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この冬お姉ちゃんになる予定の姪っ子ちゃん

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「これ!」
2歳の姪っ子、カレンちゃんがアンパンマンのおもちゃを指さしている。
「これが欲しいの?」
私はニコニコ顔で姪っ子ちゃんに近づいていく。
「もうおばちゃんは甘々なんだから。もうこれ以上おもちゃ増やさないでよね。
うち狭いから収納スペース少ないの知ってるでしょ。」
妹が私の甘さ加減に怒っている。
「このまま甘やかしてたら、きっと世間知らずのわがままお嬢になっちゃう。」
妹がどうすればいいのと頭を抱えている。
「今も大分甘々だけどね。」
ハハハと私は笑った。
「そこ、のほほんとしてないの!」
妹がビシッと私を指さしてくる。
「もうすぐ、下の子も生まれるのにこんなに勝手気ままだったら
先が思いやられるんだけど。
2人目が生まれたらきっと私四六時中怒鳴り散らしてなきゃいけないよ。」
顔をしかめる妹。
「そんな大げさな。」
私はそこまで心配する妹の心理を理解できなかった。

「お母さん、つわりひどいからしばらくお世話になりたいんだけど。」
しばらくすると、妹がうちにやってきた。
「家族なんだからそんな遠慮しなくても。」
私は姪っ子ちゃんにおいでと手招きする。
でも姪っ子ちゃんは、私には目もくれず一目散に駆け出しおもちゃで遊んでいる。
まぁ、小さい子なんてこんなもんだよねと自分で自分を納得させる。
でもその時は予想できなかった。
これから姪っ子ちゃんと四六時中格闘することになるとは。

姪っ子ちゃんの体力は想像を絶するものだった。
「ヒャッハー!」
今も姪っ子ちゃんが私の部屋に侵入してきて暴れまわっている。
「私がコレクションしてたマスキングテープが…」
気づけば大切にしていたマスキングテープがぐしゃぐしゃになっていた。
今までは少しの時間だったから、姪っ子ちゃんの度が過ぎる行動にも
多少目をつぶることができた。でもこれからは毎日一緒なのだ。
このようなアクシデントも先回りすれば未然に防げるのだろうが、
抜けていることで有名な私にはその選択肢もなかった。
しかも、何かあっても大人の私が我慢しなければならない。
「こういうことだったのか。」
姪っ子ちゃんの行動を先読みしなければ大変なことになるとこの時やっと痛感した。

そして、私にとっては攻略不能なラスボスのような存在感の
姪っ子ちゃんに奮闘する日々が始まった。
イヤイヤ期らしく、姪っ子ちゃんは誰の言うことも聞いてくれない。
だからもちろん私の言うことも聞くはずがなかった。
試行錯誤しながら姪っ子ちゃんの相手をするが、まったく手なずけることができない。
最終手段のテレビを有効活用しながら、なんとか姪っ子ちゃんとぎりぎりの距離感を保っていた。
でも姪っ子ちゃんに格闘している中でもお母さんがお休みの日は私にとってオアシスだった。

その日もお母さんのお仕事がお休みの日で
今日は姪っ子ちゃんから一日解放されると私は朝からうきうきしていた。
私と臥せっている妹と遠くにいるお母さんと姪っ子ちゃんの様子を見守っていた。
しばらくすると姪っ子ちゃんが眠ったのかお母さんがこっちに来た。
「全然動かないから寝たきり哺乳瓶になるんじゃないかとはじめは心配したけど、
今はその必要もないくらい動き回ってるわね。」
お母さんがよいしょと横に座る。
「赤ちゃんなのに寝たきりって。」
かけ離れている組み合わせに笑いがこみあげる。
「そうだよね。今は問題ないから、笑ってられるけど。
でも騒々しすぎるくらいでご迷惑おかけしてます。」
妹が少し困ったように笑った。

「まぁ、お互い様だよ。私も、皆にお世話になってるし。」
ひらひらと私が手をふる。
「でもカレンちゃん、横柄だよね。自己中心的だから、友達失くしそう。」
私は冗談半分、心配半分で思っていることを口にする。
「そんなことない。カレンなりに気遣ってるよ。」
妹が真剣な顔で見てくる。
「いつも私たちの顔色を窺ってるんだよ。
今日だって、お姉ちゃんに笑いかけてたけど
お姉ちゃん疲れてるのか全然気づいてなくて。」
妹の声が少し震えている。
「もうお姉ちゃんには任せられない。カレンが可愛そう。」
見ると妹が涙を流していた。
「お姉ちゃんがきちんと面倒見てくれないから、この間も私はカレンに足蹴にされたし。
お姉ちゃんがそっけないから、カレンが私に当たってくるのよ!」
いつも穏やかな妹が自分の感情を次々と私にぶつけてくる。
うまく対処できないので少し姪っ子ちゃんと距離をおいていた私は、言葉が出なかった。

「まぁまぁ、ユカちゃんの言いたいことは分かったから。」
お母さんが話に割って入ってきて妹をなだめる。
「でもね、マキちゃんも抱っこしてってずっとせがまれて大変なのよ。」
顔を見れば抱っこという姪っ子ちゃんを思い返す。
「カレンちゃん、最近ユカちゃんには抱っこしてって泣きつかないでしょ。」
そうそうと私は横で頷く。
「ユカちゃんのお腹に新しい命が宿っているのかまでは分かってないのかもしれないけど、
体調の悪いお母さんをカレンちゃんなりに気遣ってると思うわよ。」
お母さんが優しい目で妹を見る。
「2人ともちょっと疲れてるのよ。2人が不穏な空気だと、カレンちゃんも心配するでしょ。」
お母さんが、妹と私の頭をポンポンとする。
「お母さんがなるべくカバーするから。
まぁ、お母さんも万能じゃないからたまにはフォローしてもらうと思うけど。」
お母さんの変わらない優しさに涙がこみあげてくる。妹も隣で泣いているようだ。

気づくと近くに姪っ子ちゃんがいた。
そして、よしよしと頭をなでてくる。
隣の妹も撫でてあげているようだ。
何で私は姪っ子ちゃんの本当の優しさに気づいてあげられなかったんだろう。
「カレンちゃんは、人のことをちゃんと考えられる優しい子だよね。」
私もカレンちゃんの頭を撫で返す。
「おばちゃん、カレンちゃんのこと見誤ってた。本当にごめんね。」
私は、何度も何度もカレンちゃんに謝った。




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