お前の失恋話を聞いてやる

灯璃

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短編 酔っぱらい

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「やぁまとぉ~、ただいまあ~」

 玄関の扉が開く音がすると同時に、ご機嫌な司の声が聞こえた。そろそろ帰ってくるかと、片耳だけイヤホンを外してゲームをしていた大和は、急いで一時中断にして玄関に向かった。

「おかえり~、早かったね」

 今日は、司の勤める会社の創立記念パーティーがあり、それに出席していたはずだ。大和はそう思い出しながら玄関に向かうと、珍しく玄関の上がり框に座っている司がいた。広くなった背中、スーツの上着は脱いでいるので、シャツからうっすら筋肉が見えているのがまたエロい。
 そんな場合ではないかと、大和が話しかけると、

「どうした司、気分悪いのか? 水もってこよ……」

 言い終わる前に、反転した司から抱きしめられていた。急な事ではあるが、抱きしめられる自体はいつもの事なので、大和はつい癖で司の背中に手を回した。

「司、……ん? 酒臭いぞ、お前」
「あははは~、大和ぉ~」
 
 大和が顔をしかめたが、司は相変わらず上機嫌で抱きしめてくる。
 顔を背けると、ぐりぐりと司は大和の胸に頭を擦り付けた。大型犬のような行動に、思わず苦笑する大和。

「今日はねぇ~、大和がどれだけ、世界で一番のつがいか自慢してきちゃったぁ~えへへ~」
「はあ?」

 相変わらず甘えたような行動をする司に、大和が思わず声を上げた。

「おまっ、それ、会社の人にやってきたの? 恥ずかし過ぎるんだけど……」

 割と引いた声を出すが、上機嫌の司は気づかない。

「お祖父様にもしっかり伝えてきたよ~。ようやく、大和が宇宙で一番だってわかってくれたんじゃないかなあ~」

 ブッと勢いよく大和が噴き出した。自分でも咄嗟の事だったが、司にかからないように顔をそむけたのは愛ゆえだろうか。

「お、おおお、お前、マジか」

 あれだけ恐れていた祖父に。あれだけ、運命の番ではなければ結婚させていないと言い放った生粋アルファに。反論してきたというのか。
 驚きのあまり、言葉が出ない大和。あとちゃっかりスケールアップしたのは突っ込まないでおく。

「大和は、オレの、唯一だから……あた、り、まえ……」

 言葉が出ず大和が固まっていると、司から、すぅすぅという寝息が聞こえて来た。

 司が、酒に弱いというイメージはない。むしろ、会社の飲み会の時は祖父や人の目があるので、気が張って酔えない、と言っていたし、実際そう酔って帰って来た記憶は無い。
 その司が、ここまでご機嫌で酔って帰って来たのだ。
 発言内容はどうあれ、楽しいものだったのだろう。嬉しい事だったのだろう。
 オレの事を自慢できて嬉しいなんて、恥ずかしい奴。
 と、思うが大和のニヤケ顔はとまらない。嬉しさで頬が緩むのが止められない。
 ふぅ、と一旦息を吐いて、大和は司の後頭部にキスを落とした。

「ありがとな。オレの事、そこまで好いてくれて。オレも、大好きだよ」

 そう、いつもは言わない事をそっと囁いて、大和は顔を離した。
 そして、重たい司の身体を、ずるずる玄関から引き揚げた。男だからそれなりに筋肉があるつもりだったのだが、思ったより重たく都合よく動かない司に悪態をつきながらも、大和はなんとか和室まで運び、布団をかけてやった。服は皺になるが、仕方ない。

 安らかに眠る司にもう一回苦笑して、大和は自分のベッドに戻っていった。
 酒臭いの、嫌だし。
 大和は、一人のベッドで安らかに夜を過ごした。



 ちなみに次の日、司は全ての記憶を忘れていた。祖父に揶揄れて顔を真っ青にするのは、もう少し後の話。

 終わり




ーーーー

「たぁらいまぁ」
「大和?!」

 べろんべろんに酔っぱらった大和が、玄関を開けた司にポスンともたれかかってきた。
 玄関の扉も、大和も支えなければいけない司は、一瞬迷った後、大和を片腕で抱きかかえて玄関の中に抱き寄せた。扉の支えを外せば、自動で扉が閉まり鍵がかかった。

「おかえり、大和。大丈夫?」
「んー」

 玄関のたたきで抱きしめている形だが、大和が今すぐにでも寝そうな気配を察知し、司は声をかける。

「大和、とりあえず着替えない? お風呂入れそう? 一緒に入る?」

 だが、大和からの返事は、んー、だ。同意とも否定ともとれる返事に、司が困る。

「大和?」
「へへっ。司ぁ、お前、めっちゃイケメンだって、評判だぞぉ」

 司が名前を呼ぶと、少し覚醒してきたのか、大和がひょこっと顔を上げた。ニッコニコの笑顔で、司の心臓がドキンとはねた。

「評判? 大和、今日は会社の忘年会だったんだろ。なんで俺の話?」

 ニコニコ可愛い笑顔の大和だが、言っている事は不思議だった。司が問いかけると、大和はドヤ顔で、

「お前が、前、オレが会社早退する時、迎えに来てくれただろぉ。その時見た受付の人たちが、今日めっちゃ褒めてくれたんだあ~。素敵な旦那さんですね、って~。えへへへ」

 そう言うと、また司にギューッと抱き着いた。今すぐ押し倒したい衝動と戦いながら、司は平常心を装って微笑む。

「当たり前だろ。大和が困ってるなら、一番に駆けつけたいっていつも思ってるよ」
「おまえほんとうにいいやつ~! 大好き~!」

 再びドキンと司の心臓が跳ねた。が、大和の腕の力が増していくのでついうっと呻いてしまった。
 楽しくて、嬉しそうな大和の声に司まで嬉しくなるが、身体を締め付ける力がさすがに苦しくなってきている。

「俺も、大和の事大好きだよ。ね、大和、お風呂入ろ。俺も一緒に入るから、危なくないよ」
「わかった~」

 再び眠りに落ちそうになっているのを察知し、少しでも会話ができる内にと司が提案すると、今度は素直に受け入れた。
 一緒にお風呂、は実は数回しかした事がないので、司はウキウキで大和を誘導した。

 だが、やはり酔っぱらい相手。
 目を離すとすぐに眠って水に顔を付けそうになるので、気が気でなく、まるで三歳児を風呂に入れているような気忙しさで、結局エロい事は、何一つできなかった司であった。



 次の日。
 大和はばっちり昨日の事を覚えていて、羞恥で布団饅頭になってしまいましたとさ。

 終わり
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