。

「えっ、なんだ、これ……っ!」

 光は、枕の下から、部屋中に溢れる。

「……蒼っ!」

 親友を案じて、手を伸ばそうとしたが、青い光に手をはじかれた。

「っ! 痛っ……、な、んだよ、これ……」

 青い光が、一カ所に集まっていく。ゆっくりと、それは、人の形を取り始めた。唖然としている萌樹の前で、彼は、気だるげに、視線を萌樹に向けた。

「……そなたが、呼んだか?」

 低く、まろい声が、さざ波のように病室に広がっていった。





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