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しおりを挟む目の前の光景に、鳩ヶ谷蓮は、驚いて、眼の前の男が手にしている『それ』から目を離すことが出来なくなっていた。学生寮の一室。同級生の、鷲尾啓司の個室だった。蓮の部屋より少し広い、シンプルな部屋だった。そして、その、ベッドの端に啓司は、腰を下ろしている。
「別に、珍しいもんでもないでしょ? あんたにも、ついてるんだし」
普段、教室で見かけるよりも、熱っぽく潤んだ眼差しをしながら、啓司は顔を歪めて笑った。柔らかそうな栗色の髪に、鼻筋が通って整った顔立ち。それが、歪んで、自嘲するように笑っていた。
「優等生の割に、マナーはなってないんだな。ノックもしないで部屋に入るなんて」
啓司が手を動かす。上下に。自身の欲望を手の中に収めたまま。
石になったように動けないでいた蓮だったが、はた、と気がついたようだった。
「え、と……本。間違えて、鷲尾くんのを持って帰ってしまったから……机の上に置く、ね。あと、ノックをしなかったのはごめん。家の感覚がまだ抜けなくて。友達もいなかったし、習慣になってなくて」
「なんでもいいけど」
出来ればとっとと出ていけ、というような要求が、言外に滲んでいる。不機嫌なのは、当たり前だろう。彼の欲望は、もっと、強い刺激を求めて、頼りなく、震えている。
「あの、邪魔したお詫びに」
蓮は、取り違えた本を机の上に置く。片付いた机だった。教科書も参考書もない。小動物のようにちょこまかと動き、そして、ベッドの端に腰をおろしている啓司の横に座った。
「はあっ? なに、座ってんだよ」
「……邪魔、したお詫びに、僕が……するよ」
啓司は、目を丸くして素っ頓狂な、声を上げた。
「はあっ!?」
「自分でするより、人にしてもらったほうが、気持ちいいって……聞いたけど」
蓮の細くて綺麗な指が、啓司の先端に触れる。
「っ……!」
小さく呻いて、啓司が一瞬、目を瞑る。
「あ、良かった。僕の手でも、大丈夫そう、だよね。僕は、そんなに自分ではしないけど……」
啓司の手を退けて、蓮は、それを手で包み込む。
「凄い……僕のより、大き……」
素直な感想を呟きながら、蓮は、手をゆっくりと上下させる。一瞬、啓司が、身を固くしたのがわかった。
「気持ち、悪いですか?」
「……そういう、わけじゃないけど……なんで、あんたが」
その言葉に滲む、『あんたみたいな優等生が』というニュアンスを感じて、蓮は自嘲めいた笑みを浮かべた。
「特に深い意味はないから、安心して。ただ……」
そうだな、と蓮は言い訳を考える。うまい言い訳は出てこなかったが、「こういうことには、興味はあるでしょ?」とだけ答えておいた。
その答えが正解だったか、わからない。
だが、啓司は黙った。蓮は、手の中で張り詰めて、もっと確かな刺激を欲しがっている、その欲張りな器官に集中した。自分のものとは、だいぶ違う気がした。自分のものよりも。もっと雄々しい。充血して、脈打っているのがわかる。
この、興奮は自分の手が招いたものだと思ったら、この器官が愛しくなった。
啓司が、小さく呻いて喉を跳ね上げる。快を得ているのだ。それに、蓮はほっとした。
こんなことを、するつもりはなかった。けれど、啓司にはずっと、淡い憧れがあった。蓮は、彼の視界にも入っていないことを知っていたし、彼の興味を惹くような人間でない、とは思っていたので、こうして、触れることが出来ただけでも、一生の思い出になると、本気で思う。
(ああ……口、でしたら、引かれるかな……)
本当は口で愛撫してみたいし、もし、可能なら、一回限りの思い出でも良いから、この熱を、最奥に受けて見たかった。
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