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本編
23.
しおりを挟む「……ですが、わたくしとしましては、これまでの期間は本当にそうすべき必要性があるのか、真面目に働くのか判断するために時間を割いていたつもりです」
「ハン、私を評価していたなどと――」
「当然のことではないですか、役割は限定的な立場とは言え、侯爵代理という肩書きがあなたに相応しいとわたくしには思えませんもの。与えられた仕事に責任を持たないくせに、権力を手に入れたと思い上がったことはもちろんのこと、それに加えて……、すでにフロージニス侯爵家の関係者として、あなたの名前は貴族院の名簿に載っていないのですから」
何様のつもりだと不満そうなダルトンの返しを遮り、マリアベルが知識として持ち合わせていないだろうと貴族社会の常識を叩き付けた。
「な、なんだと……?」
「そんな他人と言うべき相手であるのに、ただ愛人を囲って怠惰な暮らしをさせるために、大事な侯爵家の資産を使うなどと……」
それほど無駄な使い道はないと、無駄金を使うなと怒鳴り込んできた相手を否定するように、マリアベルが小さく首を振ってみせる。
「何を!」
「貴族院の名簿には、亡きティアナリア様の元旦那、前侯爵の配偶者だったと、そのように記されているはずだ」
「侯爵家との繋がりは、それだけになっていたはずなのですよ、本来なら……」
勤め先という縁すら本当なら残しておきたくなったと、こうしていることが迷惑でしかないと彼女の目は語っている。
「そうだな、どこの関係者になっているかと言えば、ワライン伯爵家の令息の一人という扱いに戻っていることだろうさ。そういうわけで、フロージニス侯爵代理と役職名を正しく名乗ることは許されるわけだが、自身の名前としてフロージニスを名乗ることは許されていない」
「えっ……」
「省略して侯爵だと偽証することは、犯罪行為として処罰される対象となるほどだからな」
レオナルドが教えたように、配偶者と死別したとき生家へ戻らなければならないのは、ロックハート王国がそういう制度を決めているからだ。
かつて、ダルトンのような野心家達が、婿入りした家系の乗っ取りを計画して王国各地で混乱したことがあった。王侯貴族が血筋に拘っていることと、制限が設けられた理由は同じだろう。
「そ、そんな馬鹿な……」
「そういう反応をしてしまえることが、普通ならあり得ないことなのだがなぁ……」
「説明されているはずなのですけどねぇ……」
困ったものだと、二人は当て付けるように溜め息を吐き出した。
「そちらの子爵令嬢と共謀してフロージニス侯爵位の簒奪を図っていたと、そう疑われるような状況を作り出していると認識するべきなのだぞ?」
横柄な態度を取れる立場ではないと、かなりの問題発言をしていたとレオナルドの咎めるような目付きに、ダルトンとイザベラが焦り出す。
「け、決してそのようなことを考えてなど……」
「そ、そうですわ、何かの間違いです!」
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