お前の失恋話を聞いてやる

灯璃

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オレと司

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 何とか、オレが立てるようになったので、ゆっくり歩いて、帰り道を歩く。生まれたての小鹿の気分を味わう事になるとは思わなかった。
 横で司が腰を支えているので歩けてるんだけども、何だか恥ずかしい。鞄も結局司が持ってる。

「大丈夫、大和。ごめんね、無理させちゃった。あんまりにも可愛くて」

 うっとりしたように言うけど、この幼馴染、目ぇ大丈夫かな?
 抑制剤なのかお守りのおかげなのか、だいぶ気持ちも身体も落ち着いてきていた。……いや、うん、ナカにまだアレがあるせいかもしれないけど。

「心配するの遅くね」
「ごめんって~。次は、ちゃんとベッドでしような」

 ぶふっ、と変な吹き出し方をしてしまった。ああ、次。そうか、次……次。

「えっと、司、あのさ。その……どうする?」
「どうするって、何が?」
「その、えっと、運命のなんちゃらではあったわけだけどさ、その」
「ああ。これからの事? それとも、お付き合いして結婚するまでの話?」
「飛躍しすぎだろっ」

 びっくりして、思わず突っ込んでしまった。危ない、衝撃で膝から崩れ落ちるかと思った。司が支えてくれてなければヤバかった。
 そんなオレに一瞬焦ったようだったが、司が笑った。

「え、だって、オレたち好き同士じゃん? 運命の番じゃなくても、好き同士なら結婚するでしょ。あ、そっか」

 そこまであっけらかんと言って、司はオレを見た。
 街灯の灯りで、司の顔が少しだけ良く見えた。その顔は、何だか大人びて見えて。
 にっこりと、笑ってオレに言う。

「早乙女 大和さん。卒業したら、オレと、結婚してください」
「~~っ」

 今日は、色んな事が起こりすぎている。
 これ、現実? 夢じゃないよね?

「大和?」

 答え、知ってるだろうに、司が促してくる。笑ってるなんて、余裕かこの野郎。
 オレは、ゆっくり深く息を吸って、吐いた。

 きりっと、司を見返す。

「卒業してからじゃない。就職してからだ。その後、オレからプロポーズするから、待ってろ」
「えっ、なにそれ大和カッコいい……」

 司が口に手を当てて、顔を真っ赤にする。
 よし、一矢報いた。

「でもさ、待つのはいつまでも待つけど、就職はちょっと先過ぎるんじゃ……」

 おずおずと司が聞いてくる。こいつ、賢いけど阿呆だよな。

「司。確かにオレは、お前が好きだよ。でもそれは、お前に寄りかかって生きたいって事じゃない。この先もずっと、堂々と、お前の隣で歩けるオレでいたいんだ」

 まあ、本当に就職できるかはやってみないとわからないけど。
 そこまで言って、ニッと笑うと、司が泣きそうに顔を歪めた。こいつも結構泣いたハズなのに、枯れないなあ。

「大和、オレ……。うん、わかった。大和の意思を尊重する。オレも、お前の隣で堂々と歩いていたい」

 ずっと鼻を鳴らして、司が言う。

「よしよし、良いこだ」

 頭を撫でてやると、本当にわんこのように目を細めて笑う。ぶんぶんしてる尻尾が見えるようだ。

「じゃあ、また、明日な」

 オレたちの、隣合った家が見える。

 司が、立ち止まる。
 なんだろうと振り返ると、ちょっと寂しそうな、何かを期待しているような顔をしていた。
 ああ、と、オレも気づく。
 苦笑して立ち止まり、司に近寄って背伸びする。
 そして、ちゅっと、軽く司に口づけた。
 どうやら正解だったようだ。
 途端に、パッと顔が明るくなって、司からも軽くキスされた。

「うん。大和、また明日」

 本当に幸せそうに笑うから。オレも、自然と笑顔になる。





 こいつの為なら、自分の心を犠牲にしても良いと思った。諦めるのが、”愛”だと思った。
 だけど、想いが通じて、一緒の気持ちだとわかった今の方が、何倍も、何十倍も、司が愛おしい。

「司、ありがと」

 口から、自然に言葉が溢れていた。

「うん。オレからも、ありがと、大和」

 オレの心の中なんてわからないハズなのに、それでも司は、オレと同じ気持ちなんだって、わかる。
 これが、運命の番だからか、オレたちだからかはわからない。
 だけど、一緒の気持ちだって、わかったから。


 もう、司の失恋話を聞く事も、オレが失恋し続けることも、無い。
 これからは、一緒に話しあおう。
 オレと、お前で。
 これからの、未来に向けて。



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