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発現する力
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男たちの後ろを大人しく歩き辿り着いたのは、粗末な村、だった。
「おかえり、無事だったんだね」
「それが、捕まえた妖かい? 本当に不吉な真っ黒な色してるのね」
「一緒にいる鳥も不吉な色してるし」
「怖いわあ。お役人さん、さっき着いてたわよ」
男たちを出迎えた、村の女性たちが口々にアマネをそしる。男たちもそれを止める事も無い。
言いようのない居心地の悪さを、アマネは感じていた。だからと言って、何かアクションを起こそうとも思わかったが。
「役人が来てるなら、話が早いな。おい、連れてきてくれ」
藍色の髪の男が、指示を出しながらアマネを振り返った。この村の中では偉い方の人物らしい。
「君。一応、俺たちに害意が無さそうだというのはわかった。人である可能性もまだある。だから、中央の役人たちにその辺を訴えたら、君の村を探してもらえるかもしれない。記憶がないという事は、伝えておこう」
できる限りの誠意を見せてもらっているのだろうなあ、とアマネはどこか他人事のように男性の言葉を聞いていた。
「はい、わかりました。ありがとうございます」
だから、お礼の言葉も何も考えずに出てきた。おそらく、自分は記憶を無くす前もこんな風な人間だったのだろうな、とアマネはなんとなく思った。
アマネが礼を言った事によって、男たちはどこか気まずそうに顔を見合わせる。その意味も良くわからないアマネ。
「おいどこだ、その妖か人かわからん奴というのは」
そんな中、ドカドカと大きな足音を立てて近づいてくる人物がいた。アマネがそちらの方を向くと、その人物が、ピタリと止まった。そして、バッと腰に下げていた刀、に手をかける。
「おい、離れろ。そいつは妖だろ」
「で、でもお役人様、耳が」
「言葉も通じて」
「うるさい、そこをどけ!」
連れて来た村人たちが弁明をするが、その刀を手にした鉛色の髪をした大男には聞こえていないようだった。鞘から刀身を抜き、アマネに向かって素早く一直線に振り下ろした。
「……?」
筈だった。
いきなりの事に思わず目を閉じて縮こまったアマネが次に見たのは、地面に吸い込まれた、刀身。と、呆気に取られている周囲。
「な、な、何をした!」
呆然としていた大男だったが、ハッとして身を引き、今度はちゃんと刀を構え直した。
アマネは、目を見開いてその人物を見た。カッと目が熱くなる。
驚いたからこその行動だったが、視られた、男は何かにはじかれたように、いきなり吹っ飛んで気絶してしまった。独りでに、予備動作も無く吹っ飛んでいったのだ。
周りは、一気にパニックに陥った。きゃー、という女性達の甲高い悲鳴が辺りに響く。
「なんだ、何が起こったんだ?」
「わからん」
「お役人さま、大丈夫ですか」
「おい、部屋に運べ」
「あんた、動くなよ!」
わけもわからないうちに、事態が進んでいく。
アマネは、そこから動かず一人ポツンとたたずんでいた。いや、一人と一羽か。
昔も、こんな事があった気がする。何かを思い出す事は無かったけれど。
アマネは独り、そこに突っ立っていた。
夜になった。
あの後、吹き飛んだ男はすぐに目を覚まして、役所に駆け戻ったらしい。何があったかわからないけれど、どうやらあの黒髪の奴が関わっている、という事だけは村人の共通認識になったようだった。アマネ自身も、何が起こったのかわからないのに。
とりあえず、翌朝、護送車が来るのでそれまで大人しくしてもらえないか、と村人に言われたので頷いた。ら、村人はホッとした顔をしていた。
一度も、危害を加えようなんてしていないのにな。
アマネはそう思ったが、口には出さなかった。何かを喋ろうとするたびに、村人が怯えるからだ。
怯える彼らに付き合っていたら、どこかのボロい道具小屋に閉じ込められていた。食料、として干した肉と黄ばんだお米も一緒に入れられた。
食料は同じような感じなんだなあ、とあまり気にせずアマネは箸をとって、粗末な食事をとりはじめた。
一緒に着いてきた小鳥は、自分から離れる気が無いようだ、とアマネはここに来てようやくその事実を受け入れる事にした。
なぜなら、気まぐれに掌に玄米を置いたら、なんの警戒もせずに掌の上で食べだしたからだ。
記憶が無い時に、何か懐かれるような事をしたのだろうか。記憶がない事に軽い罪悪感を覚える。
それぐらい、人懐っこいのだ。頭を優しく撫でてやると、うっとりしたような顔もする。
ここがどこかわからないけれど、おそらく、この小鳥だけは自分の味方なのだろう。その考えに、心の奥が少しだけ、暖かくなった。
出された食事は、すぐに食べ終えてしまった。素焼きの食器を入り口に置きながら、アマネは考える。
ここは、どこなのだろう、と。
周囲の環境からして、昔々の日本のようにも思える。どの時代、というのは知識が無くてわからないが、かなり昔だろう。不便そうだな。思ったのはそれだけだった。
それに、彼らの言っていた、妖。
言葉の感じからも、良くない存在なのだろう、という事は理解できた。そして、それに関連するのが、自身の特徴である黒い髪、黒い目。目はわからないが、確かに髪は黒色だ。
だけど。
日本では黒い髪と目は、普通の特徴だった筈だ。
何故自分がここにいて、何をすればいいのか。何かをする為に来たような気もするけれど、思い出せない。
アマネは一つ溜息を吐くと、その硬い板の上に身体を横たえた。
驚いた事に、小鳥が添い寝をするように横に来たので、危ないのだと言い聞かせ、少し離れた場所に積んであった藁の上に乗せた。
小鳥は、理解したのかわからないけれど、おとなしくその場所に座り込んだ。その愛らしさに少し微笑み、アマネはまた横になった。
そして、静かに瞼を閉じた。
「おかえり、無事だったんだね」
「それが、捕まえた妖かい? 本当に不吉な真っ黒な色してるのね」
「一緒にいる鳥も不吉な色してるし」
「怖いわあ。お役人さん、さっき着いてたわよ」
男たちを出迎えた、村の女性たちが口々にアマネをそしる。男たちもそれを止める事も無い。
言いようのない居心地の悪さを、アマネは感じていた。だからと言って、何かアクションを起こそうとも思わかったが。
「役人が来てるなら、話が早いな。おい、連れてきてくれ」
藍色の髪の男が、指示を出しながらアマネを振り返った。この村の中では偉い方の人物らしい。
「君。一応、俺たちに害意が無さそうだというのはわかった。人である可能性もまだある。だから、中央の役人たちにその辺を訴えたら、君の村を探してもらえるかもしれない。記憶がないという事は、伝えておこう」
できる限りの誠意を見せてもらっているのだろうなあ、とアマネはどこか他人事のように男性の言葉を聞いていた。
「はい、わかりました。ありがとうございます」
だから、お礼の言葉も何も考えずに出てきた。おそらく、自分は記憶を無くす前もこんな風な人間だったのだろうな、とアマネはなんとなく思った。
アマネが礼を言った事によって、男たちはどこか気まずそうに顔を見合わせる。その意味も良くわからないアマネ。
「おいどこだ、その妖か人かわからん奴というのは」
そんな中、ドカドカと大きな足音を立てて近づいてくる人物がいた。アマネがそちらの方を向くと、その人物が、ピタリと止まった。そして、バッと腰に下げていた刀、に手をかける。
「おい、離れろ。そいつは妖だろ」
「で、でもお役人様、耳が」
「言葉も通じて」
「うるさい、そこをどけ!」
連れて来た村人たちが弁明をするが、その刀を手にした鉛色の髪をした大男には聞こえていないようだった。鞘から刀身を抜き、アマネに向かって素早く一直線に振り下ろした。
「……?」
筈だった。
いきなりの事に思わず目を閉じて縮こまったアマネが次に見たのは、地面に吸い込まれた、刀身。と、呆気に取られている周囲。
「な、な、何をした!」
呆然としていた大男だったが、ハッとして身を引き、今度はちゃんと刀を構え直した。
アマネは、目を見開いてその人物を見た。カッと目が熱くなる。
驚いたからこその行動だったが、視られた、男は何かにはじかれたように、いきなり吹っ飛んで気絶してしまった。独りでに、予備動作も無く吹っ飛んでいったのだ。
周りは、一気にパニックに陥った。きゃー、という女性達の甲高い悲鳴が辺りに響く。
「なんだ、何が起こったんだ?」
「わからん」
「お役人さま、大丈夫ですか」
「おい、部屋に運べ」
「あんた、動くなよ!」
わけもわからないうちに、事態が進んでいく。
アマネは、そこから動かず一人ポツンとたたずんでいた。いや、一人と一羽か。
昔も、こんな事があった気がする。何かを思い出す事は無かったけれど。
アマネは独り、そこに突っ立っていた。
夜になった。
あの後、吹き飛んだ男はすぐに目を覚まして、役所に駆け戻ったらしい。何があったかわからないけれど、どうやらあの黒髪の奴が関わっている、という事だけは村人の共通認識になったようだった。アマネ自身も、何が起こったのかわからないのに。
とりあえず、翌朝、護送車が来るのでそれまで大人しくしてもらえないか、と村人に言われたので頷いた。ら、村人はホッとした顔をしていた。
一度も、危害を加えようなんてしていないのにな。
アマネはそう思ったが、口には出さなかった。何かを喋ろうとするたびに、村人が怯えるからだ。
怯える彼らに付き合っていたら、どこかのボロい道具小屋に閉じ込められていた。食料、として干した肉と黄ばんだお米も一緒に入れられた。
食料は同じような感じなんだなあ、とあまり気にせずアマネは箸をとって、粗末な食事をとりはじめた。
一緒に着いてきた小鳥は、自分から離れる気が無いようだ、とアマネはここに来てようやくその事実を受け入れる事にした。
なぜなら、気まぐれに掌に玄米を置いたら、なんの警戒もせずに掌の上で食べだしたからだ。
記憶が無い時に、何か懐かれるような事をしたのだろうか。記憶がない事に軽い罪悪感を覚える。
それぐらい、人懐っこいのだ。頭を優しく撫でてやると、うっとりしたような顔もする。
ここがどこかわからないけれど、おそらく、この小鳥だけは自分の味方なのだろう。その考えに、心の奥が少しだけ、暖かくなった。
出された食事は、すぐに食べ終えてしまった。素焼きの食器を入り口に置きながら、アマネは考える。
ここは、どこなのだろう、と。
周囲の環境からして、昔々の日本のようにも思える。どの時代、というのは知識が無くてわからないが、かなり昔だろう。不便そうだな。思ったのはそれだけだった。
それに、彼らの言っていた、妖。
言葉の感じからも、良くない存在なのだろう、という事は理解できた。そして、それに関連するのが、自身の特徴である黒い髪、黒い目。目はわからないが、確かに髪は黒色だ。
だけど。
日本では黒い髪と目は、普通の特徴だった筈だ。
何故自分がここにいて、何をすればいいのか。何かをする為に来たような気もするけれど、思い出せない。
アマネは一つ溜息を吐くと、その硬い板の上に身体を横たえた。
驚いた事に、小鳥が添い寝をするように横に来たので、危ないのだと言い聞かせ、少し離れた場所に積んであった藁の上に乗せた。
小鳥は、理解したのかわからないけれど、おとなしくその場所に座り込んだ。その愛らしさに少し微笑み、アマネはまた横になった。
そして、静かに瞼を閉じた。
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