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突然の拉致者
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あんまりにも真っすぐ青海を見たせいだろうか、ぷいっとそっぽを向かれてしまった。
この世界の人達が、漆黒を気味悪がる理由がわかった。みんなの対応もそのような感じだった。
だが、今目の前に居る人は、おそらくこちらに心を傾けかけている。それが、アマネには不思議だった。
青海は視線を外したまま、ポツリと呟く。
「……あなたからは、不思議な気配がします。人とも妖とも、御柱様とも少し似ていて全部違う。ここに記憶喪失で投げ出され、重荷を背負わされているのに、前向きに学ぼうとしている。方術寮は、学ぶ人を差別しません。……それだけです」
ははぁ、わかったぞ。この人、ツンデレってやつだ。と、アマネは心の中で思った。それだけで、なんだかグッと青海に対して親近感がわいた。
「ありがとう、ございます」
口に出た言葉は、感謝。少しでも、気にかけてくれる存在というのを、有り難く思う。
「礼など不要です。何もわかっていないし、何も、解決出来ていないのですから」
青海の澄ました顔が、なんだかちょっとだけ柔らかく見えた。
「なので。ひとまずは、四方の宝具を壊す事からはじめる事になるでしょう。妖の出方はわかりませんが、恐らくこちらの邪魔をしてくる筈。そうなれば、戦いは避けられません。漆黒の君にも、せめて身を守れるぐらいの術を教えよとの、おひい様から勅を……」
スパァーン!
青海がそこまで言った時、急に扉の板戸が凄い音を響かせて、開いた。
「やあ! 邪魔するぞ、青海、イスミ」
朗らかな大声で入って来たのは。
「……宮様」
「うわぁ」
そう。曙の宮様と呼ばれる美丈夫、暁だった。この国での実質ナンバー2がいきなり入って来たので、青海は言葉を中断し、頭を下げた。アマネは少し迷って、ペコリと軽く頭を下げた。
「相変わらず、辛気臭い所だなぁ。イスミ、授業は順調か」
「えっと、はあ」
ニカッと笑った暁の圧に押され、はいともいいえとも言えないアマネ。そもそも、青海じゃなくなぜ自分に聞くのかと、アマネは首を傾げた。
「そうか、なら良かった! これから、近衛達の鍛錬を見に来ないか。君の身を守る人の顔を、覚えておくのも大事だぞ!」
全く悪意のない言葉と表情で暁は話を進めるが、アマネは置いてけぼりでポカンとしていた。思わず、頭を抱えている青海を、助けを求めるように見てしまった。その視線の動きに、暁の眉がピクッと動く。
「宮様。恐れながら漆黒の君には、まだ説明を……」
「うるさい。俺に指図するな。行こう、イスミ。こんな頭の固いやつは放っておけば良い」
「は、えっ、え?」
あっと思う間も無く、アマネは暁のその白いが太い手に細腕を掴まれていた。良く鍛錬された硬い手だ。少し痛いぐらいの力で掴まれ、振り解けない。
「ちょっ、あ、あの! 今の言い方はあんまりにも」
後ろで未だ頭を下げ続け顔の見えない青海から視線を外し暁を見ると、その瞳が、暗赤色になっていた。冷たい、底冷えのするような視線と絡まり、息がひゅっと詰まる。
どういう事だ、この人の瞳の色は、緑だった筈では。
アマネが戸惑っている間にも、勝手に話が進む。
「これだけ時間をやったのだ。大体は伝えたのであろう」
「是」
「なら良いな。行こう、イスミ。近衛たちに君を紹介しよう。みな、良い奴らばかりだぞ」
上機嫌の暁に、相変わらず腕を掴まれて、引っ張られた。ガタイの差に拒絶できるわけもなく、アマネは、なすがまま立ち上がり、ついて行くことしかできなかった。
後ろを振り返る。
いまだに頭を下げている青海は、微動だにせずそこに残っていた。
この世界の人達が、漆黒を気味悪がる理由がわかった。みんなの対応もそのような感じだった。
だが、今目の前に居る人は、おそらくこちらに心を傾けかけている。それが、アマネには不思議だった。
青海は視線を外したまま、ポツリと呟く。
「……あなたからは、不思議な気配がします。人とも妖とも、御柱様とも少し似ていて全部違う。ここに記憶喪失で投げ出され、重荷を背負わされているのに、前向きに学ぼうとしている。方術寮は、学ぶ人を差別しません。……それだけです」
ははぁ、わかったぞ。この人、ツンデレってやつだ。と、アマネは心の中で思った。それだけで、なんだかグッと青海に対して親近感がわいた。
「ありがとう、ございます」
口に出た言葉は、感謝。少しでも、気にかけてくれる存在というのを、有り難く思う。
「礼など不要です。何もわかっていないし、何も、解決出来ていないのですから」
青海の澄ました顔が、なんだかちょっとだけ柔らかく見えた。
「なので。ひとまずは、四方の宝具を壊す事からはじめる事になるでしょう。妖の出方はわかりませんが、恐らくこちらの邪魔をしてくる筈。そうなれば、戦いは避けられません。漆黒の君にも、せめて身を守れるぐらいの術を教えよとの、おひい様から勅を……」
スパァーン!
青海がそこまで言った時、急に扉の板戸が凄い音を響かせて、開いた。
「やあ! 邪魔するぞ、青海、イスミ」
朗らかな大声で入って来たのは。
「……宮様」
「うわぁ」
そう。曙の宮様と呼ばれる美丈夫、暁だった。この国での実質ナンバー2がいきなり入って来たので、青海は言葉を中断し、頭を下げた。アマネは少し迷って、ペコリと軽く頭を下げた。
「相変わらず、辛気臭い所だなぁ。イスミ、授業は順調か」
「えっと、はあ」
ニカッと笑った暁の圧に押され、はいともいいえとも言えないアマネ。そもそも、青海じゃなくなぜ自分に聞くのかと、アマネは首を傾げた。
「そうか、なら良かった! これから、近衛達の鍛錬を見に来ないか。君の身を守る人の顔を、覚えておくのも大事だぞ!」
全く悪意のない言葉と表情で暁は話を進めるが、アマネは置いてけぼりでポカンとしていた。思わず、頭を抱えている青海を、助けを求めるように見てしまった。その視線の動きに、暁の眉がピクッと動く。
「宮様。恐れながら漆黒の君には、まだ説明を……」
「うるさい。俺に指図するな。行こう、イスミ。こんな頭の固いやつは放っておけば良い」
「は、えっ、え?」
あっと思う間も無く、アマネは暁のその白いが太い手に細腕を掴まれていた。良く鍛錬された硬い手だ。少し痛いぐらいの力で掴まれ、振り解けない。
「ちょっ、あ、あの! 今の言い方はあんまりにも」
後ろで未だ頭を下げ続け顔の見えない青海から視線を外し暁を見ると、その瞳が、暗赤色になっていた。冷たい、底冷えのするような視線と絡まり、息がひゅっと詰まる。
どういう事だ、この人の瞳の色は、緑だった筈では。
アマネが戸惑っている間にも、勝手に話が進む。
「これだけ時間をやったのだ。大体は伝えたのであろう」
「是」
「なら良いな。行こう、イスミ。近衛たちに君を紹介しよう。みな、良い奴らばかりだぞ」
上機嫌の暁に、相変わらず腕を掴まれて、引っ張られた。ガタイの差に拒絶できるわけもなく、アマネは、なすがまま立ち上がり、ついて行くことしかできなかった。
後ろを振り返る。
いまだに頭を下げている青海は、微動だにせずそこに残っていた。
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