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第一部
3.この一年…夏
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ティオ・ファーバーが学園へ入学して四ヶ月が経ち、季節は夏へと移り変わっていた。
「もーっ! 何なんなの、あなたの婚約者とあのゆかいな仲間達! なんで私が殿下の浮気相手として責められなければならないのよッ!!! 私は、あんた達の日々の安全のために、頼まれてここにいて化け物退治をしているのよ?! 何度同じ事を説明すれば理解できるの?! 一度死んでみる?!」
「すまない……彼女達には何度も説明しているのだが、こちらの話を曲解して受け取っているようで、最終的に『関わるな』としか言えなかった」
放課後の空き教室――。
目の前で、何度目かの頭を下げるエミール・ヴェルナー・バイアーを見て、怒りを捲し立てていたティオ・ファーバーは何とも言えない気分に陥る。
空き教室にいるのはティオとエミールだけではない。
エミールの友人、男性四名とティオの仕事仲間である修道女――ラウラ・アショフの合計七人。
ラウラ・アショフはレイオニング王国にいる修道女の中で、最も戦闘能力の高い修道女だ。そこらの教会騎士よりも戦闘能力は高いのだが、ティオはそれを信じていない。仕事仲間とは名ばかりだとすら思っている。
ティオから見て、ラウラ・アショフはあまりにも……弱いから。
だから、田舎者の自分が王都の王立学園になじむことができるように、生活面でのサポートをするために教会から派遣された修道女だと、ティオは判断していた。
この思い込みの激しさと視野の狭さは、ある意味ベリンダ・オストワルトと同類と言えばそうなのだろう。
そんな己にそっくりなベリンダ・オストワルト及び彼女が率いるゆかいな仲間達に、毎度毎度、ティオは絡まれているのだ。いい加減、堪忍袋の容量について考えなければならない。
「あいつら一人残らず消し炭にしてやろうかしら……」
凶悪な顔つきで不穏な台詞を吐くティオに、一同は顔面蒼白。
「お気を確かに! ティオ様!」
荒ぶるティオをなだめるのはラウラ・アショフだ。彼女は下降の一途を辿るティオの機嫌を直すため、常備している甘いお菓子をティオに与え続ける。この場にいる男性陣が引くほどのお菓子を食べ、ようやくティオの機嫌は直ってきた。
「……教会孤児院が経営難に陥ったのは彼女の食費が原――」
エミールの友人その一は言葉を終わらせる前に、謎の光と共に床へ突っ伏してしまった。同じ光がティオの手へと吸い込まれるのを恐ろしい物を見るような目で見ながら、一同は口をつぐむ選択をする。人は誰も皆、己の命が大事なものだ。
このエミールの友人達は、元々はティオの「イケメン紹介して!」という要望に応えるため揃えた、身元のしっかりとした性格にも世間体的にも問題のない、見目の整った貴族のご令息達だったのだ。
何も知らないご令息達は、話を受けた直後は乗り気だった。
ティオ・ファーバーは黙っていれば可愛い美少女だ。貴族のご令嬢と違い、変にスレているところもない。
しかも、国の大事となっている『選ばれた者達しか対処できない事件』を解決できる――かなり強力な能力者。彼女を手に入れることができれば、他の貴族、教会幹部や王族にまで強力な発言権を持つことができるのだ。貴族に生まれて彼女を欲しがらない理由がない。そう、思っていた。
…………本人に会うまでは。
「俺はお前が人間に見えない……」
友人その二が青い顔で、恐ろしい物を見る目でティオを見る。
「失礼しちゃうわ! こんな愛らしい美少女を捕まえて!」
「世の中には『蓼食う虫も好き好き』という言葉もある……気を落とすな! きっと、全てを受け入れてくるイケメンも……どこかには……」
「この国にいないんなら、大陸に行こうかしら」
友人その三の他人事のような台詞に、ティオは切れ気味に応える。
「……すまない、ティオ・ファーバー……」
そして、エミールが再び頭を下げた――。
◇
エミールの友人四名は、ティオ・ファーバーが恐ろしかったのだ。
「イケメンだあああっ! 結婚して!」
という彼女の台詞自体は可愛らしいものだった。
彼等にはエミールとは異なり、婚約者などいない。今まで数多くの王侯貴族を袖にしてきた彼女を手に入れることは、家にとっても悪い話ではないのだ。
ただ――彼女の持って生まれた魔力と、日々の鍛錬、そしてそれに裏打ちされた自信と破天荒な言動……とても、その手綱を握れるとは思えなかったのだ。
「もーっ! 何なんなの、あなたの婚約者とあのゆかいな仲間達! なんで私が殿下の浮気相手として責められなければならないのよッ!!! 私は、あんた達の日々の安全のために、頼まれてここにいて化け物退治をしているのよ?! 何度同じ事を説明すれば理解できるの?! 一度死んでみる?!」
「すまない……彼女達には何度も説明しているのだが、こちらの話を曲解して受け取っているようで、最終的に『関わるな』としか言えなかった」
放課後の空き教室――。
目の前で、何度目かの頭を下げるエミール・ヴェルナー・バイアーを見て、怒りを捲し立てていたティオ・ファーバーは何とも言えない気分に陥る。
空き教室にいるのはティオとエミールだけではない。
エミールの友人、男性四名とティオの仕事仲間である修道女――ラウラ・アショフの合計七人。
ラウラ・アショフはレイオニング王国にいる修道女の中で、最も戦闘能力の高い修道女だ。そこらの教会騎士よりも戦闘能力は高いのだが、ティオはそれを信じていない。仕事仲間とは名ばかりだとすら思っている。
ティオから見て、ラウラ・アショフはあまりにも……弱いから。
だから、田舎者の自分が王都の王立学園になじむことができるように、生活面でのサポートをするために教会から派遣された修道女だと、ティオは判断していた。
この思い込みの激しさと視野の狭さは、ある意味ベリンダ・オストワルトと同類と言えばそうなのだろう。
そんな己にそっくりなベリンダ・オストワルト及び彼女が率いるゆかいな仲間達に、毎度毎度、ティオは絡まれているのだ。いい加減、堪忍袋の容量について考えなければならない。
「あいつら一人残らず消し炭にしてやろうかしら……」
凶悪な顔つきで不穏な台詞を吐くティオに、一同は顔面蒼白。
「お気を確かに! ティオ様!」
荒ぶるティオをなだめるのはラウラ・アショフだ。彼女は下降の一途を辿るティオの機嫌を直すため、常備している甘いお菓子をティオに与え続ける。この場にいる男性陣が引くほどのお菓子を食べ、ようやくティオの機嫌は直ってきた。
「……教会孤児院が経営難に陥ったのは彼女の食費が原――」
エミールの友人その一は言葉を終わらせる前に、謎の光と共に床へ突っ伏してしまった。同じ光がティオの手へと吸い込まれるのを恐ろしい物を見るような目で見ながら、一同は口をつぐむ選択をする。人は誰も皆、己の命が大事なものだ。
このエミールの友人達は、元々はティオの「イケメン紹介して!」という要望に応えるため揃えた、身元のしっかりとした性格にも世間体的にも問題のない、見目の整った貴族のご令息達だったのだ。
何も知らないご令息達は、話を受けた直後は乗り気だった。
ティオ・ファーバーは黙っていれば可愛い美少女だ。貴族のご令嬢と違い、変にスレているところもない。
しかも、国の大事となっている『選ばれた者達しか対処できない事件』を解決できる――かなり強力な能力者。彼女を手に入れることができれば、他の貴族、教会幹部や王族にまで強力な発言権を持つことができるのだ。貴族に生まれて彼女を欲しがらない理由がない。そう、思っていた。
…………本人に会うまでは。
「俺はお前が人間に見えない……」
友人その二が青い顔で、恐ろしい物を見る目でティオを見る。
「失礼しちゃうわ! こんな愛らしい美少女を捕まえて!」
「世の中には『蓼食う虫も好き好き』という言葉もある……気を落とすな! きっと、全てを受け入れてくるイケメンも……どこかには……」
「この国にいないんなら、大陸に行こうかしら」
友人その三の他人事のような台詞に、ティオは切れ気味に応える。
「……すまない、ティオ・ファーバー……」
そして、エミールが再び頭を下げた――。
◇
エミールの友人四名は、ティオ・ファーバーが恐ろしかったのだ。
「イケメンだあああっ! 結婚して!」
という彼女の台詞自体は可愛らしいものだった。
彼等にはエミールとは異なり、婚約者などいない。今まで数多くの王侯貴族を袖にしてきた彼女を手に入れることは、家にとっても悪い話ではないのだ。
ただ――彼女の持って生まれた魔力と、日々の鍛錬、そしてそれに裏打ちされた自信と破天荒な言動……とても、その手綱を握れるとは思えなかったのだ。
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