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目覚めたのは
しおりを挟む「イスミ アマネ。起きろ。おい、起きろって」
声がする。優しい、聞いた事のない声。
「おい、本当にまずいんだって……っち」
「ん」
声を無視して微睡んでいると、唇に柔らかいものが触れた。そして、冷たい液体が流れ込んでくる感触。
「んっ」
「ちゃんと飲み込めよ。いいか、聞こえてなくても聞け。ここはお前の居た世界とは違う。玉兎の言葉を思い出せ。ヒメに気を付けろ。……頼んだぞ」
「あ」
ゴクリと喉を鳴らし、ようやく震える瞼を開く。目の前に居たのは、浅黒い肌と澄んだ夜空のような暗い青色の瞳。そして、暗い髪から覗く角。
「じゃあな、また会おう」
その人物は、顔を上げると、大空へ飛び去って行ってしまった。突然の出来事に思考が追いつかない。……まだ、寝ているのかもしれない。ならば、再び寝てしまえばこの夢は終るのだろうか。
イスミアマネと呼びかけられた、少年と青年の間のような年齢の人物は仰向けのまま、また瞼を閉じた。
だが、その安眠はすぐに邪魔される事となる。
ピーピーと小鳥のけたたましい鳴き声がすぐ側でしたからだ。無視しようとも思ったが、そのあまりのけたたましさ、引いては必至さに、アマネはしぶしぶ目を開けることにした。
どうやら、ここは森の中らしかった。頭上に枝を広げる大きな木々の間から、青い空が見える。身体の下は、土や草の感触だ。
小鳥の鳴き声の方を見ると、手の平ぐらいの文鳥のような小鳥がこちらを見て鳴いているのだった。暗い青色の羽毛。先ほどの、人? の髪を思い出させる色だった。
逃げずにじっとこちらを見つめる小鳥に、思わず手を差し伸べると、驚いた事にその小鳥は身体を掌に擦り付けてきたのだった。人慣れ、し過ぎている小鳥にアマネが驚いていると、遠くの方から人の声が聞こえて来た。
「こっちから飛んできたか!」
「あいつらの仲間がいるかもしれねえ!衛士府の武人はまだか」
「おい、あそこに誰かいるぞ!」
ガヤガヤと、数人の男たちがまくし立てながら近づいてきているようだ。
うるさいな、と思いながらもアマネは上体を起こしながらそちらを向いた。小鳥が、自分の後ろに隠れるのを横目で見た。
「おい、お前大丈夫か。今さっきここに妖が……っ」
アマネは目をこすり彼らを見る。驚いた事に、近づいてきた男たちは色とりどりの髪と瞳の色をしていた。藍色、灰色、茶褐色など。アマネが、普段では見ない、と思うような彩りだった。そして、ここでズキズキと頭痛がした。
「お、おい。こいつ、髪も目も、黒、だぞ……」
「ひっ、あの妖の仲間か!」
「で、でも、耳長じゃないし、爪も丸いぞ」
「じゃあ、人、なのか?」
急に走った頭痛で頭を押さえるアマネ。
状況が判断できない。意味がわからない。
頭痛がひどくなるが、アマネは目の前の男性たちに声をかけた。
「あの」
「うわっ」
「喋ったぞ」
アマネの一言に、男たちが一斉に驚いた顔をして、後ずさった。そのただならぬ様子に、アマネも一瞬固まる。
「どうするよ」
「もし人だったらなあ」
「う~ん。ここは、お役人に投げちまおうぜ」
「そうしようそうしよう」
「そうだな。おい、あんた」
先ほどからさらに距離を取られながら、男の一人が話しかけて来た。
「はあ」
「名前は。どこの村から来た。人、なのか」
ここで、アマネはハッと気づいた。
自分に関する記憶が、無い?
なんでここにいるのか、名前すらわからない。……いや、名前は、多分。
「イスミ アマネ。頭を打ったみたいで、記憶が、思い出せないんです。あの、ここはどこですか?」
頭痛がする額を押さえながらアマネが聞くと、男たちはまた顔を見合わせた。
「やっぱり妖なんじゃ」
「でも、姓がある奴みたいだぞ」
「そんなの何とでも言えるだろ」
「う~ん。記憶が無いなら、やっぱり役人に引き取ってもらうしかなくないか。俺たちじゃ判断つかねえ」
「それもそうだ。おい、イスミとやら」
急に話の矛先が来たのでビクッとしたが、アマネは男たちを見る。
「あんたが人か妖かわからんが、ここは危険なんだ。俺たちに着いてきてくれるか。俺たちは、あんたに危害を加えない。だから、あんたも変な真似しないでくれ」
藍色の髪をした男が言う言葉に、アマネは素直に頷いたのだった。
男たちが先導し、アマネがその後ろを歩く。近寄りたくない、という雰囲気がありありと読み取れて、アマネは不思議に思っていた。はて、自分はそんなに醜い容姿だっただろうか、と。おそらく違うと思うけれど、というのはただの希望だろうか。
アマネはわけがわからないので、おとなしく後ろを歩く。
小鳥は、何故かアマネの肩に乗り、見間違えでなければ意気揚々とついてきていた。懐かれる理由がないが、追い払う理由もないし、アマネは好きにさせる事にした。
黙々と歩きながらふと、明らかに自分の服装が彼らとは全く違う事に気づいた。
アマネは、シャツにズボン、スニーカーといういかにもよくある若者の服を着ているのだが、目の前を歩く彼らは、まるで時代劇にでも出てきそうな、ボロの着物、を着ていた。
アマネは、ここで先ほどの夢うつつで聞いた男性の言葉を思い出した。
ここは、君の居た世界とは違う。あの、優しい声が言った言葉。
異世界転移。
アマネの頭の中にこの単語が浮かんで来たが、だからといって自分の記憶が戻ってくる事は無かった。
ただ、この異世界転移というは、現代日本から異世界に飛ばされる事象、だというのは思い出したので、多分、自分は現代日本で生活していて、今、異世界というか違う世界に来たんだろう、という状況だけはなんとなく理解した。
帰る家を思い出せないのなら、帰りたいとも思うわけがなくて。
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