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幼少期編

10.軌道修正しなくては!3

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 クリストフ殿下が通ってきた迂回路を通って…………最終的に、私は王都にあるシテリン邸へと連行されてしまった。町屋敷シテリン邸が滞在可能に整えられていなければ、王宮へ連れて行かれるところだった。最悪だ!

 それにしても、殿下のこの態度の違いはどういうわけだ。前回は取り尽く島もなかったのに。今回はなぜこんなにも友好的なのか。初対面時、社交辞令でやって来ただけなのに、思わず治癒能力なんてものを発動してしまったから? 

 王族が『魔女狩り』に遭うなんて、確かに洒落にならない事態だ。
 殿下の治癒能力と周囲の人間の殿下に対する対応にも、原因があるような気がする。――マリー・トーマンが現れるまで、後三年なんだから、大人しく待っていてもらわなければ困る。

 寝た子を起こさないでほしい。私は貴方を、好きになりたくない。




 ◇◆◇ ◇◆◇


 町屋敷に家人が遅れて到着したのは、一週間後のことだった。
 遅刻はそちらだというのに父に怒られた! 母にも怒られる、長男にも怒られる、次男にも怒られる、妹にも怒られる……。随分と家族仲良く過ごしているではないか。

 今の両親は私の計画のたまものか、全てを手に入れようというあの気概がなくなっている。私の出来の悪さを改善することに全神経が向かっているようだ。
 思わぬ副産物的効果だが、これはこれでいいだろう。



 例の商人の件だが、前回と同じ日程で訪れたらしい。
 父の話によると、私に異様な執着を示しており、不在を告げると「待たせてもらう」としばらく粘っていたらしい。居留守だとでも思われたのだろうか。
 母が商人が持ってきた貴重な宝石類に興味を引かれたそうだが、父の危機管理能力によって回避したとは、本人の談だ。

 貴族階級に位置している人間は、通常であれば紹介状でもなければ見知らぬ人間に会うことなどしない。平気で居留守を使う。その商人が手にしていた紹介状には、父の古い知り合いの名が記されていたという。該当人物には現在確認中らしい。
 ――商人問題はひとまずここで一区切りついたと思ってよいだろうか。
 油断はできないけれど。

 王都には商人と関係があると思われているセオドーニア商会の本部がある。
 ついでに、日本でいうショッピングモールのようなものもある。商会自体は違法性のないものだと思うのだが、違うのだろうか。パトリックは調べるとは言っていたけれど、あの怪我でこれ以上負担をかけるのは忍びない。様子を見ておくか。







 王都にあるセオドーニア商会のショッピングモール――総敷地面積はシテリン家の田園邸宅カントリーハウスより一回り大きいくらい。総店舗数は十二店舗、飲食店が三店舗、衣料品店が四店舗、食料品店が二店舗、その他生活雑貨が三店舗、入っている。

 大きな一つの建物にテナントとして入っているわけではなく、簡素な壁に囲まれた敷地内に、一軒ずつ商店が建っている。レンガ作りだったり、木造建築だったり、ほろが張られていたりと、外観はバラバラだ。値段もバラバラ。主に中流階級と労働者階級向けの品ぞろえだ。

 確かに、上流階級に所属する貴族は店に足を運んだりしない。お抱えの商人を呼びつけるのが普通だ。


 明くる日、朝早くから長兄(齢十八)を伴い件のショッピングモールへと運ぶことにした。我が家のお抱え商人問題は、解決したわけじゃない。必要な情報は得ておかなければ!
 義兄はこの度、めでたく他国の第三王女との婚約が決まったばかりだから、プレゼント物色のため喜んでついてきた。それなりの物を買うのだから、それなりの人を相手にそれなりの質問をしたとしても、なんら不思議はないはずだ。

 ――と、今とれる手段でとることができる、最善の方法を模索しているというのに……!!


「やあ、元気でやっているかい? ミーシャ・デュ・シテリン嬢」
 王太子殿下が気安い服で、従者は一人のみで、こんなところで何してる?

 あと少しで長兄が「王太子殿下?!」と叫ぶところだった。ミゲル殿下の濃紺の髪や青い瞳は珍しいものではないが、持って生まれたオーラが違う。ハンチング帽を目深に被りサングラスをしたところで……なんか目立つ。一瞬、フルネームを呼ばれた際に拒否反応が出てしまったのは、個人情報保護関連の記憶があるせい?

「このような場所に、お一人でお買い物ですか?」
 ひとまず、ミゲル殿下の目的を早急に探り出し、大事になる前に王宮へ送り返してくれる! 長兄は何やら話し込み、友好を深めたそうな雰囲気を醸し出しているが、この商会は国賊疑惑浮上中なのよ! 君子危うきに近寄らず! 声をかけられたら答えるくらいでいいのよ、シテリン家は!

「お茶でもどう?」
 ――人の話聞いてンのか? ……っといけない、パトリックの口調が移ってしまった!
「せっかくのお誘いですが――」
「――はい! 是非!!」
 ――この馬鹿兄!!






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