お前の失恋話を聞いてやる

灯璃

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短編 首輪(あかし)※背後注意

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「司、大学合格おめでとう」
「うん、ありがと。大和が、さっさと専門学校決めてたから、ちょっと焦ってたけど、本当に良かった」

 両親が仕事に行って居ない土曜日。
 三年生は年が明けて、進路が決まった人間から自由登校になっていた。オレはさっさとゲームを作るための専門学校に決めていたから、あとは司がどうなるかだけだった。ようやく、ハラハラする日々が終わるのだ。もちろん、司を信じてはいたけど、上位の大学というだけでオレには想像もつかない世界と偏差値だから……。
 へへっと笑って、背後にいる司の胸に後頭部を寄せる。司の長い脚の間にしまわれるように座っているので、背中があったかい。

「よかったな。これで、ようやくつかの間の自由だ」
「ああ!」

 オレの腹にまわしている腕に力がこもる。この、全部司とくっついてる感じ好きだな、なんて。

 ふと、藤の匂いが香る。オレからではない。発情期はもうちょっと先の予定だ。となると、後ろでオレの後頭部を吸ってる、こいつから。尻に硬いモノも当たってる。

「ね、大和」

 なんで、人間って猫とか後頭部を吸うんだろう。不思議だ。
 色気を含ませた声を無視して、考え事をしていると、身体をちょっと揺すられた。それは、だだをこねるような仕草で。

 まあ? 両親のいないオメガの部屋に、アルファを連れ込んだ時点で、オレも共犯なんだけどさ。
 司の足と腕の中で、くるっと身体を反転させて、司に向き直る。

「お疲れさま、司」

 こいつが、頑張って勉強していたり生徒会の活動をしていたのを、知っている。
 高木先輩と中村先輩に誘われて二年で生徒会に入ったけど、三年の今や生徒会長もやっているんだ。ちょっとぐらい、ご褒美あげないとな?
 それにオレも、会えなくて寂しかったし。こうやってくっつくのも久しぶりだ。
 そんな、期待を込めて司にキスすると、司の顔は、蕩けた。









「あっ、あ、あ、あっ、やらぁ、おくぅ、もっとぉ」

 うつ伏せになり、尻だけ上げた状態で、司に腰を持たれている。枕はオレの涙なんだかよくわからない液体でグチャグチャ。

「奥にだしたら、赤ちゃんできちゃうね」

 その、楽しく意地悪そうに言われる言葉には、本能的にいやいやするように首を振った。
 さっきから司は、オレのきもちいいナカの、入り口をぐりぐりするだけで、一向に奥にきてくれない。もっと、埋めてほしいのに。奥、突いて良いとこえぐってほしいのに。入り口付近から入って来ようとしない。たまに抜けたりすると、それだけで残念そうな声が出て、恥ずかしい。
 
「そう。じゃあ、ここでオレはいいよ」
「やぁだぁ。もっとおくきてよお」
「いいの? おくに出しても」

 司の言葉には、いやいやする。

「ねえ、どうしてほしいの?」

 その言葉には、含み笑いのようなものもあって。オレはなんとか後ろの司を振り返った。
 なんて顔してんだよ。
 目をランランに光らせて、涎垂れてるのにも気づかないで、オレを見て笑ってる。我慢してるんだ、あいつも。でもなんで?

「なんでぇ」

 奥に欲しいのに。そう言ったら、奥に出すと言う。
 その話は、卒業して就職してからって約束して、お互いの両親にもそれで話通してるのに。なんで、今。

「ああ。大和。やまと。もっと、きもちいいとこ、いきたい。挿れたい」

 司の切羽詰まった声。笑ってるけど、余裕なんてないんだ。あいつの匂いが濃くなる。

「つかさぁ」
「っ、大和。ね、お願い、噛ませてオレに。オレの、オレだけの大和だって、オレだけだって証を刻ませて。オレにも首輪あかしつけて。やまと、お願い」

 その泣きそうな声にハッと見ると、色気をまとわせたままの、泣きそうな、縋るような表情の司がいて。
 その表情にとてつもなく欲情してしまうのは、オメガだからか、オレ個人のものなのか。

 力の入らない腕にグッと力を込めて、上半身を起こす。その拍子に司のモノが簡単に抜けるが、気にせず司と向かい合う。そして、その頬を流れる涙を、舐めとった。
 美味しい。
 こいつは何でもかんでも綺麗だし、美味しい。何でオレなんかの番なんだろうな、このアルファ。
 オレが我慢している間、こいつも我慢したり嫉妬したりしたのかな。
 運命だって言ったのは、お前なのに。不安になる必要なんて、どっちも無かったのだ。

 でも確かに、こんな待ても出来ない美しいイヌには、首輪あかしが必要だろう。

 司と向かい合ったまま、その首に手をまわし、左手で見せつけるように自分の肩口をなぞる。そして、頸をクイッと傾けて、

「司。噛んで。良いよ、オレの首輪あかし、つけて」

 伏目のまま司を見ると、固まっていた。失礼な。

「つかさ?」
「あっ」

 司が声を上げた。見ていると、鼻から赤い液体。

「ちょっ、やまと、エロすぎる……っ」

 鼻血を急いでで拭っている司を見て、ああ、あの赤い線すら舐め取りたいなんて。オレもたいがい司にイカれてる。くすっと笑いが漏れた。

「じ、じゃあ、噛むよ、やまと」
「……うん。きて、つかさ」

 次の瞬間、肩口に硬くて熱い感触。
 噛まれた、と思った次の瞬間、

「あ”っ、あ”、あ”ぁ~!」

 少しの傷み、と熱さ。そして、快楽。
 恐ろしい程の、幸福感。
 肩の傷口から流れ込み、流れ出し、混ざり合い、巡る。
 たまらず司にしがみついた。そうしないと、身体から力が抜けて倒れてしまいそうで。
 フーッフーッと荒い呼吸が、すぐ側から聞こえる。それだけで、イッてしまいそう。あ、でもこれ、オレからもか。

「つかさ、つかさぁ」

 たまらなくなって司を呼ぶと、肩口から熱いものが離れていく。

「こえ、やばいぃ、気持ちよぎるぅう」
「うぁ。やまと。オレ、お前を食べ尽くしたくなる……」
「たべてぇ、つかさ。おれを、ぜんぶ」

 どさり、とまたベッドに押し倒された。
 噛まれる前も気持ち良かった。
 でも、噛まれた後のソレはまた違ったように感じる。快楽の中に、甘やかな幸福感が、まるでやばい薬でもキめたかのように流れ込んでくるのだ。

「つかさ、つかさ。オレ、いつかぜったい、お前の子を産むよ」
「うん。大和、オレの子、孕んでね」

 司の言葉に、ズクンと、腹の奥が疼く。はやくはやくと、ねだる身体が浅ましい。でも、嬉しい。



 ピトッと、硬いモノが入り口に当てがわれた、と思った次の瞬間には、一気に奥まで貫かれた。その衝撃で、一回イった。
 ビクンビクンと身体が、ナカが蠢く。

「っ、あー、ごめんっ、やまと」

 イッた余韻で呼吸を落ち着かせようとしている時に、切羽詰まったような司に、また奥まで一気に貫かれ、引きぬかれ、また奥まで突かれる。
 ガツガツとした余裕のない動きに、こちらまで否応なく絶頂に昇らされる。
 降りられない。
 この気持ち良さから、おりられない。
 目の前の司にぎゅっとつかまる。くっついていると、幸せ。こわくない。二人なら、こわくない

「ぅっ、い、いくっ、やまとっ」
「オレ、オレもイっちゃうぅ。つかさぁああ」

 オレがナカでイクのと同時に、中に、出された感覚。じんわり広がる生温かいもの。オレの中に沁み込んでくる、司という存在。それが嬉しい。



 ……じゃないって! ああもう、オレ本当に司に甘い。

 司は、疲れ果てたようにオレの横にボスンと落ちて来た。オレの肩の上に腕が置かれた重みと暖かさ。そして、ギュッと抱きしめられた。オレも、つい抱きしめかえす。

「やまとぉ~」

 甘ったるい声がくすぐったい。

「なんだよ」

 くすぐったくて、つい、ぶっきらぼうに答えてしまう。

「ね、大和。オレも、噛む?」

 蕩けた顔のまま、司はトントンと自分の肩を指で叩いてみせた。
 余裕かよ。
 ちょっとムッとして、返事もせずに司の肩に噛み付く。もちろん、オメガから噛んだって何も意味は無いし、たぶん痛いだけだ。だけど司は、

「っ、やまと。きもちいいよ」

 そんな顔でウットリしたように言うから、こいつ本当はオメガなんじゃ、とか思いながら、よだれのついた肩口から口を離す。ちょっと赤く痕がついただけで、血とかは出てない。よかった。

「おいしかったよ、つかさ」

 ペロリと唇を舐める。何も感じなかったけど、その肩口を差し出した司の気持ちが、オレをたまらなくさせる。

「ならよかった」

 嬉しそうに笑う司の肩口を、労わるように舐め上げて、オレは立ち上がった。
 腰がガクつが、なんとかセーフだった。
 ようよう、机の上にあらかじめ用意しておいたどギツイ赤い薬を、ジュースで流し込む。
 危ねえ。
 久しぶりだったし、あいつの様子が変だったからもしかしてと思って置いといたけど、正解だったな。
 そんなオレの様子を見る、寝転んだまま頬杖をついた不満げな司。そんな表情に、つい笑ってしまった。

 立ったままソッと肩口をなぞると、規則正しい小さな痕が触れる。番の、くびわ
 ふふっと笑うと、もっそりと起き上がってきた司が、オレを後ろから抱きしめた。

「やまと」
「うん」
「番の証、噛ませてくれて、ありがと」

 オレは腕の中でくるりと反転し、司と向き合った。オレも、司をぎゅっと抱きしめる。

「オレも、ありがとう。オレと、番になってくれて」

 ぎゅーっと抱き締められた。
 お互い見つめ合い、自然とキスをした。舌が口のナカに入ってきて、オレもそれを普通に受け入れる。

「んっ」
「あっ、あー……」

 見たくなくても目に入る、司のソレが、元気を取り戻しているところ。

「おい、いま薬飲んだばっかりなんだぞ……ちゃんと、ゴムつけろよ」
「うん!」

 急に、ふわっと重力から解放された。と思ったら、司にいわゆるお姫様だっこされて、ベッドにつれ戻されていた。
 ビックリして反応できなかったが、司はもう、ヤル気満々のようだった。

 ちょっとだけ苦笑して、オレから、キスした。

「あんまり激しくしないでよ」
「がんばる」

 気持ち良くて、幸せな時間は、まだ終わらないようだ。




 番END
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