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最終話 周く巡る
しおりを挟むハッと、極天が目を覚ますと、辺りは大惨事となっていた。
だが、不思議と悲壮感はなかった。空から差す、暖かい光のせいだろうか。それとも、キラキラと降り注ぐ、身体に感じる優しい力のせいだろうか。
ぐっと腕に力を込め、立ち上がる。問題無く立ち上がれた。
もう、あの黒雲は、綺麗に消え去っていた。
まるで今までの事が嘘だったかのように、美しく燃える夕焼け空が広がっていた。
あの金卯と別れた日と同じ。
だけど、少しだけ希望があるように見えるのが不思議だった。
そうだ、アマネは!
極天が辺りを見渡すと、倒れていたはずの人々が忙しそうに動いていた。
だがその中に、漆黒はいない。
全てが終わったような雰囲気があるのに、その大きな存在が、居ない。
極天は慌てて、金卯が封印された要石の方へ走り出した。行くなら、彼処しか無い筈だ。
前と同じく、太極殿は壊れ要石の場所を教えてくれている。
飛ぶと目立ちそうなので、あえて自分の足で大地を踏みしめて、走り出した。
さようならなんて、ありがとうなんて、哀しい事言うなよ!
胸の中だけで、声を上げる。
あの時、確かに聞こえたアマネの声。動かない中腕だけ動かせたが、それでも引き留める事すら出来なかった。全てが後悔となる。
久しぶりに、身体が重い。
玉兎のあの呪いから解放された事を感じる。
極天にしか見えない銀色の糸が、身体から綺麗さっぱりなくなっている事に気付いた。それでも動けているという事は、つまり、アマネはあの時、玉兎の力を分けてくれていたのだ。これから大変な事をしにいくというのに、あくまでもこちらを案じた行動をしたアマネに、憤りと自分への怒りがわく。
確かに自分はアマネより弱いが、アマネを守りたかった。それすら、できなかった。
自嘲が漏れる。
それでも極天は自身の足を動かし続けた。
やがて、極天は記憶にある要石の場所にたどり着いた。
天井が剥がれ落ちた部屋の中で、輝きを無くした黒い岩がただ鎮座している。
慎重に階段を降り、極天は真っ二つに割れた要石の前に立った。
あの後アマネがどこに行って、何をしたか、確かな事はわからない。
だけど、金卯の封印を解くならば必ず此処に来たはずだ。
何の確信も無かったが出来る事も無く、極天は要石をよくよく観察してみた。
力を失っているのは明らかだが、妖を排除する為に作られていた物、に触れるのは勇気がいった。
そう、恐怖、を思いだしたのだ。
不死の呪いの為、身体的な恐怖や躊躇は忘れてしまったと思っていたが、こんなにもすぐその感情が戻ってきたのが、自分でも不思議だった。
ふっと、極天は自嘲を漏らす。
恐怖を思い出してしまった、弱い自分に。
アマネは自分の身を挺してこの世界を、いいや、金卯と玉兎を救おうとしてくれたのに、自分は何も出来なかった。恩しかないのに、何もしてやれなかった。
自責の念に極天が要石の前で項垂れていると、
『極天』
どこからか、声が聞こえた。それも、懐かしく聞き覚えのある声が。
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