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本編
21.
しおりを挟む「ば、馬鹿にして!」
王子がいるから強く出られないと思っているのに、何故か格下と扱い馬鹿にしていたマリアベルから突然の嘲笑を向けられたと、イザベラは大声で反応してしまう。
叱責されている立場を教えられたあとの反応とは思えないが、子爵令嬢と連呼されたときの怒りが渦巻いたままだったこともあるだろう。
「その相手が貴族学院で正しく学んでいた者だとすれば、相当なお馬鹿発言だと受け取られて当然の妄想だろうに……」
相手によって態度が変わるところは、こちらの世界でも変わらないなとレオナルドが呆れれば、間抜けだと周囲の令息令嬢も頷いている。そして、知らなかった相手だから控え目に、それでいて表情から伝わるように嫌味や否定の言葉を囁き合う。
「その立場にいる者が学んでおくべき事柄であり、機会が与えられていた以上、知らなかったからでは通用しないことを覚えるべきだな」
「ぐ……」
年下王子から諫められて呻いたイザベラに同調するように、カリウスやダルトンもさすがに顔を背けている。
数秒の空白ののち、多少の憂さ晴らしを決行したマリアベルが、あっさりと表情を切り替えて話を重要なところまで戻す。
「本来ならば、侯爵代理など必要なかったのですよ。貴族学院へ通いながらではありますが、領主としての仕事は全て行えていますからね」
「……なんだと?」
「母の病気が判明したときから、フロージニス侯爵位を受け継ぐために、わたくしも侯爵家に関わる書類は全て目を通してきました。分かりやすいようにはっきりと申し上げるなら、侯爵にある者として侯爵代理にあなたを任命したのはわたくしですよ」
「馬鹿なっ!」
前ティアナリア侯爵が亡くなった直後、侯爵位を引き継ぐための申請は、あっさりと受理されている。
そんな話し合いが行われたことも知らず、自分がマリアベルの下で働かされていると、一切考えたこともなかったダルトンの声量が大きくなる。
「成人していない身で、お前が爵位を継いでいるなど――」
「貴族学院を卒業していることが、爵位を継承するための資格ではないぞ」
「え……?」
「跡継ぎとなれる者が十歳の誕生日を迎えて、貴族院へ継承順位の変更を申請する。そして、その届け出から継承権の可否が決められている。そのあとは、その順番通りに引き継ぎが行われていくだけだ。まぁ、継承者が十代の内は、誰かしらを後見人として届け出る必要はあるの――」
「ならばっ!」
自説を主張しようとする言葉を遮ったレオナルドの教えに、言い切る前にダルトンが希望を見付けた。
後見人を必要とするならば、前侯爵の配偶者であり彼女の父親である自分がなっているはずだ。だから、そんな自分が詳細を知らされていないのだから、やはりフロージニス侯爵家とリリカンド侯爵家で結ばれた婚約の破棄が成立しているなど、そんな言い分はおかしいと主張しようとした。
しかし、そんな儚い願望は、マリアベルから即座に否定されてしまう。
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