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第9話 ♪ダンジョンBGM【真実を照らす】
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ルテット達は『ミルディンの塔』に到着した。ゲーム時において、ここで主人公はファーレン王国のモルテット王から課された勇者の試練に挑み、それを果たす事で晴れて正式に勇者の称号を得る。物語序盤の重要地点である。
「コレットさん。王家所有の塔を壊す許可、国王陛下に取り付けて頂きありがとうございました」
「いえ、既に勇者アルト様が旅立った以上、この塔は役目を終えておりますので。それに許可と言っても最終確認が私に委ねられただけです。本当に壊すのならば、この塔の中にバルダン鉱石が埋め込まれている証拠を示して頂かねばなりません」
「はい。ここも王城や町の様に魔奏の共鳴が起こるはずです。という事は、バルダン鉱石が壁の中に埋め込まれている証拠。それでよろしいですね?」
「ええ。もちろんです」
塔の中へ入ってみた。これと言って何か仕掛けがあるわけでもなく奥に2階へと続く階段があるだけのシンプルな構造。上から見ろしてたゲームの時と視点は違うが、ほぼ何もない事に変わりはない。
ん?でも、待てよ。何かが足りないような。辺りを見回してみたがその正体に気付く事は出来なかった。気のせいだろうか……。
「ルテット殿、いかがされました?」
「いえ、何でもありません。すぐに魔奏を始めますので」
今はコレット姫に魔奏の共鳴を起こして見せる方が先だ。ダンジョンBGM【闇の中の真実】の魔奏を始めてみる。
どこか暗くおどろおどろした感じのある曲は、どんな仕掛けがあるかわからないダンジョンに潜った時の緊張感を煽ってくる感じがする。それだけに注意深く用心しながら先へ進もうという気分になる。
そして、どこか危険な香りが漂うその曲は塔の壁の内側から噴き出し始めていた。魔奏の共鳴が起きたのを確かめたコレット姫は大きく頷いた。これでバルダン鉱石を採り出す許可は下りた。
鍛冶師のバステさんは音を頼りに鉱石が埋め込まれている位置に目星を付けている。後でそこに被害が及ばない様に計算して爆薬を仕掛けて塔を破壊する。
ところでダンジョンBGMの効果は何だったのだろう?何かステータスが強化された様子もなければ塔に目立って変化が起きたわけでもない。
「あそこを見て下さい! さっきまで何もなかったはずですよね?」
薬法師のルイドさんが指さした先には宝箱があった。確かにさっきまでなかった……、いや、違う。そもそもあったはず。
最初に塔の1階を見回した時に感じた何か足りないものの正体がこれだ。ゲームの時、確かにあの場所に宝箱が置かれていたはずだ。つまり、急に沸いて出たのではなく見えなかったものが見える様になった?ダンジョンBGM【闇の中の真実】の効果はこれか。
「塔や迷宮の中で隠れているものが見える様になる。それがさっき魔奏した【闇の中の真実】の効果です」
「なるほど~~。私、薬の材料になる物を見つける為に地面ばかり注意してしまう癖があるんです。急に様子が変わったからおかしいなと思ったらそういう事でしたか」
宝箱を開けた。中に入っていたものは『勇気のペンダント』、もちろん俺はその使い方をよく知っていた。装備品の一種だが防御力を上げるとか魔法力を高めるといった効果はない。ただ、身に付けている者の死亡を1回だけ防いで砕け散る。主人公は初めてのボス戦で強制敗北イベントを食らうがペンダントに助けられて通常バトルとして仕切り直し。
勇者アルトはそんな重要アイテムを持たずに初のボス戦に挑み敗れた。そして、身代わりとなったのは戦士ガルザスという事か……。
主人公の用事である勇者の試練とは随分違ったものになったが、これで『ミルディンの塔』でやるべき俺達の用事は済んだ。塔を出ようとした時、ふと振り返って上の階へ続く階段に目をやった。
「確か、ルテット殿はここに来るのは初めてでしたね? それなのに、どうしてそんなに懐かしがる様な優しい目で階段を見上げているのでしょう?」
「えぇと。この辺りって本来なら立ちいるには王家の許可がいるのでしたよね? そんな所に私の様な者が立ってるのをしみじみと噛み締めていただけですよ」
本当は違う。何と言うか人生における思い出の地、ゲームの中の架空の場所ではあったけどそう呼んでいい。ここで大切な事を1つ学んだ気がする、そんな場所だからだ。
勇者の試練で出された課題は『ミルディンの塔』最上層にある蒼き炎を持ち帰る事。と言っても、塔はわずか3層しかなく魔物も出ないので蒼き炎に辿り着くまでは簡単だった。
炎の前には普通の松明、高価なランプ、安物のロウソクが置かれていてその中の1つを選んで炎を移す事になる。こういう時はきっとこれだろうと安物のロウソクに蒼き炎を移し塔を出ると、それが消えてしまったとメッセージウインドウで通知される。
中に戻って普通の松明も高価なランプも試してみるが結果は同じ。何か他に条件でもあるのかな?と塔の中を隈なく探して回って、結局何も見つからず……。
じゃあ、そもそも王から課題が出されたのメッセージに何か見落としたあったのでは?と考えて、王の下へ戻ってやり直そうとすると。
「そなたは何回も塔に戻って同じ試みをしたのであろう? そして、何か聞き逃した事でもないかとここへ戻って来たのではないか?」
その様な言葉を返され、「えっ……」となる。
「そなたはこの先で幾度も困難にぶつかるであろう。しかし、諦めずに挑み続け。それでもだめならば時には引き返してやり直す。前へ進むとは単純に前へ前へというわけではないのだ。その考えが心の中に灯ったのであればそなたを勇者と認めよう!」
全ては王の手の平の上、シナリオライターの手の平の上。足踏み状態で続く数時間のプレイ時間と引き換えで、何かに行き詰った時の基礎心構えみたいなものを教わるのである。
そんなわけで、ミルザの町で行き詰り、それを何とかする為にスタート地点まで戻ってミルディンの塔を訪れる事を思いついた時には奇妙なものだと思った。ミルディンの塔で教わった事を活かして、その塔を壊そうというのだから。
「コレットさん。王家所有の塔を壊す許可、国王陛下に取り付けて頂きありがとうございました」
「いえ、既に勇者アルト様が旅立った以上、この塔は役目を終えておりますので。それに許可と言っても最終確認が私に委ねられただけです。本当に壊すのならば、この塔の中にバルダン鉱石が埋め込まれている証拠を示して頂かねばなりません」
「はい。ここも王城や町の様に魔奏の共鳴が起こるはずです。という事は、バルダン鉱石が壁の中に埋め込まれている証拠。それでよろしいですね?」
「ええ。もちろんです」
塔の中へ入ってみた。これと言って何か仕掛けがあるわけでもなく奥に2階へと続く階段があるだけのシンプルな構造。上から見ろしてたゲームの時と視点は違うが、ほぼ何もない事に変わりはない。
ん?でも、待てよ。何かが足りないような。辺りを見回してみたがその正体に気付く事は出来なかった。気のせいだろうか……。
「ルテット殿、いかがされました?」
「いえ、何でもありません。すぐに魔奏を始めますので」
今はコレット姫に魔奏の共鳴を起こして見せる方が先だ。ダンジョンBGM【闇の中の真実】の魔奏を始めてみる。
どこか暗くおどろおどろした感じのある曲は、どんな仕掛けがあるかわからないダンジョンに潜った時の緊張感を煽ってくる感じがする。それだけに注意深く用心しながら先へ進もうという気分になる。
そして、どこか危険な香りが漂うその曲は塔の壁の内側から噴き出し始めていた。魔奏の共鳴が起きたのを確かめたコレット姫は大きく頷いた。これでバルダン鉱石を採り出す許可は下りた。
鍛冶師のバステさんは音を頼りに鉱石が埋め込まれている位置に目星を付けている。後でそこに被害が及ばない様に計算して爆薬を仕掛けて塔を破壊する。
ところでダンジョンBGMの効果は何だったのだろう?何かステータスが強化された様子もなければ塔に目立って変化が起きたわけでもない。
「あそこを見て下さい! さっきまで何もなかったはずですよね?」
薬法師のルイドさんが指さした先には宝箱があった。確かにさっきまでなかった……、いや、違う。そもそもあったはず。
最初に塔の1階を見回した時に感じた何か足りないものの正体がこれだ。ゲームの時、確かにあの場所に宝箱が置かれていたはずだ。つまり、急に沸いて出たのではなく見えなかったものが見える様になった?ダンジョンBGM【闇の中の真実】の効果はこれか。
「塔や迷宮の中で隠れているものが見える様になる。それがさっき魔奏した【闇の中の真実】の効果です」
「なるほど~~。私、薬の材料になる物を見つける為に地面ばかり注意してしまう癖があるんです。急に様子が変わったからおかしいなと思ったらそういう事でしたか」
宝箱を開けた。中に入っていたものは『勇気のペンダント』、もちろん俺はその使い方をよく知っていた。装備品の一種だが防御力を上げるとか魔法力を高めるといった効果はない。ただ、身に付けている者の死亡を1回だけ防いで砕け散る。主人公は初めてのボス戦で強制敗北イベントを食らうがペンダントに助けられて通常バトルとして仕切り直し。
勇者アルトはそんな重要アイテムを持たずに初のボス戦に挑み敗れた。そして、身代わりとなったのは戦士ガルザスという事か……。
主人公の用事である勇者の試練とは随分違ったものになったが、これで『ミルディンの塔』でやるべき俺達の用事は済んだ。塔を出ようとした時、ふと振り返って上の階へ続く階段に目をやった。
「確か、ルテット殿はここに来るのは初めてでしたね? それなのに、どうしてそんなに懐かしがる様な優しい目で階段を見上げているのでしょう?」
「えぇと。この辺りって本来なら立ちいるには王家の許可がいるのでしたよね? そんな所に私の様な者が立ってるのをしみじみと噛み締めていただけですよ」
本当は違う。何と言うか人生における思い出の地、ゲームの中の架空の場所ではあったけどそう呼んでいい。ここで大切な事を1つ学んだ気がする、そんな場所だからだ。
勇者の試練で出された課題は『ミルディンの塔』最上層にある蒼き炎を持ち帰る事。と言っても、塔はわずか3層しかなく魔物も出ないので蒼き炎に辿り着くまでは簡単だった。
炎の前には普通の松明、高価なランプ、安物のロウソクが置かれていてその中の1つを選んで炎を移す事になる。こういう時はきっとこれだろうと安物のロウソクに蒼き炎を移し塔を出ると、それが消えてしまったとメッセージウインドウで通知される。
中に戻って普通の松明も高価なランプも試してみるが結果は同じ。何か他に条件でもあるのかな?と塔の中を隈なく探して回って、結局何も見つからず……。
じゃあ、そもそも王から課題が出されたのメッセージに何か見落としたあったのでは?と考えて、王の下へ戻ってやり直そうとすると。
「そなたは何回も塔に戻って同じ試みをしたのであろう? そして、何か聞き逃した事でもないかとここへ戻って来たのではないか?」
その様な言葉を返され、「えっ……」となる。
「そなたはこの先で幾度も困難にぶつかるであろう。しかし、諦めずに挑み続け。それでもだめならば時には引き返してやり直す。前へ進むとは単純に前へ前へというわけではないのだ。その考えが心の中に灯ったのであればそなたを勇者と認めよう!」
全ては王の手の平の上、シナリオライターの手の平の上。足踏み状態で続く数時間のプレイ時間と引き換えで、何かに行き詰った時の基礎心構えみたいなものを教わるのである。
そんなわけで、ミルザの町で行き詰り、それを何とかする為にスタート地点まで戻ってミルディンの塔を訪れる事を思いついた時には奇妙なものだと思った。ミルディンの塔で教わった事を活かして、その塔を壊そうというのだから。
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