上 下
8 / 22

8

しおりを挟む


「ちょっ……、ほ、本当に、も……」

 切羽詰まった声を上げながら、啓司は蓮の髪を掴んだ。

(あ……)

 啓司の指がかすかに頭皮に触れる。それと同時に夢想したのは、髪を乱暴に掴まれ、無理矢理口の奥まで熱く滾る欲望を突っ込まれるものだった。能動的に、啓司に犯されているような、そんな、淫靡な構図になる。髪を掴まれている間に、喉の奥まで届くように口に含んで出し入れを続けていると、どうしようもないほどに興奮してきた。

 口の中が、気持ち良くて、全身の熱が身体の中心に集まってくる。

「ん、あ……っ、んっ……」

 出し入れしていると、口のなかの粘膜が刺激される。その度、声が、漏れてしまう。今まで、聞いたことのない自分の甘い声にも、頭がくらくらしてくる。

「ちょ……も、本当に。限界っ……」

 啓司の太腿が一瞬強ばる。ぶるっと口の中の器官が震えて、先端からほとばしった体液が、口の中に溢れる。

「んっ……」

 喉の奥に吐き出されたせいで、噎せそうになったが、なんとかこらえて必死に嚥下する。粘度のある、重たい液体だった。

「ん、……ふ、あっ……凄い……沢山出た」

 全身がふわふわしている。口の中で体感する快楽を、蓮は知らなかった。快楽の真っ只中にいるため、何もかも、気持ちが良くてぼんやりしている。

「お前……また、それ……」

「精液? 飲んじゃった……好きな味じゃないけど……なんか、凄く好き」

 蓮はまた、啓司の中心を手に取る。中途半端に立ち上がっているそれは、精液で汚れていた。

「鷲尾くん、綺麗にするね?」

 両手で捧げ持って、根元から先端までゆっくりと舐めあげる。

「く……っ……あ、ちょ……鳩ヶ谷……!!」

 達したばかりで敏感になっているそこを、ゆっくりと舐めあげる。根元から舐めあげて、時々、先端に固く尖らせた舌を、差し込む。

「あ、くっ……ちょ……もう……っ!」

「だめ、早い。もっと、もっと、鷲尾くんの、これ、味わいたいの」

 蓮は、そう、懇願する。

 口でするのには、満足してくれたのだろう。もっと、してみたくなった。そして、啓司自身に舌を這わせてみたくなったのだった。

 根元からゆっくりと。くびれのあたりはもっと念入りに舐めあげていくと、果てたばかりのそれが、すぐに硬度を取り戻す。

「あ……、鳩ヶ谷……っ」

 切羽詰まった声で、啓司が叫ぶように言う。

「なに?」

 ことさら愉快な気持ちになりながら、蓮も返事をする。いつもより声が、楽しそうなことに、蓮自身、少し驚いた。

「だ……から……も、ダメだ……って」

 啓司の手が、蓮の頭を捉えて引き剥がそうとする。けれど、蓮も、まだ離れるつもりはなかった。

「鷲尾くん、僕、下手?」

「ち、が……そうじゃなくて……っ」

 雄々しく欲望を主張する器官に、蓮は頬ずりさえしたいような気持ちだった。今、この瞬間、これは蓮だけのものだし、この昂りを作り出したのは蓮だ。そのことに薄暗い満足がある。

 くびれのところを、ぱくっと口に含む。今度は出し入れはしない。そのまま、舌で、好きなようにそこを嬲った。円を描くようにしたり、固く尖らせた舌先で先端をいじったりしているうちに、口の中に、先走りが溢れて来るのがわかった。

「あ……っ……も、本当にっ……っ!」

 啓司の手が乱暴に、蓮の頭を掴む。その瞬間、堪えられなかった啓司の欲望が弾けた。吐き出された白濁は、容赦なく蓮の顔を汚す。

「鷲尾くん、これが、したかったなら、言ってくれればよかったのに」

「ち、……そういう、つもりじゃ……」

 慌てて、啓司は服の袖で蓮の顔を拭う。

「ちょ……っと! 痛いんですけど!?」

「あ、ごめん、その……まだ、汚れてるんだけど……」

「さすがに、このままじゃ帰れないから……ちょっと、タオル貸して?」

「あ! うん。待って」

 走り出そうとした啓司が、ベタン、と床に倒れ込む。脚から力が抜けたのだろうが、中途半端に下ろされたパンツのせいで足がもつれたのだ。

「痛っ……っ」

「ちょっと、大丈夫? そんなに、慌てなくても大丈夫なのに」

 蓮は思わず笑ってしまった。下ろされたパンツと下着を引っ掛けたままで、尻を丸出しに転ぶ様子は、あまりにも滑稽だ。

「笑うなよ」

 少し不機嫌そうな声が、した。

「ごめん。だって、面白かったんだもん。立てる?」

「立てるよ……」

 そういってから啓司はパンツと下着を着直して、タオルを、手に戻ってきた。

 大浴場はあるものの、寮は個室で、シャワースペースくらいはある。学生寮として破格の贅沢であるのは間違いないが、人と一緒に風呂に入るのが嫌な場合もあるだろうからこれでいいのかもしれない。

 柔らかなタオルで顔を拭き取り、蓮は啓司に向き合う。啓司は、申し訳なさそうな、顔をしていた。

「鷲尾くんは、顔射って、好き? アダルトものだと、あると興奮する?」

 だいぶあけすけに聞くと、啓司がこれ以上ないというほど、顔を赤くして俯いた。

「そ、それは……」

 その、態度が雄弁な答えに見えた。

「ね」

 と言いつつ蓮は距離を詰める。啓司が後ずさる。ベッドまで下がったとき、啓司は、あからさまに狼狽えていた。

「僕で良ければ、していいよ?」

「は、はあっ!? なんでっ!?」

「僕も、口でするの、好きみたいだし。今までで一番気持ちよかった……」

「される、わけじゃないのに?」

「凄く、気持ちよかったの。だから……鷲尾くんがして欲しいときに呼んで? そうしたら、また、口でして、顔に出して良いから。今度はウエットティッシュを持ってくるね」

 啓司は、しばし、躊躇っているようだった。

「僕と鷲尾くんは、これしかしない……なら、お互い都合は良いでしょ?」

 ダメ押しでいうと、啓司は「うん」と言って、折れた。

 自由に啓司に触れることが出来る。それは一瞬のことかもしれないが、それでも、蓮は、満ち足りた気分だった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染から離れたい。

じゅーん
BL
アルファの朔に俺はとってただの幼馴染であって、それ以上もそれ以下でもない。 だけどベータの俺にとって朔は幼馴染で、それ以上に大切な存在だと、そう気づいてしまったんだ。 βの谷口優希がある日Ωになってしまった。幼馴染でいられないとそう思った優希は幼馴染のα、伊賀崎朔から離れようとする。 誤字脱字あるかも。 最後らへんグダグダ。下手だ。 ちんぷんかんぷんかも。 パッと思いつき設定でさっと書いたから・・・ すいません。

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

不良×平凡 オメガバース

おーか
BL
自分のことをβだと思っていた…。αやΩなんてβの自分には関係ない。そう思っていたんだけどなぁ…? αとΩを集めた学園に入学することになった。そこで出会ったのは、学園を仕切るGRACEのナンバー2。 不良×平凡で書いたキャラクターを引き継いで、オメガバースを書いて行きます。読んでなくても大丈夫です。

恋のキューピットは歪な愛に招かれる

春於
BL
〈あらすじ〉 ベータの美坂秀斗は、アルファである両親と親友が運命の番に出会った瞬間を目の当たりにしたことで心に深い傷を負った。 それも親友の相手は自分を慕ってくれていた後輩だったこともあり、それからは二人から逃げ、自分の心の傷から目を逸らすように生きてきた。 そして三十路になった今、このまま誰とも恋をせずに死ぬのだろうと思っていたところにかつての親友と遭遇してしまう。 〈キャラクター設定〉 美坂(松雪) 秀斗 ・ベータ ・30歳 ・会社員(総合商社勤務) ・物静かで穏やか ・仲良くなるまで時間がかかるが、心を許すと依存気味になる ・自分に自信がなく、消極的 ・アルファ×アルファの政略結婚をした両親の元に生まれた一人っ子 ・両親が目の前で運命の番を見つけ、自分を捨てたことがトラウマになっている 養父と正式に養子縁組を結ぶまでは松雪姓だった ・行方をくらますために一時期留学していたのもあり、語学が堪能 二見 蒼 ・アルファ ・30歳 ・御曹司(二見不動産) ・明るくて面倒見が良い ・一途 ・独占欲が強い ・中学3年生のときに不登校気味で1人でいる秀斗を気遣って接しているうちに好きになっていく ・元々家業を継ぐために学んでいたために優秀だったが、秀斗を迎え入れるために誰からも文句を言われぬように会社を繁栄させようと邁進してる ・日向のことは家族としての好意を持っており、光希のこともちゃんと愛している ・運命の番(日向)に出会ったときは本能によって心が惹かれるのを感じたが、秀斗の姿がないのに気づくと同時に日向に向けていた熱はすぐさま消え去った 二見(筒井) 日向 ・オメガ ・28歳 ・フリーランスのSE(今は育児休業中) ・人懐っこくて甘え上手 ・猪突猛進なところがある ・感情豊かで少し気分の浮き沈みが激しい ・高校一年生のときに困っている自分に声をかけてくれた秀斗に一目惚れし、絶対に秀斗と結婚すると決めていた ・秀斗を迎え入れるために早めに子どもをつくろうと蒼と相談していたため、会社には勤めずにフリーランスとして仕事をしている ・蒼のことは家族としての好意を持っており、光希のこともちゃんと愛している ・運命の番(蒼)に出会ったときは本能によって心が惹かれるのを感じたが、秀斗の姿がないのに気づいた瞬間に絶望をして一時期病んでた ※他サイトにも掲載しています  ビーボーイ創作BL大賞3に応募していた作品です

【短編】無理矢理犯したくせに俺様なあいつは僕に甘い

cyan
BL
彼は男女関係なく取り巻きを従えたキラキラ系のイケメン。 僕はそんなキラキラなグループとは無縁で教室の隅で空気みたいな存在なのに、彼は僕を呼び出して無理矢理犯した。 その後、なぜか彼は僕に優しくしてくる。 そんなイケメンとフツメン(と本人は思い込んでいる)の純愛。 ※凌辱シーンはサラッと流しています。 ムーンライトノベルズで公開していた作品ですが少し加筆しています。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

元会計には首輪がついている

笹坂寧
BL
 【帝華学園】の生徒会会計を務め、無事卒業した俺。  こんな恐ろしい学園とっとと離れてやる、とばかりに一般入試を受けて遠く遠くの公立高校に入学し、無事、魔の学園から逃げ果すことが出来た。  卒業式から入学式前日まで、誘拐やらなんやらされて無理くり連れ戻されでもしないか戦々恐々としながら前後左右全ての気配を探って生き抜いた毎日が今では懐かしい。  俺は無事高校に入学を果たし、無事毎日登学して講義を受け、無事部活に入って友人を作り、無事彼女まで手に入れることが出来たのだ。    なのに。 「逃げられると思ったか?颯夏」 「ーーな、んで」  目の前に立つ恐ろしい男を前にして、こうも身体が動かないなんて。

処理中です...