お前の失恋話を聞いてやる

灯璃

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後日談 幸せな家族の話を聞いて欲しい 中

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「はーい。どなたですか」

 短髪の青年が玄関にとりつけられているインターホンのカメラを見ると、見慣れた女性が二人仲よさげに立っていた。
 慌てて、鍵とドアを開ける。

「母ちゃん、たち、どうしたの急に」
「なあに、可愛い孫の顔を見に来ちゃいけないわけぇ」
「あらあ、やっくん元気にしてたぁ」

 老齢に差し掛かる年だが、まだまだ若々しく元気な二人に向かって短髪の青年が呆れたような、だがどこか嬉しそうな顔をする。

「ま、いらっしゃい。ちょうど、姉ちゃんも来てるんだよ」
優菜ゆうなが? なんでまた」
「あらぁ、ゆうちゃんがいるのぉ。久しぶりに会いたかったのよぉ」

 わいわい三人で玄関から中に入っていくと、ダイニングテーブルでまだ打ちひしがれていた女性はバッと上半身を起こし、くせ毛の男性はちょっと驚いたような顔をした。

「あれ、母さんたち。どうしたの、何かあった?」
「げ、母さん。と、司のおばさん。こんにちは」
「げ、じゃないわよ。優菜、なんであんた大和ん家にいるのよ」
「ゆうちゃん、久しぶりね~。元気してたぁ」

 わいわい賑やかになりだしたキッチン。
 くせ毛の青年は苦笑してコーヒーを人数分入れ直してきた。ら、なんだか女性三人が意気投合していた。

「あら、つっくんありがとね」
「まぁ~、それは酷いわねえ、ゆうちゃん。そうだわ、気晴らしにスイーツでも食べに行かない? りっちゃんもみーちゃんもお昼寝してるんでしょう」
「えっ、良いんですか」
「もちろんよ~。ね、明子あきこさんも行くでしょ~」
「そうねぇ、花枝はなえさんと優菜が行くなら、行きましょうか」
「やったぁ、決まりね~。私夢だったのよぉ、女性だけでお茶会するの~」

 くせ毛の青年は、自分の母親が少女趣味でありながら息子一人しか生まれず残念がっていた事を知っていたので、苦笑する事しかできなかった。

「っていうか、母ちゃんたち何しに来たんだよ、マジで」
「だから言ってるじゃない。かわいい孫の顔を見に来たって。あらこれ美味しいわ」
「そ~なのぉ。明子さんが誘ってくれなかったら、ゆうちゃんにも会えなかったしぃ。お出かけして良かったわあ」

 母二人と姉の会話に、息子と弟は口を挟めない。肩を竦めてお互いを見やる事しかできなかった。

「あ、そうだった。大和、はいこれ。みんなで食べなさい」
「そうだったわぁ。はい、司、やっくん。どうぞ~」

 母二人はそれぞれ、お菓子と子供服のカタログギフトを机の上に出した。お互い全く違うチョイスで、母二人は顔を見合わせて笑っていた。
 くせ毛の青年が、パラパラとカタログギフトをめくりながら聞く。

「母さん、どうしたのこれ」
「お父さんがね~、なかなか来れないから、せめて服でも買ってやれって。でも、すぐおっきくなっちゃってサイズわからないから、これにしてみたのぉ」
「おば、おかあさん、すみません」
「いいのよ~、やっくん。たまには、うちの人にも顔見せてあげてね~」
「はい。ありがとうございます」
「そうだ、父さんたちは? 今日、休みだろ」

 くせ毛の青年の言葉に、ふわふわの髪のくせ毛の青年の実母がちょっと口をとがらせて答える。

「お父さんたち、最近意気投合して二人で魚釣りに行くのよ~。釣るなら、最後までさばいてきてほしいわ~」
「「「えっ?!」」」

 これには、子供たち三人ともが驚愕の声を上げた。

「司のおじさんと、父さんが? 釣りなんてしてたっけ?」

 長女が声を上げると、最近白髪染めをして黒黒とした髪の姉弟の実母が呆れたように答える。

「最近、つっくんの方のお家に呼ばれて、海に行ったのよ。そこで、魚釣りの楽しさにはまっちゃったみたいで。独りで行くのは危険だからって、花枝さんの旦那さん誘ったら、了承してもらえてね。そっから、二人で休日のたびにどっか行ってんのよ。だから、私たちも二人でおでかけしましょー、ってね」
「そうなの~。逆に、旦那が家にいないと気兼ねなくお出かけできて楽しいわ~」
「そ、そうなんだ」

 それぞれの両親が楽しいならそれでいいか。何も言うまい。息子二人は笑って口を閉ざした。

「さ、ゆうちゃんどこに行きたい? 新しくできたお店があるそうなのよ~」
「えっ、本当ですか。そこ行きたいです」
「じゃあ、邪魔したわね、大和、つっくん。あ、そうそう。父さんたちにも、たまには孫の写真送ってあげてね」

 そうして女三人は、楽し気に二人の家から、去っていった。





「……嵐のようだったな」
「そうだね」

 青年二人は苦笑して、見つめ合う。
 そしてどちらともなく唇を合わせ、微笑んだ。

「あ、そうだ。父ちゃんたちに、二人の写真送ってあげよ」

 短髪の青年が、善は急げとスマホを持って幼子二人が眠る部屋に向かった。これだけ大人が騒動しても起きないのだから、大したものだ。
 短髪の青年がそーっとスマホで写真を撮ると、男の子の方がむずがるような動きをした。起こしてしまったか、と思って一瞬動きを止める。が、また安らかに寝息をたてはじめたので、ホッとしてくせ毛の青年が洗い物をしているキッチンに戻った。

「司。ね見て、かわいくとれたよ」

 ジャーと、水を流しながら先ほどのコーヒーカップを洗うくせ毛の青年の、しっかりした背中にピトリと抱きつき短髪の青年が言う。

「えー、どれどれ、見たい~」

 抱きつかれた青年は急いで洗い物を済ませ、タオルで手を拭きながら肩越しに短髪の青年を見る。スマホを弄っていたが、目が合うとにっと微笑まれた。

「ほら、これ」

 くるりと半回転して、くせ毛の青年は短髪の青年と正面から抱き合う恰好にした。そんなくせ毛の青年に笑いながら、短髪の青年は先ほど撮った写真を見せる。フラッシュを焚かなかったので、薄暗い室内はスマホカメラの限界だったようだ。うっすら顔が見える、が不鮮明な写真にくせ毛の青年が苦笑した。

「起きてからも、また撮って送ってあげようか」
「そうだな。でも、とりあえずこれはこれで送ってあげよ」

 スイスイとスマホを操作し、あっという間に父親二人に孫の寝顔(不鮮明)を送る短髪の青年。
 送って、しばらく二人で抱き合っていちゃいちゃしていると、返事が返ってきた。

『かわいいな』
『かわいいな』

 父親が二人とも同じ文面を返してきた事で、おそらく二人で一生懸命、協力して返事をしたんだろうという事が読み取れて、息子は二人して笑ってしまった。

「とーたん」

 そして、ついに、小さい怪獣が目覚めてしまったようだ。
 目を見合わせて二人で苦笑すると、短髪の青年の方が先にその少年に向かって行った。

「どした、理人。まだ寝てていいんだぞ」
「ん~ん~」

 その小さい腕と手を伸ばして、だっこ、を要求する。そんな少年に苦笑しながらも、短髪の青年は慣れたようにひょいと持ち上げ、だっこした。
 抱っこされた少年の頭を、くせ毛の青年が撫でる。ふわふわの髪はくせ毛の青年に似たのだろうが、顔だちは短髪の青年にそっくりだ。

「起こしたかな。ごめんな」
「ん~ん~」

 まだ、半分は眠りの中にいるようだ。

 ピーンポーン。

 そんな少年を優しい目で見つめていた二人だったが、また、玄関のチャイムが鳴った。
 今日は来客の多い日だが、さすがにもう宅配便か何かだろう。
 子供を抱っこしたまま短髪の青年が玄関に向かおうとするので、くせ毛の青年がそれを制して先に玄関に向かった。
 そして、インタホーンに映った人物を見て、絶句した。
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