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運命と
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「えへへ……っ?!」
キスした後涙を拭うと、司が驚いたような、戸惑ったような声を上げた。
ブワッと、司の匂いが強くなる。
「えっ?」
……そして、オレからも。
ナニかが、ブワッと出たのがわかった。
あ、これ、オレのフェロモンだ。なんで? 発情期はまだまだ先のハズだろ。
「あっ」
おじいちゃん先生の言葉が、思い出される。
一ヶ月ぐらいで発情期がくる人もいる。アルファとの関係で。
「な、なぁ大和。これって……もしかして?」
なぜか、司の言葉に顔が真っ赤になる。
「お、オレ、帰る!」
バッと椅子から立ち上がると、腕を掴まれた。恥ずかしくて、逃げたいのに、逃げられない。
掴まれた腕から熱が這い上がってくるようだ。
司の瞳が、さっきまで泣いて充血していたはずの瞳がランランと輝き、オレを見る。
「これ……ヤバいよ、大和。ねえ、ほんとヤバい。うわぁ、めっちゃくちゃ、嬉しい。何これ、本当にこんなことあるの」
見た事ない、司の表情。
経験のないオレにも、ただ漏れでわかる。
司、オレに、欲情しているんだ。
まるで涎でも垂らしそうな半開きの唇、オレを食い入るように見つめる瞳、上気した頬。声。……匂い。オレを、誘う、匂い。
「つ、かさ。な、に、これ」
ドクン。
心臓の鼓動が、強く打つ。
ドクンドクン、ドクドク。
あの、発情期一日目の衝動が、クる。切なくて、辛くて、欲しいしか考えられない、頭に靄がかかる酩酊感としかえいない、衝動が。
先ほどとは違う、生理的な涙が出た。
司を見ると、司はガタっと立ち上がりオレの側に来た。そしてオレを抱きしめた。ぎゅーっと強く、しっかり。
司の身体に、匂いに、さきほどより強烈に包まれる。
「あぁ、大和可愛い。本当に可愛い。大好き、ずっと大好きだったんだ」
もう、ダメだ。
こんなの、無理だよ。
だって、だって、ずっと好きだった奴が、オレを好きだって言って抱きしめてるんだ。
もう将来の事とか、不安とか、別れる事とか考えずに、今だけはこの衝動に従っても良いんじゃないかな……。
「司、オレも、お前が好きだよ。ずっと」
「うん! オレも大和が大好き。ずぅっと、ダメな方の想像しかできてなかったから、今、物凄く幸せ! だって、オレの運命の番が、大和だったんだもん!」
「……はぁ?!」
全部忘れて流されようとした瞬間、思いもよらない言葉が聞こえて、思わず司の胸を強く押して、引きはがした。
その衝撃に、一気に発情期の靄がかかったような思考が晴れる。
「お、お前っ、それ、本気で言ってんの?」
ついさっきまで、オメガのフェロモンすらわからなかった奴が。
オレの疑惑に、司が上気したままの頬を膨らませる。
「本気だよ! 逆に、なんで大和はわからないの? こんなにハッキリ、オレと同じ匂いさせてるのに」
「司と?」
司からは、藤のような匂いがする。
オレからは……あれ、なんか、確かに同じような匂いが、する?
いやいや、司の匂いが強いからじゃないのか。っていうか、オレの匂いって、どんなのだったっけ?
「他のアルファが言ってたよ。運命の番に出会うと凄く良い匂いって感じて、同じ匂いだって思うんだって。オレ、大和から甘くてちょっとスッとする藤っぽい花の匂いがする。大和は、しない? オレと同じ、匂い」
引きはがして距離をとったオレを、もう一度抱き寄せ、腕の中に収める司。
脳が、事態に追いついていかない。
嘘だろ。
だって、オレと司だぜ。あんまりにも、出来が違いすぎるのに。
司に促されるように見つめられると、口が勝手に開く。
「す、する。オレも司から、藤のような甘い匂い、する」
「ほらぁ! やっぱりそうじゃん。家が隣なのも、同い年だったのも、ぜんぶ、全部運命だったんだよ!」
あんまりにも嬉しそうに言われるので、そうなのか、とすとんと言葉が心に落ちてきた。
落ちて来たが、反応できなかった。固まったと言ってもいい。
「嬉しい。大和、オレめちゃくちゃ嬉しい。本当はずっと、大和が運命の相手だって知ってたんだ。気付かないようにしてただけ。遠回りしたけど、ようやく手に入れた。嬉しい」
オレたちは、藤の花なんて気にしたこともなければ、おそらく匂いを嗅いだこともない。なのに、お互いこれは藤の匂いだと感じたのだ。
信じられない。
だけど、確固たる証拠が、反論できなくなるほどの純然たる事実が、ここに出てきてしまった。
運命を、信じても良いの?
ギュッと胸が苦しくなり、涙が溢れた。
「どしたの大和? どっか痛い?」
途端に、司が心配そうにオレを覗き込む。
「……がいたい」
「ん、なに?」
「むねが、いたい。お前が、好きすぎて、痛い」
そう呟くと、またギューッと抱きしめられた。もう離さないと、逃がさないとでもいうぐらいの、強い腕の力。今はその苦しさすら愛おしい。
司が恍惚とし過ぎて泣きそうな顔で、オレの肩口に顔を埋めた。
「大和。オレも、好き。大好き。良い匂いする。オレと一緒の。オレの大和。もう離さない」
司は、オレのうなじや肩口に顔を摺り寄せ、すんすんと匂いを嗅いでる。母ちゃんや父ちゃんにあそこまできついって言われた匂いを。
本当に、信じられない。
ふと、肩口に唇が触れた感触がした。
そして、硬い物があたって。
「だっ、ダメ!」
思わず、両手で司の頭を無理矢理引きはがした。
引きはがされた司は口を半開きにして呆然としていたが、ムッとした顔をした。怖くないけど、レトリバーが拗ねてるみたいな顔になってる。
「なんで。良いじゃん、オレの証だよ!」
こいつ、わかっててどさくさに紛れて、番の証をつけようとしたな。
「ま、まだ、心の準備ができてない……」
だって、司に好きだって言われただけでも天地がひっくり返るぐらい驚いたのに、運命の番だなんて言われて、それをオレもそうかなって受け入れそうになってるって、異常事態だろ。
脳も心もついていけてない。
しかし、発情期の衝動がオレの思考をグズグズにしようと迫ってるのも、わかる。
オレの理性さん今めっちゃ頑張ってる。そのなけなしの理性さんが、鞄に手を突っこめって言ってる。なんでだかわからないけど。
一方の司は……あっ、ダメだ、これ。手遅れの奴だ。
たまにエロ漫画とかで目がハートになってる女の子いるけど、なんかあんな感じで壮絶に笑ってオレを見つめてくるんだけど。
「かわいい。そんなに可愛い事言わないで、大和。オレ、マジでヤバい」
今の言葉のどこにかわいい要素あった!? ここはオレを労わって、一旦解散の流れじゃないのか!
「大和。オレも、大和に受け入れてもらえて、好きって言ってもらえて、信じられないくらい、嬉しい。ね、聞いて、オレの心臓の音。壊れそうなぐらい、早く打ってる」
今度はそっと、頭を抱き寄せられた。思わず、言われた通りに胸に耳を当て司の鼓動を聞いてしまう。
ドッドッド。
これ、もしかしたらオレより早いんじゃないのか。
ハッとして見上げると、顔をくしゃくしゃにして笑っていた。
「ね。オレも大和と一緒なんだよ。好きな人とくっつけて、すごい、緊張してる。でもそれ以上に、こうしていた方が幸せだってわかるから、くっついていたいんだ!」
あぁ。
司、本当に、オレの事好きなんだ。
その顔を見てたら、不意にその事がすんなり理解できて。
オレたちはお互いに、お互いを大事にし過ぎて、気持ちに蓋をした。
だけどもう、その必要は無いんだ。
こうやって、好きって気持ちが、相手を傷つけない事を知ってしまったから。
さらに、運命とやらのお墨付きだ。
もう司が、オレ以外の誰かを隣に置く心配なんて、しなくて良いんだ。
安堵なのか、嬉しさなのか、よくわからないけど、また涙が溢れた。
「大和?」
「……司。オレも、お前と一緒だと幸せ。こうしてると、本当にそう思う」
「そうだろ!」
嬉しそうな司のその唇に、目が吸い寄せられる。
少しだけ背伸びして、今度は、自分から司に唇を近づけた。
「あいた」
「っ」
が、距離感を誤って、ぶつかったようになってしまった。
だってはじめてなんだ、仕方ないだろ!
オレが照れ隠しにそういうと、司は本当に嬉しそうに笑って、そして、
「んっ」
「はぁ……」
唇を、ついばまれ、挟まれ、舐められた。先ほどの触れるだけのとは違う、明確な意思を持った、キス。
「大和」
切ないような顔をして色気を振りまく司が、オレを呼ぶ。
なんとなく司のしたい事、がわかってしまった。恥ずかしさのあまり赤面したが、オレは司の胸に顔を埋め、
「いいよ」
そう言って、司を抱き締め返したのだった。
キスした後涙を拭うと、司が驚いたような、戸惑ったような声を上げた。
ブワッと、司の匂いが強くなる。
「えっ?」
……そして、オレからも。
ナニかが、ブワッと出たのがわかった。
あ、これ、オレのフェロモンだ。なんで? 発情期はまだまだ先のハズだろ。
「あっ」
おじいちゃん先生の言葉が、思い出される。
一ヶ月ぐらいで発情期がくる人もいる。アルファとの関係で。
「な、なぁ大和。これって……もしかして?」
なぜか、司の言葉に顔が真っ赤になる。
「お、オレ、帰る!」
バッと椅子から立ち上がると、腕を掴まれた。恥ずかしくて、逃げたいのに、逃げられない。
掴まれた腕から熱が這い上がってくるようだ。
司の瞳が、さっきまで泣いて充血していたはずの瞳がランランと輝き、オレを見る。
「これ……ヤバいよ、大和。ねえ、ほんとヤバい。うわぁ、めっちゃくちゃ、嬉しい。何これ、本当にこんなことあるの」
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経験のないオレにも、ただ漏れでわかる。
司、オレに、欲情しているんだ。
まるで涎でも垂らしそうな半開きの唇、オレを食い入るように見つめる瞳、上気した頬。声。……匂い。オレを、誘う、匂い。
「つ、かさ。な、に、これ」
ドクン。
心臓の鼓動が、強く打つ。
ドクンドクン、ドクドク。
あの、発情期一日目の衝動が、クる。切なくて、辛くて、欲しいしか考えられない、頭に靄がかかる酩酊感としかえいない、衝動が。
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司を見ると、司はガタっと立ち上がりオレの側に来た。そしてオレを抱きしめた。ぎゅーっと強く、しっかり。
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「あぁ、大和可愛い。本当に可愛い。大好き、ずっと大好きだったんだ」
もう、ダメだ。
こんなの、無理だよ。
だって、だって、ずっと好きだった奴が、オレを好きだって言って抱きしめてるんだ。
もう将来の事とか、不安とか、別れる事とか考えずに、今だけはこの衝動に従っても良いんじゃないかな……。
「司、オレも、お前が好きだよ。ずっと」
「うん! オレも大和が大好き。ずぅっと、ダメな方の想像しかできてなかったから、今、物凄く幸せ! だって、オレの運命の番が、大和だったんだもん!」
「……はぁ?!」
全部忘れて流されようとした瞬間、思いもよらない言葉が聞こえて、思わず司の胸を強く押して、引きはがした。
その衝撃に、一気に発情期の靄がかかったような思考が晴れる。
「お、お前っ、それ、本気で言ってんの?」
ついさっきまで、オメガのフェロモンすらわからなかった奴が。
オレの疑惑に、司が上気したままの頬を膨らませる。
「本気だよ! 逆に、なんで大和はわからないの? こんなにハッキリ、オレと同じ匂いさせてるのに」
「司と?」
司からは、藤のような匂いがする。
オレからは……あれ、なんか、確かに同じような匂いが、する?
いやいや、司の匂いが強いからじゃないのか。っていうか、オレの匂いって、どんなのだったっけ?
「他のアルファが言ってたよ。運命の番に出会うと凄く良い匂いって感じて、同じ匂いだって思うんだって。オレ、大和から甘くてちょっとスッとする藤っぽい花の匂いがする。大和は、しない? オレと同じ、匂い」
引きはがして距離をとったオレを、もう一度抱き寄せ、腕の中に収める司。
脳が、事態に追いついていかない。
嘘だろ。
だって、オレと司だぜ。あんまりにも、出来が違いすぎるのに。
司に促されるように見つめられると、口が勝手に開く。
「す、する。オレも司から、藤のような甘い匂い、する」
「ほらぁ! やっぱりそうじゃん。家が隣なのも、同い年だったのも、ぜんぶ、全部運命だったんだよ!」
あんまりにも嬉しそうに言われるので、そうなのか、とすとんと言葉が心に落ちてきた。
落ちて来たが、反応できなかった。固まったと言ってもいい。
「嬉しい。大和、オレめちゃくちゃ嬉しい。本当はずっと、大和が運命の相手だって知ってたんだ。気付かないようにしてただけ。遠回りしたけど、ようやく手に入れた。嬉しい」
オレたちは、藤の花なんて気にしたこともなければ、おそらく匂いを嗅いだこともない。なのに、お互いこれは藤の匂いだと感じたのだ。
信じられない。
だけど、確固たる証拠が、反論できなくなるほどの純然たる事実が、ここに出てきてしまった。
運命を、信じても良いの?
ギュッと胸が苦しくなり、涙が溢れた。
「どしたの大和? どっか痛い?」
途端に、司が心配そうにオレを覗き込む。
「……がいたい」
「ん、なに?」
「むねが、いたい。お前が、好きすぎて、痛い」
そう呟くと、またギューッと抱きしめられた。もう離さないと、逃がさないとでもいうぐらいの、強い腕の力。今はその苦しさすら愛おしい。
司が恍惚とし過ぎて泣きそうな顔で、オレの肩口に顔を埋めた。
「大和。オレも、好き。大好き。良い匂いする。オレと一緒の。オレの大和。もう離さない」
司は、オレのうなじや肩口に顔を摺り寄せ、すんすんと匂いを嗅いでる。母ちゃんや父ちゃんにあそこまできついって言われた匂いを。
本当に、信じられない。
ふと、肩口に唇が触れた感触がした。
そして、硬い物があたって。
「だっ、ダメ!」
思わず、両手で司の頭を無理矢理引きはがした。
引きはがされた司は口を半開きにして呆然としていたが、ムッとした顔をした。怖くないけど、レトリバーが拗ねてるみたいな顔になってる。
「なんで。良いじゃん、オレの証だよ!」
こいつ、わかっててどさくさに紛れて、番の証をつけようとしたな。
「ま、まだ、心の準備ができてない……」
だって、司に好きだって言われただけでも天地がひっくり返るぐらい驚いたのに、運命の番だなんて言われて、それをオレもそうかなって受け入れそうになってるって、異常事態だろ。
脳も心もついていけてない。
しかし、発情期の衝動がオレの思考をグズグズにしようと迫ってるのも、わかる。
オレの理性さん今めっちゃ頑張ってる。そのなけなしの理性さんが、鞄に手を突っこめって言ってる。なんでだかわからないけど。
一方の司は……あっ、ダメだ、これ。手遅れの奴だ。
たまにエロ漫画とかで目がハートになってる女の子いるけど、なんかあんな感じで壮絶に笑ってオレを見つめてくるんだけど。
「かわいい。そんなに可愛い事言わないで、大和。オレ、マジでヤバい」
今の言葉のどこにかわいい要素あった!? ここはオレを労わって、一旦解散の流れじゃないのか!
「大和。オレも、大和に受け入れてもらえて、好きって言ってもらえて、信じられないくらい、嬉しい。ね、聞いて、オレの心臓の音。壊れそうなぐらい、早く打ってる」
今度はそっと、頭を抱き寄せられた。思わず、言われた通りに胸に耳を当て司の鼓動を聞いてしまう。
ドッドッド。
これ、もしかしたらオレより早いんじゃないのか。
ハッとして見上げると、顔をくしゃくしゃにして笑っていた。
「ね。オレも大和と一緒なんだよ。好きな人とくっつけて、すごい、緊張してる。でもそれ以上に、こうしていた方が幸せだってわかるから、くっついていたいんだ!」
あぁ。
司、本当に、オレの事好きなんだ。
その顔を見てたら、不意にその事がすんなり理解できて。
オレたちはお互いに、お互いを大事にし過ぎて、気持ちに蓋をした。
だけどもう、その必要は無いんだ。
こうやって、好きって気持ちが、相手を傷つけない事を知ってしまったから。
さらに、運命とやらのお墨付きだ。
もう司が、オレ以外の誰かを隣に置く心配なんて、しなくて良いんだ。
安堵なのか、嬉しさなのか、よくわからないけど、また涙が溢れた。
「大和?」
「……司。オレも、お前と一緒だと幸せ。こうしてると、本当にそう思う」
「そうだろ!」
嬉しそうな司のその唇に、目が吸い寄せられる。
少しだけ背伸びして、今度は、自分から司に唇を近づけた。
「あいた」
「っ」
が、距離感を誤って、ぶつかったようになってしまった。
だってはじめてなんだ、仕方ないだろ!
オレが照れ隠しにそういうと、司は本当に嬉しそうに笑って、そして、
「んっ」
「はぁ……」
唇を、ついばまれ、挟まれ、舐められた。先ほどの触れるだけのとは違う、明確な意思を持った、キス。
「大和」
切ないような顔をして色気を振りまく司が、オレを呼ぶ。
なんとなく司のしたい事、がわかってしまった。恥ずかしさのあまり赤面したが、オレは司の胸に顔を埋め、
「いいよ」
そう言って、司を抱き締め返したのだった。
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