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学園編

プロローグ -入学式-3

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「わたしはこの学園の入学生です! 牧師様からお話をいただいて――」
 ――この小娘、わたくしに口答えをしたの? こんな小娘が? 平民ごときが?
 わたくしを誰だと思っているの?!! 腹立たしいっ!!

 小娘の頬を、手の甲で引っぱたいた。
「ミーシャ様!」
「まあっ!」
 周囲の下僕たちが、口々に焦ったように叫び声を上げる。ああもう! お前たちまで騒いでどうするの?! さっさと、この勘違いした小娘をたたき出しなさいよ!

 小娘が、わたくしに叩かれた反動でよろめき、背後にいた女子生徒に突き飛ばされ、勢いよく地面に倒れ込んだ。小娘はなにが起こったのか理解できていないのだろう。しばらくぼう然と固まっていたが、やがて――意志の強い瞳をこちらに向けてきた。
 ――なんというさいがたい小娘。
 身の程をわきまえないこの小娘に躾をしてだけよ。貴族として、当然のことでしょう? 己の立場を理解できなければ、これから先、困るのは彼女の方なのだから。むしろ、感謝してほしいくらいだわ! ――だというのに、その顔はなに? こちらを不満げに責め立てるように、にらみつけてくる。少しも怯むことなく。
 ――ああ、本当に本当に……イライラする。

 立ち上がろうとして足が痛むのか、一瞬顔をしかめ足首に手を添えた。患部へ視線をずらせば……今はまだ変化がないが、時間が経てば赤く腫れ上がってくるのかもしれない。かなり派手に転んでいたから。

「ここは陛下の勅命によって建てられた王立学園よ? 物乞いならば、門の外でなさったら? 神聖なる学び舎に入り込んだ痴れ者を排斥するのが、責められること? 当然のことではなくて?」
 せっかく弱みを見せてくれたのだ、それを利用しない手はないでしょう……?

「うあ……っ!」
 痛みを訴える彼女の足首を、彼女の手ごと踏みつけた。生意気な視線が地に落ちる……わたくしの胸中に、なんとも言えない充足感が広がっていく。

 目の前の小娘が、憎かった。
 何もかもが気に入らない。姿形も、人に好かれるだろう要素の全て、なにもかもがかんに障る! 平民は愚かだが、忌むべき存在とは思っていない。身の程をわきまえさせ、導いていくのも貴族の義務だと分かっている。なのに……これはなに? この感情はなに?! ミーシャ・デュ・シテリンにあるまじき、この激情はなに?!



「――なにをしている!!!」
 ずっとずっと探していた声が、背後から聞こえてきた。
 ――クリストフ殿下の声が……。

 動揺して体が動かない。動揺? なにを動揺しているというの? わたくしは間違ってない。当たり前だわ、貴族として正しいことをした! ……したわ!!!

 それなのに……目の前で、クリストフ殿下はわたくしを押しのけて、地べたにみっともなくしゃがみ込んでいる小娘に手を伸ばす。
 突然近づいてきた端正なお顔に、小娘が目を奪われているのが分かった。頬を染め。瞳を潤ませ……まるで、純粋な恋する乙女のように。それはまるで一枚の絵のようで、美しい光景だった。美しい? そんなことあるはずがない! 殿下の隣に一番ふさわしいのは、このわたくし!
 クリストフ殿下の白く美しい手が、砂にまみれた汚らしい小さく不格好な傷だらけの手を包む。壊れやすい繊細な何かを抱えるように。とてもとても、大切な何かを守るように…………認めない!!!




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