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第一部
4.この一年…秋
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――葉が色づいてきたなぁ……秋なんだなぁ…………。
ティオ・ファーバーは窓の外に見える黄色く色づいた広葉樹を見て、季節の移ろいを感じていた。
――――のだが。
「何度、同じ事を言えばご理解いただけるんですの?」
ベリンダ・オストワルトは大勢の取り巻きを引き連れて、ティオ・ファーバーの前に立ちはだかりこれ見よがしにため息をついて見せた。
学園の廊下で大挙して押し寄せて取り囲む――迷惑な人だなぁと、ティオは呆れた。彼女の口から出てくるのは、毎度毎度、見当外れなクレームばかりだ。
「エミール殿下に纏わり付くのはおよしなさい。不敬にも程がありますわよ」
ベリンダ・オストワルトがそう口を開けば……。
「そうですわよ! 他の殿方まで引き連れて、神聖な学び舎で殿方を侍らせて享楽に耽るなど、学園をなんだと思っていますの?!」
「そうですわよ! 国庫に頼る物乞い風情はさっさと学園から出て行くべきですわ!」
取り巻きがそれに追従する。
彼女達の中でティオ・ファーバーは、授業をサボりエミール・ヴェルナー・バイアーに付き纏い、男を侍らせ享楽に耽る悪女となっているらしい。
「あの、何度も言ってるんですけど、エミール殿下と話をする時は一対一ではありませんし、私からじゃないし、要件は王家からの討伐依頼についてですよ?」
「お黙りなさい! ……平民の貴女はご存じないかもしれませんけれど、目上の者の許可無く口を開くことは大罪ですのよ? そんなことも知らずに、殿方を追いかけて……」
ティオの説明を、ベリンダは聞かない。はなから嘘だと決めつけて、己の貴族としての優位性をひけらかすことが正義だと思っている。
――『口を聞くな』だと? 年頃の可愛い女の子とのふれあいも楽しめるかと、ここまで大目に見てきたけど……………………マジで殺るか……?
ティオ・ファーバーが殺る気MAXになり、ご令嬢方の命が風前の灯火となっていることに、彼女達は気付かない――ので。
「待て! 何をしているんだ!!!」
偶然通りかかったエミールは、慌ててティオ・ファーバーを窘める!
その瞬間、自分達が叱責されたと勘違いしたご令嬢方は、驚愕の面持ちでエミールを振り返る。
「エミール殿下……そう……そのお方を庇われるのですね…………うぅっ!」
「お待ち下さい、ベリンダ様!」
『わたくし傷つきました!』と言わんばかりの様子で、ベリンダはその瞳に涙を浮かべて走り去ってしまった。取り巻き達が慌ててそんな彼女を追いかける。
――なんだこの三文芝居。
呆気に取られながらその様を見送っていたティオだったが、隣にいるエミールは呆けるというよりもどこか疲れたようにベリンダを見ていることに気付く。
誰の目にも明らかなほど、エミールはベリンダを持て余し始めていた。
「すまない、ティオ・ファーバー……」
「まあ、構いませんよ? 私はこの王都で一年間、妖怪退治していれば後は一生遊んで暮らせるだけのお金が手に入りますし? イケメン手に入れてニート生活は無理そうですけど……」
――そうだ。あの時あの子達を殺っちまったら報奨金は水の泡! それどころか孤児院の皆の身も危ない。そんなことになったら、この国滅ぼさないとならなくなるとこだった。私のものにはならないけど、イケメンが結構多いこの国を滅ぼすのは……かなり勿体ないしね!!!
◇
そんなことを考えていたティオ・ファーバーも、病的なまでに視野の狭い己の婚約者に本気で病気を疑い始めたエミールも、気付いてはいなかった。
泣きながら立ち去るベリンダ・オストワルトを熱い眼差しで見つめ、ティオとエミールに厳しい視線を送る紳士の存在に――――。
ティオ・ファーバーは窓の外に見える黄色く色づいた広葉樹を見て、季節の移ろいを感じていた。
――――のだが。
「何度、同じ事を言えばご理解いただけるんですの?」
ベリンダ・オストワルトは大勢の取り巻きを引き連れて、ティオ・ファーバーの前に立ちはだかりこれ見よがしにため息をついて見せた。
学園の廊下で大挙して押し寄せて取り囲む――迷惑な人だなぁと、ティオは呆れた。彼女の口から出てくるのは、毎度毎度、見当外れなクレームばかりだ。
「エミール殿下に纏わり付くのはおよしなさい。不敬にも程がありますわよ」
ベリンダ・オストワルトがそう口を開けば……。
「そうですわよ! 他の殿方まで引き連れて、神聖な学び舎で殿方を侍らせて享楽に耽るなど、学園をなんだと思っていますの?!」
「そうですわよ! 国庫に頼る物乞い風情はさっさと学園から出て行くべきですわ!」
取り巻きがそれに追従する。
彼女達の中でティオ・ファーバーは、授業をサボりエミール・ヴェルナー・バイアーに付き纏い、男を侍らせ享楽に耽る悪女となっているらしい。
「あの、何度も言ってるんですけど、エミール殿下と話をする時は一対一ではありませんし、私からじゃないし、要件は王家からの討伐依頼についてですよ?」
「お黙りなさい! ……平民の貴女はご存じないかもしれませんけれど、目上の者の許可無く口を開くことは大罪ですのよ? そんなことも知らずに、殿方を追いかけて……」
ティオの説明を、ベリンダは聞かない。はなから嘘だと決めつけて、己の貴族としての優位性をひけらかすことが正義だと思っている。
――『口を聞くな』だと? 年頃の可愛い女の子とのふれあいも楽しめるかと、ここまで大目に見てきたけど……………………マジで殺るか……?
ティオ・ファーバーが殺る気MAXになり、ご令嬢方の命が風前の灯火となっていることに、彼女達は気付かない――ので。
「待て! 何をしているんだ!!!」
偶然通りかかったエミールは、慌ててティオ・ファーバーを窘める!
その瞬間、自分達が叱責されたと勘違いしたご令嬢方は、驚愕の面持ちでエミールを振り返る。
「エミール殿下……そう……そのお方を庇われるのですね…………うぅっ!」
「お待ち下さい、ベリンダ様!」
『わたくし傷つきました!』と言わんばかりの様子で、ベリンダはその瞳に涙を浮かべて走り去ってしまった。取り巻き達が慌ててそんな彼女を追いかける。
――なんだこの三文芝居。
呆気に取られながらその様を見送っていたティオだったが、隣にいるエミールは呆けるというよりもどこか疲れたようにベリンダを見ていることに気付く。
誰の目にも明らかなほど、エミールはベリンダを持て余し始めていた。
「すまない、ティオ・ファーバー……」
「まあ、構いませんよ? 私はこの王都で一年間、妖怪退治していれば後は一生遊んで暮らせるだけのお金が手に入りますし? イケメン手に入れてニート生活は無理そうですけど……」
――そうだ。あの時あの子達を殺っちまったら報奨金は水の泡! それどころか孤児院の皆の身も危ない。そんなことになったら、この国滅ぼさないとならなくなるとこだった。私のものにはならないけど、イケメンが結構多いこの国を滅ぼすのは……かなり勿体ないしね!!!
◇
そんなことを考えていたティオ・ファーバーも、病的なまでに視野の狭い己の婚約者に本気で病気を疑い始めたエミールも、気付いてはいなかった。
泣きながら立ち去るベリンダ・オストワルトを熱い眼差しで見つめ、ティオとエミールに厳しい視線を送る紳士の存在に――――。
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