漆黒の瞳は何を見る

灯璃

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番外編 ー玄武ー

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 とある深い山間にある、立派な城の一角で。



極天きょくてん様! 極天様、どこに居られますかっ」

 青い長髪を揺らしながら、細長い青年が声を上げながら立派な木造の廊下を歩いている。誰かを探しながら歩き回っていたが、ようやくとある部屋の前で目的の人物を見つけた。

「極天様っ。探しましたよ、全く」

 青い髪の青年が話かけたのは、浅黒い肌の澄んだ夜空のような深い藍色をした髪と瞳をもち、人の頭部には決してない、角、が生えった青年だった。何かをしていたのか、俯いていた頭を上げる。

「なんだ、碧海へきかい。俺は忙しいんだよ」

 急に起こされた人のように、不機嫌そうに眉を寄せている角のある人物に、碧海と呼ばれた青年は呆れたように溜息を吐いた。

ようおうさま! 漆黒の子が気になるのはわかりますが、仕事をしてください」
「なんだよ、今良い所なんだよ。やっとアマネが俺に対して心を開いてくれた所でさぁ。可愛いんだぞ~、微笑む顔なんて花が開くようなんだ」

 黙っていれば端正な顔を、ニヤニヤと目と口を三日月に歪めて笑う極天。碧海はそれを見て、眉を寄せて軽蔑したような顔になる。

「それ、心開いてるの、極天様にじゃなくて、小鳥にでしょ」
「いいんだよ、小鳥は俺なんだから」
「気持ち悪いです、極天様」
「お前も言うようになったな」

 一触即発の雰囲気になる二人。

玄武げんぶさま~、王さま見つかりましたか~」

 そこに、気の抜けるような幼い女の子の声が響く。犬のような耳と尻尾を持つ、八つぐらいの可愛らしい女の子だ。ボブぐらいの髪を一つに結わえている。
 走り寄ってくるその小さな女の子に気づいて、二人は振り返った。

「ええ、ようやく見つかりましたよ。これから、仕事をしてもらうところです」
「良かったですねえ、玄武さま。あ、そうそう、玄武さまにお客さまですよ~」
「私に?」
「はい~。応接間でお待ちです~」
「わかりました。……極天様いいですか、私が居なくてもっ、仕事してくださいよ。ただでさえ、御霊みたま様の被害が出てるんですからっ」
「わかってるよ」

 女の子からは玄武、と呼ばれた青い青年が足早にどこかに立ち去って行く。
 面倒くさそうに立っている極天に、犬耳の女の子がちょこんと話かけた。

「王さま~。その、アマネさまという人は、ここに来ますか~?」

 自分の腰ぐらいしかない女の子の頭を、優しく撫でながら、微笑む極天。

「ああ。来るよ、必ず」 
「わぁ! 楽しみです~。わたしも、早くお会いしたいです」
「そうだな。きっと、頭を撫でてくれるよ」
「わんっ!」

 思わず吠えた女の子は、恥ずかしそうに顔を伏せた。その様子を、おかしそうに笑って見守る極天。

「周が来る前に、その耳と尻尾を隠す練習をしようか。きっと、驚くからね」
「あっ、そうですねっ。がんばります!」
「その意気だ。さ。碧海が来る前にちゃちゃっと終わらせるか~。アマネも心配だしなあ」

 一つ伸びをする極天を、女の子が不思議そうに見上げる。

「王さまの小鳥は、式神しきがみなんですよね? なんで、王さまが近くに居ないのに、動くのですか?」
「ん~、何て言ったらわかるかな……。俺が凄いから、とか」

 子供に聞かれて困った極天が、苦し紛れに言った言葉に、女の子は顔を輝かせた。

「なるほどです! やっぱり王さまは、凄いんですねっ」

 そのチョロさに、さすがに極天も苦笑してしまった。
 また一つ、頭を撫でてやると、嬉しそうにその手を受け入れる犬耳の女の子。この子にはもう、その頭を撫でてやる親は、存在しない。ふっと、そんな事を思い出してしまい、極天は、わしゃわしゃと誤魔化すようにその頭をかき混ぜた。それに驚いたようだが、きゃっきゃと楽しそうに声を上げる女の子。

「じゃあ、俺は奥に居るから、何かあったら呼んでくれ」
「はぁい!」

 手を軽く上げて立ち去っていく背中を見送って、女の子はぐっと両手を握った。

「よぉし、わたしも頑張ってお掃除するぞー!」

 そう気合を入れて、どこかに走り去って行った。



 そして。
 走った勢いそのままに水を張った桶を盛大に蹴り倒し、碧海に叱られるのはまた別のお話。

 終わり
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