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幼少期編

12.楽しいお茶会の時間です

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 件の商人は、私などよりも一枚も二枚も上手なのだ。
 コネをそぎ落とし、己の手足のように自由に使える人間を、意図的に作って来なかった己が用意できる解毒剤など高が知れている。このままでは、また両親が取り込まれてしまう! ……なので、先手を打つしかなかった。

 先に自前の毒を先にあおり、濡れ衣を着せ問答無用でその商人を追い出した!
 手段を選ばずに瞬時に他人を蹴落とす計算が…………まだ出来てしまう己が憎い。
 薬を飲みはしたが、しばらくは動くことすらできなくなった。自業自得だから仕方がない……のだけれど、お見舞いに来たパトリックに、またしても怒られた。

 ちなみに、使った毒は毒キノコのようなどこにでもある代物だ。
 軽く目眩や嘔吐の症状は出たが命に別状はない。整腸剤と水を飲んで、しばらく大人しくしていれば快方に向かう。

 諜報員を通報する前に、マリー・トーマンがいる孤児院との関係を、はっきりとさせておきたい。本来幸せになるはずの二人を引き裂く結果となるのはよろしくない。犯罪者放置もよろしくない。
 ……掌握してしまえば簡単なのだけれど、それはダメ。

 誰も傷つけず、あの二人を幸せにする……私は、それを果たさなくては!!!




 ◇

 私の体調が完全に回復した頃、改めてやってきた――――洗脳されやすく思慮の浅い、モンペ気質のリナウド侯爵夫人を母が教育し直している間、私はデリアとティータイムを過ごすことになった。

 例の諜報員は、今度はリナウド侯爵夫人に目を付けたらしい。

 夫人が付けていた香水はこの国ケブルトン王国の物ではなかったし、着ていたドレスの縫製も『かの国』特有の癖があるから、すぐに分かった。
 母にそれとなく告げると、夫人の洗脳を解くべく別室に二人でこもりだしたのだ。

 さて、それにしても――デリアとから、もうすぐ六年になるのか……。
 前回の彼女については全然記憶がない。だが、今の彼女は……相変わらず優しく朗らかな雰囲気を漂わせながら、品良く美しい姿勢でそこに座っている。
 コルセットのお陰で背筋が曲がることはほぼ無い。

 ……問題無さそうに見えるのだけれど、パトリックからはクレームが、クリストフ殿下からもあまり褒められたものではない感想を頂いているんだよな……。

「あの……ミーシャ様、わたくし少々気になる噂を耳にしまして……」
 言いにくそうに、つらそうに悲しそうに彼女は視線を落としながらそう言った。妙に罪悪感が刺激される。気にするなと先を促すと――。

「シュトルツァー公爵様のご嫡女ちゃくじょ(正妻の産んだ長女)が闇市に顔を出している、と広く伝わっているようで、わたくし心配で……」
 ――情報収集を怠っていたらそんなことに……!
「その情報はどこから?」
「お母様が……」
 デリアの顔は泣きそうだ。あのモンペ、面白がって触れ回ったりしてないだろうな。
「どうしましょうミーシャ様! このままだと……パトリック様にも障りがあるかもしれませんし――」
 彼女の栗色の髪と澄んだ翠玉エメラルドが頼りなさげに揺れる。
 デリアは一見すると内向的な性格に見える。パトリックやクリストフ殿下に指摘されるまではそう思っていた。しかし、ここ数年の付き合いで大分面白い性格をしていることが分かってきた。
 まあ、色々あるが、パトリックを本気で心配しているのは確かだろう。

 それにしても、闇市の出入りで噂になるなんて、な! ――じゃなくて、悪いことだ! 注意して更生していただかなくては! 悪に走りたくなる気持ちは分かる。なまじ社交界デビューを済ませ、顔が知られているのがまずい。

 さて、これら全ての問題を解消して事を綺麗に収めるためには――――――。


「ねえ、デリアはその闇市の情報ってどの程度持っているのかしら?」
「お母様はセオドーニア商会にがいると……」
 そこまで話題になっていたのに、あの商人と契約していたのかリナウド侯爵夫人……これは徹底的に再教育してもらうしかないな。

 闇市疑惑の件は、リナウド侯爵夫人から母に、母から父へと伝わった。父が前回同様、我欲に塗れた人間だったらこの場でシテリン家を終わらせるしかないか、とも思ったのだけれど――――――――。







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