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夜。
自室に戻り、アマネはヒヨに愚痴る。
「ねえヒヨ。僕、人を少なくしてくれ、って言ったよね? 二十人って、少ない? 多くない?」
ヒヨは、アマネの意思を汲んでくれたのか、短くピッと鳴いた。そうだよねぇ~、と言って溜息を吐きながら、アマネはヒヨを撫でる。
「なんなら、独りの方が良いんだけど。でも、それだと色々僕も困るよねえ。ヒヨも、お腹減るのは嫌だよね。何とか、戦闘にならないように立ち回らないと……できるかな」
ヒヨは、どんどん顔が暗くなっていくアマネを励ますように、ピィと鳴いた。そんなヒヨに微笑みかけて、アマネは灯火を消した。
次の日から、アマネは方術寮で青海に簡単な方術を習う事になった。
アマネの、反射という能力がわかった今、身を守る為の術ではなく、破壊する術を習うそうだ。
昨日までと同じ部屋で、青海が前に立っている。その細長い手には、折り紙を半分にしたぐらいの長方形で薄い紙が挟まれている。
「それでは、方術の説明ですが。人には、生まれ持った霊石があります。基本は、その霊石を通じて世に満ちる数多の霊力を借り、霊符を通して様々な効果を得る事にあります。なので、自身の霊石によって扱える術や力の範囲が変わってきます。
例えば、私の瞳の色は青です。なので水の力を扱うのが得意です。木火土金水の五つに力は分類され、人はそのいずれかを得意とします。ただ、黒は前も言った通り、どの分類に入るのか資料がありません。なので、一つずつ試していきましょう」
そう言うと青海は、手に持っていた五枚の紙を広げてアマネの前に置いた。アマネが全く見た事の無い、文字というより絵の描かれている。アマネはその紙を興味深げに見た。五枚の紙はそれぞれ、火や水などを象徴するような絵図が描かれているようだった。
「では、この霊符を一枚持ち、念じてみてください。このように」
青海が、水の絵の描かれた紙を持ち上げた。すると、紙から水が湧き上がり、蛇のように上昇し、消えた。紙も消えた。
アマネは、ポカンとした顔しかできない。こんな風に、当たり前のように超常現象を見せられて、なおかつやってみろと言われては、固まるしかなかった。
どうぞ、と同じ紙を渡されたが、思わず青海を見返してしまった。小首をかしげる青海。
「あの、念じるって、どんな感じに、ですか?」
「そうですね。水ならどんな水を出したいか、火ならどの大きさを、などですかね。思念が霊石を通じてこの紙に力を宿しますから、言ってしまえば想い、が基礎になってきます。この世界を、自身を、信じて下さい、漆黒の君」
青海の言葉に、口を半開きにしたまま間抜けな顔で固まり続けるアマネ。青海は少しだけ眉を下げた。
「ここでは、それが一番わかりやすい説明なのですが……そうですね。体感的なものですから、先ほど私が見せた水の動きを思い描いて、紙に力を込めてみてください」
いまだに納得できていないが、アマネは言われた通りに紙を握ってみた。普通の紙に思える。
先ほどの青海の持った紙からでた、水の動きを思い出してみる。そして、自分の紙でも同じ事が起こるようにと、願ってみる。
すると。
「わっ!」
パシャン、と水音がした。かと思った次の瞬間には、紙から出た水が噴水のように勢い良く上に吹き上がった。
そして、雨のように二人に降り注ぐ。が、すぐに乾いて本当に水があったのかわからないぐらいだ。
驚いているのは、アマネだけでは無かった。青海も、また驚いたような顔になっていた。
「簡単な符だったのですが……。では次に、火を試してみましょう」
「わっ」
それから四回、同じ事を繰り返した。
青海にお手本を見せてもらい、アマネがそれと同じようになるよう念じる。
結果は全て、アマネの方が青海より派手なものとなった。
青海ぐらいになると、苦手な霊符、力でもある程度扱えるそうだが、アマネはそれ以上に、どの力も使いこなせてしまったのだった。
青海は困惑したような顔で、腕を組んでアマネを見ていた。
「このような事象は、聞いた事がありません」
言われても、困る。というのが顔に出ていたのだろう。そんなアマネを見て、青海がちょっとだけ苦笑した。
「漆黒、というのは、分類が無いというより、全てを包括しているのかもしれませんね。だから、全ての力が使えるのかもしれません。さすがは、御柱様の選ばれた方だ」
青海の表情に少しだけ、羨望、のようなものが見え隠れして。アマネは微かに俯いた。
「この力は、そんなにも凄いものなんですね」
「はい、誇って良い事です。方術を扱える程の霊石を持つ者も少ない中で、扱えるだけで素晴らしい事なのに、なおかつ御柱様ですら持っておられなかった程の能力を有している。きっと、目的を果たすためにはそれ程の力が必要なのでしょう」
いつもよりちょっとだけ早口になる青海に、アマネは何かを言おうとして、止めた。代わりに、
「この力は、制御できますか?」
そう聞いた。
青海はハッとした顔をして、アマネを見る。
「そうですね。先程も言った通り、基本は想いの力と、想像です。後は、訓練していけば必ず」
じゃあ、訓練させて欲しい、と言いかけてアマネはハッとした。
この霊符は、紙で出来ている。紙は貴重品だ、と青海は言わなかっただろうか。ならば。
「そ、想像、すれば良いんですよね」
「基本的には。あなた程の力があれば、それだけで大丈夫です」
「が、頑張ります」
アマネの自信無さげな返答に、青海は微笑むだけだった。
自室に戻り、アマネはヒヨに愚痴る。
「ねえヒヨ。僕、人を少なくしてくれ、って言ったよね? 二十人って、少ない? 多くない?」
ヒヨは、アマネの意思を汲んでくれたのか、短くピッと鳴いた。そうだよねぇ~、と言って溜息を吐きながら、アマネはヒヨを撫でる。
「なんなら、独りの方が良いんだけど。でも、それだと色々僕も困るよねえ。ヒヨも、お腹減るのは嫌だよね。何とか、戦闘にならないように立ち回らないと……できるかな」
ヒヨは、どんどん顔が暗くなっていくアマネを励ますように、ピィと鳴いた。そんなヒヨに微笑みかけて、アマネは灯火を消した。
次の日から、アマネは方術寮で青海に簡単な方術を習う事になった。
アマネの、反射という能力がわかった今、身を守る為の術ではなく、破壊する術を習うそうだ。
昨日までと同じ部屋で、青海が前に立っている。その細長い手には、折り紙を半分にしたぐらいの長方形で薄い紙が挟まれている。
「それでは、方術の説明ですが。人には、生まれ持った霊石があります。基本は、その霊石を通じて世に満ちる数多の霊力を借り、霊符を通して様々な効果を得る事にあります。なので、自身の霊石によって扱える術や力の範囲が変わってきます。
例えば、私の瞳の色は青です。なので水の力を扱うのが得意です。木火土金水の五つに力は分類され、人はそのいずれかを得意とします。ただ、黒は前も言った通り、どの分類に入るのか資料がありません。なので、一つずつ試していきましょう」
そう言うと青海は、手に持っていた五枚の紙を広げてアマネの前に置いた。アマネが全く見た事の無い、文字というより絵の描かれている。アマネはその紙を興味深げに見た。五枚の紙はそれぞれ、火や水などを象徴するような絵図が描かれているようだった。
「では、この霊符を一枚持ち、念じてみてください。このように」
青海が、水の絵の描かれた紙を持ち上げた。すると、紙から水が湧き上がり、蛇のように上昇し、消えた。紙も消えた。
アマネは、ポカンとした顔しかできない。こんな風に、当たり前のように超常現象を見せられて、なおかつやってみろと言われては、固まるしかなかった。
どうぞ、と同じ紙を渡されたが、思わず青海を見返してしまった。小首をかしげる青海。
「あの、念じるって、どんな感じに、ですか?」
「そうですね。水ならどんな水を出したいか、火ならどの大きさを、などですかね。思念が霊石を通じてこの紙に力を宿しますから、言ってしまえば想い、が基礎になってきます。この世界を、自身を、信じて下さい、漆黒の君」
青海の言葉に、口を半開きにしたまま間抜けな顔で固まり続けるアマネ。青海は少しだけ眉を下げた。
「ここでは、それが一番わかりやすい説明なのですが……そうですね。体感的なものですから、先ほど私が見せた水の動きを思い描いて、紙に力を込めてみてください」
いまだに納得できていないが、アマネは言われた通りに紙を握ってみた。普通の紙に思える。
先ほどの青海の持った紙からでた、水の動きを思い出してみる。そして、自分の紙でも同じ事が起こるようにと、願ってみる。
すると。
「わっ!」
パシャン、と水音がした。かと思った次の瞬間には、紙から出た水が噴水のように勢い良く上に吹き上がった。
そして、雨のように二人に降り注ぐ。が、すぐに乾いて本当に水があったのかわからないぐらいだ。
驚いているのは、アマネだけでは無かった。青海も、また驚いたような顔になっていた。
「簡単な符だったのですが……。では次に、火を試してみましょう」
「わっ」
それから四回、同じ事を繰り返した。
青海にお手本を見せてもらい、アマネがそれと同じようになるよう念じる。
結果は全て、アマネの方が青海より派手なものとなった。
青海ぐらいになると、苦手な霊符、力でもある程度扱えるそうだが、アマネはそれ以上に、どの力も使いこなせてしまったのだった。
青海は困惑したような顔で、腕を組んでアマネを見ていた。
「このような事象は、聞いた事がありません」
言われても、困る。というのが顔に出ていたのだろう。そんなアマネを見て、青海がちょっとだけ苦笑した。
「漆黒、というのは、分類が無いというより、全てを包括しているのかもしれませんね。だから、全ての力が使えるのかもしれません。さすがは、御柱様の選ばれた方だ」
青海の表情に少しだけ、羨望、のようなものが見え隠れして。アマネは微かに俯いた。
「この力は、そんなにも凄いものなんですね」
「はい、誇って良い事です。方術を扱える程の霊石を持つ者も少ない中で、扱えるだけで素晴らしい事なのに、なおかつ御柱様ですら持っておられなかった程の能力を有している。きっと、目的を果たすためにはそれ程の力が必要なのでしょう」
いつもよりちょっとだけ早口になる青海に、アマネは何かを言おうとして、止めた。代わりに、
「この力は、制御できますか?」
そう聞いた。
青海はハッとした顔をして、アマネを見る。
「そうですね。先程も言った通り、基本は想いの力と、想像です。後は、訓練していけば必ず」
じゃあ、訓練させて欲しい、と言いかけてアマネはハッとした。
この霊符は、紙で出来ている。紙は貴重品だ、と青海は言わなかっただろうか。ならば。
「そ、想像、すれば良いんですよね」
「基本的には。あなた程の力があれば、それだけで大丈夫です」
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