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18.荷物は本来、大事に運ぶもの

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「アンリ。あいつ、やけにタフなんだ。この剣で切り刻んでも、おそらく回復すると思う。仕掛け、わからないか?」

 先ほどとは打って変わってアレスは、まるで先ほどのやり取りがなかったかのように、いつもの勇者然とした口調でアンリに尋ねた。
 賢いアンリは流石に、その変わりように少し怯んでいたが、おずおずと杖で部屋の奥にある青白く発光する、筒を指した。

「あの、後ろにある装置が怪しい、と思う。詳しく調べないとわからないけれど、あれ、超古代文明の事を書いた古書で見た、空間にある魔力を集める為の装置、だと思う。だから、ここに居るみんなの魔力が尽きないかぎり、あいつは、倒れないんじゃないかな。一刻も早く、壊すべきだと思う」
「わたくしも、そう思います。あの光を見ていると、全身が震えるほどの邪悪を感じます。あの存在が纏うのと、同じ邪悪ですわ」

 アンリの推理に、エレフィーナも同意する。血の気は引いていたが、強い決意を秘めた瞳をしていた。
 二人の言葉に、アレスも頷いた。

「なるほど。だが、あの装置を壊すとなると、骨が折れそうだな」
「おそらく、爆発は免れないと、思う」

 アンリの言葉に、アレスはオレを見た。少しだけ微笑んで、

「メル、危ないからちょっと下がってて。三人は、手伝う気があるなら、この部屋に入ってくれ」

 オレの後ろの、三人を見た。
 オレが振り返ると、三人は顔を見合わせていたが、決意したようだった。オレを追い越し、中へ入る。オレは、躊躇したが、何もできる事は無いと頑張って割り切った。本当は手伝いたいし、三人のように中に入りたかった。それでも。オレの今の役目は、邪魔しない事だと思うから。
 せめて、最後までどうなるか、見届けよう。

 そう決意していると、アレスが、三人それぞれに何やら指示を出していた。
 ミーナは小さく頷くとオレを振り返って、ちょっとだけ手を振って、前を見た。片手盾を構え、魔王とアレス達の間に立つ。オレが何だろうと思っている間に後ろを向いてしまったので、意図はわからなかった。
 アンリとエレフィーナは、アレスの言葉を聞いた後、驚いたような顔でお互い顔を見合わせた。が、すぐに納得したように頷き、またしてもオレを見た。……オレ、何かあるのか?

「ご無事で、メルク」
「じゃあね」

 二人は微笑みながらそう言うと、それぞれ杖を掲げた。それは、彼女達が魔法などを使う時にする動作。
 え? と思っていると。

「メル。危ないから先に戻って、オレを待っていて。……約束」
「アレス?!」

 二人が詠唱をはじめる。

 アレスがオレの前に来て、ぎゅっと抱きしめてきた。みんなの前で恥ずかしいと思う間もなく身体は離れ、トンと、肩を押された。
 それだけでオレは後ろによろめき、そして、オレの周りだけに、結界が張られた。エレフィーナの結界だ。
 一体何をと思っていると、アンリの杖の切っ先がオレを向いた。
 最大限の魔力が集まっている事を知覚し、そして、悟った。

 だから。

「わかった! 約束だからな、アレス! 待ってるから!」

 そう、言葉を言い終わらないうちに、オレは、アンリに最大火力で吹き飛ばされていた。
 








 その後。

 オレは、エレフィーナの結界のおかげで吹き飛ばされても、障害物にぶつかりそれを破壊し突き抜けても、なんの痛みもなかった。ただ衝撃はあったが、それも緩和されていたようだった。

 魔王城を突き破り、森の上を吹っ飛んでいるが、オレはなすがままだった。浮遊感がすごい。飛んでるんじゃなくて、吹き飛ばされてるから、方向転換とかもできない。
 しかし、風魔法を調整して人に向ける事で、その対処を吹き飛ばす……運ぶ事ができるなんて、アレスぐらいしか思いつかないだろう。空を飛ぶなんて、夢のまた夢だし。
 その人類の夢をかなえている筈のオレは、暇していた。
 一定方向に向かって、なすがままだからな。いったいどこに向かってるかわからないので、不安は不安だ。せめて、地面の上に降ろして欲しいと思う。

 そんな状態がしばらく続き、ようやく、ゆるやかに下に落ちている事に気づいた。
 高さがあるうちに、どの辺りか把握しておかないと、と周りを見回すと、村と、村を囲む柵と、全壊している建物が見えた。
 あれは、魔王城に一番近い村ではないだろうか。アレスが壊したとかいう宿屋っぽいのが見える。
 流石はアンリだ。エレフィーナの結界もまだ無事に効いている。

 だんだん下に落ちていき、咄嗟に足を地面に向けると、ズサササー! と、足と地面が接地し、何とか無事に地面に降り立つ事が出来た。
 村には少し距離がある所だったので、村人には見られなかったようだ。
 自分の身体が無事だった事を確かめ、オレは、村に戻った。こんな所一人で居られないからな。

 再び、独りで村に入ってきたオレに気づいた村人たちは、オレに、同情と、憐憫と、あざけりの視線を向けてきた。
 仕方ないか。一緒に行った筈の三人も居らず、勇者も居らず、オレ一人なのだから。
 幸い、何か言ってくるような人は居なかったので、この村に滞在して三人を待つ事にした。

 


 
 が、しかし。

 オレが村についてしばらくもしない内に、この村からでも聞こえる爆発音と、少しの揺れ、そして、森の向こうから立ち上る煙が見えた。

 オレは、魔王城の方を向いて、ただひたすら、三人が無事である事を祈った。

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