漆黒の瞳は何を見る

灯璃

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番外編 みなの想い

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 -アマネが紫の呪いを受けて倒れた、同時刻―



 青龍、白虎、朱雀、玄武の治める各里で異変が起きていた。

 青龍の郷では社からガタガタと音が鳴り響き安置されている鏡に女性の姿が映り、
 白虎の平野では風に紛れて女性の声がしたという。
 また朱雀の大樹の側、燃え続ける沼からは女性の人影が舞う炎で形作られ、
 玄武の水中社では水で形作られた女性が現れた。

 それを見た妖たちはすぐさま自分達の長に報告し、長たちが確認した所、確かに女性の声や姿を認めた。
 その瞬間、その謎の女性は言葉を発した。

『どうかイスミ アマネ様を、漆黒の方を助けてください。今、アマネ様は呪いにかけられ、苦しんでいます。どうかあなた方の力を、少しだけわけてください』

 もちろん、それぞれの長はそれぞれ怪しんだ。こんな突然現れた女性に、助けてくれと言われても信じて良いのかすらわからない。

 だが。




 青龍郷では、みなが心配そうな顔をしていた。

『お兄ちゃんが危ないの?! ねいの力で良かったら、使って!』
『アマネが? 俺のも使ってくれ、あいつ、大丈夫なのかっ』
『そうだね。嘘か誠かわからない事だけれど、急を要するんだろう。私も、その言葉を信じよう』

 青龍の言葉により、青龍の郷の妖たちはみな、力をその不思議な存在に受け渡す事にした。
 青龍が代表して、女性に言われるままに社に残っていた鏡に手を触れると、ただの鏡に戻っていた筈だが、確かに不思議な力が宿っているようだった。言われるがまま触れていると、どこかへと力が吸われていくようだった。
 しばらくして青龍が手を離した後、次々と妖たちが鏡に触れた。
 鏡に触れた瞬間に、倒れ動かない漆黒の存在を見た、と青龍が言ったからだ。
 自分達の為に頑張って、瀕死のふちにある漆黒を、アマネを、みなが少しでも助けになるならと力を分け与えていった。






 白虎野では、集まった妖たちが難しい顔をしていた。

『ほゥ、イスミがなァ。呪いで死ぬンなら、そこまでの運命だとも思うがなァ』
『兄様! あの綺麗な人が死んじゃったら、呪い解けないかもしれないじゃないですかッ。僕の白虎就任も遠のいちゃう』
『おめェは本当に真っすぐよァ。へいへい、これが嘘でもどうにかなンだろ。ほら、もってけ』

 白虎が新たにかけた太刀風の術を解き、残った鍔に触れると、青龍たちの時と同じように力が吸われ、倒れたアマネを見た。白虎の呼びかけで、白虎の郷の者達も、最終的にはほとんどが力を貸してくれた。







 朱雀樹では大騒ぎになっていた。みなが炎の女性の前に集まっている。

『えっ、イスミが?! 大丈夫なの、アタシの力で良かったらいくらでも使って。前に、渡す事もできなかったから』
『これ炎陽、もう少し考えてから発言なさい。……炎より現れし方、あなたの言葉が真実である証拠はありますか?』
『……返事、ありませんね大刀自様。同じことを必死に繰り返してます。ここだけで言ってるわけじゃないみたい』
『ふむ。私達をだまして、どうかしようというわけでは無さそうですね。あの黒雲も気になりますし……まあ良いでしょう。炎陽、みなを集めなさい』
『はい!』

 朱雀の大樹に居た翼もつ者たちも集められ、事情を説明された。ここ朱雀に与えられた比礼は燃え尽き、今は沼が燃える燃料になっている。
 どうするのかと皆が炎陽を見ていたが、炎陽は躊躇いなく、女性の形を作っている炎に手を突っ込んだ。驚き近くの者が手を引こうとするが、炎陽は全く火傷をする事なく手も無事だった。それを見た者達も、半信半疑ながら手を突っ込むと、同じように怪我する事はなかった。そして同時に、倒れたアマネとチラリと映った黒雲も見た。全ての元凶の大元でアマネが倒れている事を知ると、皆が力をわけた。








 玄武山の館では、みなが悲しそうな顔をしていた。

『アマネ様が大変なのです! 玄武様、どうしましょうっ、王様も居ないのにっ』
『落ち着きなさい、ねい。この方はおそらく、極天様が言っていた人側の巫女でしょう。特徴が似ています。ならば、私達がするのはただ一つ。この方に力を貸す事だけ。ねい、みなを集めて来てくれるか』
『お任せくださいなのです! アマネ様、死なないで!』

 玄武の城に居た者達は残らず地下に集められた。そして、玄武が水に潜って取ってきた水中社に安置されていた勾玉に、触れた。みな、数日間ここで過ごしたアマネの姿を見、その惨状に驚き悲しみ、力を限界まで渡していた。







 銀色の光は黒雲の下、続々と集まってくる力を感じていた。

『あぁ……力が流れこんでくる。皆が、アマネ様を心配し、無事を祈っている。暖かい力が、集まる。アマネ様、これは貴方が行動し、言葉を交わした人々の想い。貴方だけのもの。待っていてください。わたくしも、貴方を助けます』

 割れた黒い岩から飛び出した銀色の光は、ゆっくりと倒れ動かないアマネの身体へ重なり、そしてアマネの身体へと沁み込んでいった。
 上では、黒い雲から、黒い雨が降り出している。
 誰かの涙のように。
 誰かの、悲しみのように。




 番外編 みなの想い おわり
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