漆黒の瞳は何を見る

灯璃

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不穏な出立

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 翌朝。

 日の光が射しこむ頃に、扉が叩かれた。

「おい、あんた、起きてるか」
「はい」

 外から、昨日の男性の声が聞こえたので、起きていたアマネは素直に返事をした。何かを反抗しても、良い結果にならない気がしたからだ。ちなみに、今回は小鳥のけたたましい鳴き声で起こされたわけではなかった。やはりあれは、人が近づいてきているのを知らせてくれていたのだろう。
 アマネは小鳥を優しく撫でてやった。小鳥は嬉しそうにその手を受け入れていた。
 と、おそるおそる、といった風に小屋の扉が開かれた。小鳥はアマネの肩に移動する。
 扉の方を見ていると、あの藍色の髪の男性と、後ろに武装した人間が数人いた。武装といっても、アマネが知っているようなものではなく、胸当て腰当てぐらいの簡易なもので、槍や刀を持っていた。

「すまないが、この人達と一緒に移動してくれるか」

 男性の言葉に、アマネは首を傾げる。

「はあ。構いませんが、どこに行くんですか?」

 アマネが喋ると、藍色の男性の後ろがザワザワとする。口々に、本当に喋っただの、敵意は無くても油断するなだとか、散々失礼な事を言っているようだった。

みやこだ。おひい様の直々の命である。大人しく連行されるなら、危害は加えない。だが、もし歯向かうようなら遠慮はするなとのお達しだ。さあ、どうする」

 藍色の男性の後ろで、大声を出す男。偉そうな口調から、まあこの中では偉いのだろうと察しはついたが、なら、目の前に来て言えば良いのに。アマネはそう思ったが、口にする事は無かった。

「わかりました」

 ただ一言、簡素にそれだけ返事をする。
 アマネは昨日の一件から、彼らが自分を恐れているのだろう、というのは察した。だが、自分でもあの力が何なのかわからない。無暗に頼れる力ではないだろうから、大人しくしていよう。そう、思っていただけだが、周りの反応は違っていた。

「なんだ、あの余裕」
「まだ何か隠しているのか」
「やっぱり妖なのでは」
「おひい様はなぜ都に連れてこいなどと仰るのか」

 大の男たちが、小屋の扉もくぐれず喚いている様は、アマネの表情を冷めさせていく。なんでも良いから早くしてくれないかな、と思いながらアマネが彼らの様子を眺めていると、どうやらあの村人に縛らせるようだった。武装しているのに。本来なら守るべき方の人に危険な事をさせるんだな。
 アマネは、じっと村人を見た。

「すまないが、縄でくくれと言われたんだ。手を、出してくれるかい」

 昨日のように、人が吹っ飛ぶ事は無かった。
 アマネは一つ溜息を吐くと、おとなしく両手を出す。
 男性はきつくならないように縛ってくれたようだった。だが、簡単に解けもしない。
 その縄の先端は、あの偉そうな武装した男性の元に。彼らも髪や目が色とりどりだ。心なしか、村人たちより明るい色味が多い気がする。
 和風の顔立ちなのに、彩り鮮やかなので不思議な感じもするが、ここではそれが普通なのだろう。むしろ、自分の黒色の方が嫌われているようだ。
 アマネは、考えるのを止めた。

 罪人のように縄を引っ張られて、アマネは外に出された。
 外にあったのは、木でできた人が数人入りそうな檻。車輪がついており、その先に馬がつながれているので、檻に入れたまま運ぶ為のモノだろう、とアマネにも察しがついた。そして、それに入れられるのだろう、という事も。

「お役人様、人の子だった時、あまりにも」
「うるさい! 逆らうつもりか」
「い、いえ、滅相もございません!」

 村人の数人が取りなしてくれているようだが、武装した男たちに一蹴されていた。わずかに申し訳ない気持ちも湧くが、アマネにはどうしようも無かった。
 檻に入れと言われたので、おとなしく檻に入った。扉が閉まり、鍵がかかったようだった。
 妖、という存在と、黒、という存在が、ここでどう思われているのか。ひしひしと感じる。居心地の悪さ。
 だけど。
 心配そうに、申し訳なさそうにこちらを見る、村人の目もまた本当なのだろうと、アマネは感じた。ぺこりと頭を下げると、驚いたような顔をしていたが、彼らも頭を下げ返してくれた。それだけで、少しだけ、救われた気もした。

「出発!」

 そして、アマネを乗せた檻は動きはじめた。
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