漆黒の瞳は何を見る

灯璃

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最終決戦 ー黒き瞳は、彩りの力を見る 弐ー

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 アマネの突拍子もない発言に、紫が思わず素っ頓狂な声を発した。
 その隙に、さらにアマネは言葉を重ねる。

「お父さん自身が、貴女は凄いって言ったのに、それが嘘だと言われた事が、本当に悲しかったように僕には見えた」
「うるさい」
「だって貴女は、実際に素晴らしい才能を持ってた。なのに認めていたと思ったら、それは嘘だったんだもの。僕でも酷いと思う」
「うるさいっ」
「だから、見返したかったんだよね。本当に自分は凄いんだぞって。お父さんやお母さんに、認めて欲しかったんだよね。お兄さんより、自分を見てって」
「……っ」

 再び罵声がくるかとアマネは思っていたが、紫は言葉に詰まってしまったようだった。
 どうしたのかと様子を伺っていると、紫は何やら俯いて、小さな声で呟いているようだった。肩が怒り震えている。
 アマネは、身構えた。

「……許せない。わたくしを辱めた事、死んで償え!」

 ギッと睨んでくる紫の瞳は濁っていたが、ゆらゆらと混ざり揺れていた。涙で潤んでいる瞳のようにも見える。
 と、アマネが思う間もなく、紫は両手を前に突き出した。
 同時に、黒い破片のようなものが辺り一面にブワッと広がった。
 雨よりも大きく、水滴より自在に動くそれは、藤の花びらに良く似ていた。その黒い花びらが、まるで桜吹雪のように一面に広がり、全ての花片がアマネに向かって襲い掛かってきたのだ。

 大木も風も使ってしまった。
 おそらくその二つの力を使っても、細かい花片は自在に動きすり抜けアマネを襲っただろう。
 残る力は、水。
 アマネは青い光に手を翳した。

「玄武さん、力を貸してください」

 アマネが呟くと青い光は水のベールとなり、アマネの全身を球形に包み黒い花片から守った。
 黒片を軽く大量に出したのが仇となり、薄い水のベールといえど突き抜けられないようだ。
 歯ぎしりをし、口惜しさをもはや隠しもしない紫に、アマネは哀しそうに眉を下げたが、静かに微笑んだ。
 そして呟く。 

「めいちゃん、ねいちゃん、僕に、勇気をちょうだい」

 最後の最後まで残った、まとわりつく子犬のような茶色の光が輝き、アマネの両手に宿った。犬の手のようになる自身の両手を見て、アマネがまたちょっとだけ微笑んだ。

「みんな、ありがとう。行こう」

 暖かい、力と同時に想いも感じる。
 微笑んだあと、真剣な顔でアマネは紫を見据えた。
 
「紫さん。金卯さんを、返してもらいますよ!」

 そう宣言すると、アマネは、まっすぐ紫に向かって、水のベールを纏わせたまま、突っ込んで行った。

 まさか、真っすぐ再び向かってくるとは思っておらず、紫は一瞬動揺したが、冷静に黒い花片を正面に堅め、花びらの壁を作った。先ほどアマネが大木で防いだように、厚い黒い壁を作った。
 が、アマネはそれすら無視して、真正面から馬鹿正直に紫に向かって突っ込んでいった。玄武の水のベールは何とか耐えているが、破られるのも時間の問題だろう。

「そんなものが、いつまでも耐えられるものか。触れればたちまちに猛毒に変わるわたくしの呪いに焼かれて、死ね!」
「そんなの、やってみないとわからない! 貴女だって、そうしてきたんでしょう!」
「うるさい! 黙れ!」
「黙らない!」

 ついに、水のベールが破られる。黒い花片は未だ大量に宙に舞っている。あの破片が当たっただけで瀕死になった事を思い出すが、アマネは恐怖しなかった。

 最後の水をバッと四方に飛び散らせ自身に近い黒片を払い除け、同時に、今まで自在に飛ぶために借りていた赤い羽根を、向きと勢いを調整し解除した。
 赤い羽根すら炎に変え、辺りの黒い花弁を焼き尽くし、アマネは紫に向かって最後の羽根で作った勢いのまま突っ込んでいた。ほぼ自由落下だ。
 両手を前に思いっきり突き出し、いいや、紫に向かい差し出して、アマネは突っ込んで行く。

 もちろん、紫は油断などしていなかったし、隙あらば物量で押してアマネを殺そうとしていた。
 だが、まさか自身の守りを全て解除し、それを黒い花片を消す為に使い、後先考えずに突っ込んでくるとは思わなかった。そういう無茶をする人間だと思っていなかった。

 だから、咄嗟に判断を迷った。
 紫が使える力もまた、呪いの黒い破片を動かすだけ。自身の霊石ひとみを失ってから紫は、何の力も使えなかったのだ。
 だから、どうして良いのか迷ってしまった。

 その隙をアマネは見逃さず、掴み取った。
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