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第三十四話 あたたかいたたかいなどない
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荒野を進んで行くと、遠くに土煙があがっているのが見えてきた。
「……あれか」
大小様々な無数の魔物が地平に広がり、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。
統率が取れているという雰囲気はなく、それぞれ好き勝手に動いているようだ。
「すごい数だよ……」
「……チャト」
「あたし、絶対逃げないから」
「……よし」
俺は右手に持った魔ガホンを構え、スイッチを入れる。前とは違い、レキスにたっぷりと魔力を入れてもらったので、すぐに電池切れを起こす心配はない……とレキスは言っていたが。
「「「あー、あー。魔物諸君に告ぐ。今すぐ引き返しなさい。引き返せば、こちらから危害を加えることはありません。繰り返す。今すぐ引き返しなさい」」」
とりあえず警告をしてみたが、魔物の勢いが止まる様子はない。
ダメか……言葉が通じているのかどうかもわからないしな。ならばもう一つ確認しておこう。
「「「そちらに、ビータ・チュールという方はいませんか? いたら出てきてください」」」
「えっ、れーいち、どうして……」
「これから使うダジャレ魔法は相手の命を奪うようなものもある。もし、君のお父さんがいたら……」
「そっか。……ありがとう」
「しかし、どうやらいないみたいだね」
魔物たちはどんどん距離を詰めてくる。
獲物を見つけ、ニヤニヤと笑っている表情が確認できるところまで近づいていた。
「……できるだけ引き付けてから戦おう。チャトは俺の側に来てくれ」
「あたしも戦う」
背負っていた弓を手に取り、矢をつがえる。
「でも、俺に触れてないと……」
「はい」
チャトが俺の前に立ち、長い尻尾の先を手元に持ってくる。
「それ、握ってて」
「えっ」
「それならあたしも攻撃できるから」
催促するように尻尾をくねくねと動かす。
「こ、こうかな」
すこし隙間が開くようにチャトの尻尾の先を握る。
「もっとしっかり持っていいよ」
「わ、わかった」
今度は少し強めに握ってみる。
「んぁっ……あ……ごめ……ん、もう少し、ゆるめて……」
「わわ、す、すまない」
慌てて手の力を緩める。
「うん、そのくらい……。ごめんね、強く握られると力が抜けちゃうの」
「いや、こちらこそすまない」
なかなか加減が難しそうだ。しかしもう、このまま戦うしかない。
「あのね。……トキヤ族の女の尻尾は、好きな人にしか触らせないんだよ」
「そうなのか。すまないね……緊急時とはいえ、そんな大切な場所に俺なんかが触れてしまって」
「……もー。ばか」
「え?」
「来たよ!」
気づくと、目前まで魔物が迫っていた。
よし、この距離なら奥の魔物まで魔法の効果が届くだろう。
「まずは警告だ」
魔ガホンを構え、大声で叫ぶ。
「「「トップに突風」」」
背後から強い風が吹き抜け、先頭にいた魔物から次々と後方へ吹き飛ばす。
緑色の一つ目の巨人のような魔物は前傾姿勢になり耐えようとするが、こらえきれず尻もちをついている。
「「「これ以上近づくともっとひどいことになる。それが嫌なら今すぐ引き返しなさい」」」
魔物とはいえ、これだけ多くの命を奪うことには抵抗がある。できればこれで引いてほしいのだが……。
「……ダメみたい、だね」
「ああ」
ニヤついていた魔物の余裕が消え、一気に警戒心が高まったのを感じる。
無防備に近づいてきていたのが、こちらの様子を見ながらじっくりと近づく動作に変わる。
「もう一度言ってみよう。ちょっとうるさくなるぞ」
「うん。大丈夫」
「「「恐怖の強風」」」
再び風が吹き荒れる。【トップの突風】は一度きりだったが、今度は三分間吹き続けそうな勢いだ。巨人の魔物も後ろにゴロゴロと転がっていく。
「うわぁ……。れーいち、絶対手、離さないでね」
「ああ、わかってる」
今、この手を離したらチャトが魔物の群れの中に飛んで行ってしまうだろう。
俺は強く握りすぎないよう、かつ慎重にチャトの尻尾を握りなおした。
「魔物が引いた分、前進しよう」
「わかった」
チャトと共に前へと進む。その間も魔物たちは強風で後方に飛ばされていく。
「……あたしの出番、ないかも」
「いや、まだなにをしてくるかわからない。油断せずにいこう」
「うん」
声の届いた範囲まで強風が続いているはずだ。これで引いてくれないなら……やるしかない。俺はスボンのポケットから黒い皮の表紙の小さな手帳を取り出した。
「あ、それ……」
「そう、王国で君が買ってきてくれた手帳さ。この中に俺が考えたネタと、レキスが考えてくれたネタが書いてある」
「レキちゃんが?」
「攻撃的なダジャレは苦手だと言ったら、一緒に考えてくれてね。……なかなか恐ろしいネタを提供してくれたよ」
「へ、へぇ……」
「なるべく使いたくはなかったが……」
どうやらあそこが風の終着点のようだ。飛ばされた魔物と、後方にいて無事だった魔物がぶつかり合い、絡み合い、おたおたしている。
「何かピカピカ光ってるよ」
「あれは……魔法か?」
「もしかして、回復してるのかな」
魔法を使う魔物もいる、とレキスから聞いている。魔法の対策はあるが、攻撃魔法には注意しておこう。
「あ、風が……」
三分が経ったらしく、風がピタリと止む。
「「「あー、我々は戦いを望まない。どうか引いてはくれないだろうか」」」
風が止まると同時に、魔物たちがざわめく。そして周囲の魔物と顔を見合わせたかと思うと……こちらに向かって突進してきた。
「わわわ、き、きたよ!」
「もう、覚悟を決めるしかないな」
「「「だからいうたやないの、雷雨になるって」」」
突然周囲に強い雨が降り始め、何かが弾けるような鋭い轟音と共に、巨人の魔物に雷がうちつける。頭からつま先に抜けた雷は濡れた地面を伝わり、周囲の魔物の体をも感電させる。
「ひぇぇ……」
「凶悪な組み合わせだな」
雷は数秒置きにに空から降ってきて、なんとか動こうとする魔物の動きを封じ続ける。すでに絶命した魔物も多くいるようだ。
「れーいち、あれ!」
倒れている魔物たちの隙間を縫って、数体の魔物がぴょんぴょんと跳ねながらこちらへ向かって来る。ハンバーガーのような形状の頭にぎょろりとした大きな目が一つ。細長い金属の棒のような体に二本の腕がついている。電流が体に流れてきても、まったく意に介していない。
「雷が効いてないみたい」
「あれは……確か【シンライヒ】だったか。雷抵抗がやたらと高い魔物だ」
「知ってるの?」
「ああ。レキスにこの世界の魔物について教えてもらったことがあってね」
「そうなんだ……」
「勉強はしておくものだな」
そんなことを言っていると、シンライヒ達が両手を前にかざし、なにか呪文を唱えている。やがて、雷の玉のようなものが手の前に現れた。
「あれは……雷の魔法? やり返そうという気か」
「えいっ」
チャトが矢を放ち、一直線に飛んで行った矢がシンライヒの目玉を貫く。そのまま地面に倒れ、動かなくなった。
「お見事」
「で、でも他のやつが間に合わないよ!」
「大丈夫だ。多分」
「「「雨天では魔法がうてん」」」
シンライヒの手の中の雷がどんどん小さくなり、消滅した。両手を広げ、キョロキョロと目玉を動かし何事かと戸惑っているようだ。
「チャト、今だ」
「うん! よっ! ほっ! はっ!」
次々と矢を放ち、戸惑うシンライヒの目玉を射抜いて行く。矢継ぎ早とはこのことか。
「すごいなチャト。百発百中じゃないか」
「うん。なんだか、力がどんどんわいてくるみたい」
そうか、もしかしたら魔物を大量に倒したからレベルが上がったのかもしれない。一体どれだけの経験値が入ったのだろうか……。
雷はまだ撃ちつけているが、ほとんどの魔物はもう動かなくなっていた。
「……まだまだいるね」
「……ああ」
遠くにはまだダジャレ魔法の範囲を外れた魔物がごまんと残っている。戦いはまだ終わりそうにない。
「ネタはまだまだある。進もう」
「うん」
倒れた魔物に注意を払いながら、さらに前進する。魔法の効果が切れると、魔物たちは懲りずに襲って来る。
「これはレキスのネタだ」
「「「そこな、しぬまで沈む、そこなしぬまだ」」」
…………………………
「「「針と剣のハリケーン」」」
……………………
「「「なだれにうなだれる」」」
………………
「「「凍りなさい。とどこおりなく」」」
…………
「「「豪華な業火でしのごうか」」」
……
♢ ♢ ♢ ♢
戦闘が始まってからどれくらいの時間が経ったのだろう。
あっという間だった気もするし、途方もなく長い時間戦っていたような気もする。
チャトの矢は尽き、手帳のネタも言い尽くし、魔ガホンの電池も切れかけた頃……俺たちの周りに動く者はいなくなっていた。
「終わった……みたいだな」
叫びすぎて、かすれてしまった声でつぶやく。
チャトは返事をすることもなく、ぼーっと遠くを見ている。尻尾からはもう手を放していた。
「……これほどの力とは」
一瞬チャトの後ろ姿が、別人であるかのような印象を受ける。
「……チャト?」
「ん? おつかれさま、れーいち。終わったね」
「あ、ああ」
こちらを振り向き、少し疲れた笑みを見せるチャトは、俺の知るいつものチャトだった。
「チャト、なんか今……」
「え? なに?」
「いや。……なんでもない」
気のせいだろうか。なにか妙なことを言っていたような気が……俺も疲れてるのだろうか。
「……すごい光景だね」
「ああ……」
荒れた大地の上には無数の魔物の死体が転がっており、足の踏み場もないような状況だ。
これを俺たちがやったということが、どうにも信じられない。
「……もう、戻る? みんな帰ってきてるかも」
「そうだな。だが、その前に……」
「え?」
「魔物とはいえ、このままにしておくのはどうにも忍びない。魔ガホンの魔力、まだ少しだけ残っているようだし……」
俺は魔ガホンを構え、最後のダジャレを叫んだ。
「「「戦場を、洗浄」」」
俺の声が、荒廃した大地に倒れた魔物をなでるように駆け巡る。すると、魔物たちの体が白く淡い光に包まれ、天に昇って消えていった。この光は見覚えがある。これはルウシムカさんの時の……。
「わぁ……」
「……」
魔物が消えた後も、しばらく俺たちはその場に立ちすくんだまま、戦場の爪痕を眺めていた。
「……あれか」
大小様々な無数の魔物が地平に広がり、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。
統率が取れているという雰囲気はなく、それぞれ好き勝手に動いているようだ。
「すごい数だよ……」
「……チャト」
「あたし、絶対逃げないから」
「……よし」
俺は右手に持った魔ガホンを構え、スイッチを入れる。前とは違い、レキスにたっぷりと魔力を入れてもらったので、すぐに電池切れを起こす心配はない……とレキスは言っていたが。
「「「あー、あー。魔物諸君に告ぐ。今すぐ引き返しなさい。引き返せば、こちらから危害を加えることはありません。繰り返す。今すぐ引き返しなさい」」」
とりあえず警告をしてみたが、魔物の勢いが止まる様子はない。
ダメか……言葉が通じているのかどうかもわからないしな。ならばもう一つ確認しておこう。
「「「そちらに、ビータ・チュールという方はいませんか? いたら出てきてください」」」
「えっ、れーいち、どうして……」
「これから使うダジャレ魔法は相手の命を奪うようなものもある。もし、君のお父さんがいたら……」
「そっか。……ありがとう」
「しかし、どうやらいないみたいだね」
魔物たちはどんどん距離を詰めてくる。
獲物を見つけ、ニヤニヤと笑っている表情が確認できるところまで近づいていた。
「……できるだけ引き付けてから戦おう。チャトは俺の側に来てくれ」
「あたしも戦う」
背負っていた弓を手に取り、矢をつがえる。
「でも、俺に触れてないと……」
「はい」
チャトが俺の前に立ち、長い尻尾の先を手元に持ってくる。
「それ、握ってて」
「えっ」
「それならあたしも攻撃できるから」
催促するように尻尾をくねくねと動かす。
「こ、こうかな」
すこし隙間が開くようにチャトの尻尾の先を握る。
「もっとしっかり持っていいよ」
「わ、わかった」
今度は少し強めに握ってみる。
「んぁっ……あ……ごめ……ん、もう少し、ゆるめて……」
「わわ、す、すまない」
慌てて手の力を緩める。
「うん、そのくらい……。ごめんね、強く握られると力が抜けちゃうの」
「いや、こちらこそすまない」
なかなか加減が難しそうだ。しかしもう、このまま戦うしかない。
「あのね。……トキヤ族の女の尻尾は、好きな人にしか触らせないんだよ」
「そうなのか。すまないね……緊急時とはいえ、そんな大切な場所に俺なんかが触れてしまって」
「……もー。ばか」
「え?」
「来たよ!」
気づくと、目前まで魔物が迫っていた。
よし、この距離なら奥の魔物まで魔法の効果が届くだろう。
「まずは警告だ」
魔ガホンを構え、大声で叫ぶ。
「「「トップに突風」」」
背後から強い風が吹き抜け、先頭にいた魔物から次々と後方へ吹き飛ばす。
緑色の一つ目の巨人のような魔物は前傾姿勢になり耐えようとするが、こらえきれず尻もちをついている。
「「「これ以上近づくともっとひどいことになる。それが嫌なら今すぐ引き返しなさい」」」
魔物とはいえ、これだけ多くの命を奪うことには抵抗がある。できればこれで引いてほしいのだが……。
「……ダメみたい、だね」
「ああ」
ニヤついていた魔物の余裕が消え、一気に警戒心が高まったのを感じる。
無防備に近づいてきていたのが、こちらの様子を見ながらじっくりと近づく動作に変わる。
「もう一度言ってみよう。ちょっとうるさくなるぞ」
「うん。大丈夫」
「「「恐怖の強風」」」
再び風が吹き荒れる。【トップの突風】は一度きりだったが、今度は三分間吹き続けそうな勢いだ。巨人の魔物も後ろにゴロゴロと転がっていく。
「うわぁ……。れーいち、絶対手、離さないでね」
「ああ、わかってる」
今、この手を離したらチャトが魔物の群れの中に飛んで行ってしまうだろう。
俺は強く握りすぎないよう、かつ慎重にチャトの尻尾を握りなおした。
「魔物が引いた分、前進しよう」
「わかった」
チャトと共に前へと進む。その間も魔物たちは強風で後方に飛ばされていく。
「……あたしの出番、ないかも」
「いや、まだなにをしてくるかわからない。油断せずにいこう」
「うん」
声の届いた範囲まで強風が続いているはずだ。これで引いてくれないなら……やるしかない。俺はスボンのポケットから黒い皮の表紙の小さな手帳を取り出した。
「あ、それ……」
「そう、王国で君が買ってきてくれた手帳さ。この中に俺が考えたネタと、レキスが考えてくれたネタが書いてある」
「レキちゃんが?」
「攻撃的なダジャレは苦手だと言ったら、一緒に考えてくれてね。……なかなか恐ろしいネタを提供してくれたよ」
「へ、へぇ……」
「なるべく使いたくはなかったが……」
どうやらあそこが風の終着点のようだ。飛ばされた魔物と、後方にいて無事だった魔物がぶつかり合い、絡み合い、おたおたしている。
「何かピカピカ光ってるよ」
「あれは……魔法か?」
「もしかして、回復してるのかな」
魔法を使う魔物もいる、とレキスから聞いている。魔法の対策はあるが、攻撃魔法には注意しておこう。
「あ、風が……」
三分が経ったらしく、風がピタリと止む。
「「「あー、我々は戦いを望まない。どうか引いてはくれないだろうか」」」
風が止まると同時に、魔物たちがざわめく。そして周囲の魔物と顔を見合わせたかと思うと……こちらに向かって突進してきた。
「わわわ、き、きたよ!」
「もう、覚悟を決めるしかないな」
「「「だからいうたやないの、雷雨になるって」」」
突然周囲に強い雨が降り始め、何かが弾けるような鋭い轟音と共に、巨人の魔物に雷がうちつける。頭からつま先に抜けた雷は濡れた地面を伝わり、周囲の魔物の体をも感電させる。
「ひぇぇ……」
「凶悪な組み合わせだな」
雷は数秒置きにに空から降ってきて、なんとか動こうとする魔物の動きを封じ続ける。すでに絶命した魔物も多くいるようだ。
「れーいち、あれ!」
倒れている魔物たちの隙間を縫って、数体の魔物がぴょんぴょんと跳ねながらこちらへ向かって来る。ハンバーガーのような形状の頭にぎょろりとした大きな目が一つ。細長い金属の棒のような体に二本の腕がついている。電流が体に流れてきても、まったく意に介していない。
「雷が効いてないみたい」
「あれは……確か【シンライヒ】だったか。雷抵抗がやたらと高い魔物だ」
「知ってるの?」
「ああ。レキスにこの世界の魔物について教えてもらったことがあってね」
「そうなんだ……」
「勉強はしておくものだな」
そんなことを言っていると、シンライヒ達が両手を前にかざし、なにか呪文を唱えている。やがて、雷の玉のようなものが手の前に現れた。
「あれは……雷の魔法? やり返そうという気か」
「えいっ」
チャトが矢を放ち、一直線に飛んで行った矢がシンライヒの目玉を貫く。そのまま地面に倒れ、動かなくなった。
「お見事」
「で、でも他のやつが間に合わないよ!」
「大丈夫だ。多分」
「「「雨天では魔法がうてん」」」
シンライヒの手の中の雷がどんどん小さくなり、消滅した。両手を広げ、キョロキョロと目玉を動かし何事かと戸惑っているようだ。
「チャト、今だ」
「うん! よっ! ほっ! はっ!」
次々と矢を放ち、戸惑うシンライヒの目玉を射抜いて行く。矢継ぎ早とはこのことか。
「すごいなチャト。百発百中じゃないか」
「うん。なんだか、力がどんどんわいてくるみたい」
そうか、もしかしたら魔物を大量に倒したからレベルが上がったのかもしれない。一体どれだけの経験値が入ったのだろうか……。
雷はまだ撃ちつけているが、ほとんどの魔物はもう動かなくなっていた。
「……まだまだいるね」
「……ああ」
遠くにはまだダジャレ魔法の範囲を外れた魔物がごまんと残っている。戦いはまだ終わりそうにない。
「ネタはまだまだある。進もう」
「うん」
倒れた魔物に注意を払いながら、さらに前進する。魔法の効果が切れると、魔物たちは懲りずに襲って来る。
「これはレキスのネタだ」
「「「そこな、しぬまで沈む、そこなしぬまだ」」」
…………………………
「「「針と剣のハリケーン」」」
……………………
「「「なだれにうなだれる」」」
………………
「「「凍りなさい。とどこおりなく」」」
…………
「「「豪華な業火でしのごうか」」」
……
♢ ♢ ♢ ♢
戦闘が始まってからどれくらいの時間が経ったのだろう。
あっという間だった気もするし、途方もなく長い時間戦っていたような気もする。
チャトの矢は尽き、手帳のネタも言い尽くし、魔ガホンの電池も切れかけた頃……俺たちの周りに動く者はいなくなっていた。
「終わった……みたいだな」
叫びすぎて、かすれてしまった声でつぶやく。
チャトは返事をすることもなく、ぼーっと遠くを見ている。尻尾からはもう手を放していた。
「……これほどの力とは」
一瞬チャトの後ろ姿が、別人であるかのような印象を受ける。
「……チャト?」
「ん? おつかれさま、れーいち。終わったね」
「あ、ああ」
こちらを振り向き、少し疲れた笑みを見せるチャトは、俺の知るいつものチャトだった。
「チャト、なんか今……」
「え? なに?」
「いや。……なんでもない」
気のせいだろうか。なにか妙なことを言っていたような気が……俺も疲れてるのだろうか。
「……すごい光景だね」
「ああ……」
荒れた大地の上には無数の魔物の死体が転がっており、足の踏み場もないような状況だ。
これを俺たちがやったということが、どうにも信じられない。
「……もう、戻る? みんな帰ってきてるかも」
「そうだな。だが、その前に……」
「え?」
「魔物とはいえ、このままにしておくのはどうにも忍びない。魔ガホンの魔力、まだ少しだけ残っているようだし……」
俺は魔ガホンを構え、最後のダジャレを叫んだ。
「「「戦場を、洗浄」」」
俺の声が、荒廃した大地に倒れた魔物をなでるように駆け巡る。すると、魔物たちの体が白く淡い光に包まれ、天に昇って消えていった。この光は見覚えがある。これはルウシムカさんの時の……。
「わぁ……」
「……」
魔物が消えた後も、しばらく俺たちはその場に立ちすくんだまま、戦場の爪痕を眺めていた。
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