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本編

20.

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 最終的に一部の報告書を確認することだけが仕事となっていった。そして、それを我ながら侯爵として完璧な仕事だと、自画自賛して思い上がっていたことになる。
 許可を与えているのだから、自分は偉くなったものだと刷り込んでいたのである。

「貴族学院へ通っているなど、何らかの理由があるときに、適任者に領地の視察などを任せるための役職だと言えます。爵位継承者に成り代われるほど、全権委任されていないことは知っておくべきでしょうね」

 侯爵代理が作成したり確認したりした書類は、侯爵が最終的な処理を行う。執事長が報告していた相手は、もちろん上役の侯爵ということになる。
 しかし、じっくりと聞いていないからなのか、自分が貴族学院へ通っているからだとマリアベルが教えた情報に、ダルトン達は反応する様子を見せなかった。

「ハァ……、王国の継承制度を軽く知っているだけで、間違うはずないのだけれど、なー」

 察しが悪いなと首を振ったレオナルドは、彼等の非常識ぶりを咎めていく。

「フロージニス侯爵家の別邸で顔を合わせ、それらしい会話を繰り返していて、誰も自分達が思い描いていることの不自然な点に気が付かなかったのかい? 貴族関係者なら常識だと教わるというのに、本当に継承制度を誰も知らなかったのか? 婿入りした王配や嫁入りした王妃が国王へ繰り上がることが許されないことと、血筋を尊んできた貴族の考えが同じだと思わないのか?」

 相対する四人の顔を、その表情をじっくりと観察しながら言葉を繋いだ。
 一人だけ、目が合って嬉しいと喜びの表情を浮かべたことに、場違いすぎる相手にレオナルドは心の中で嫌悪感を浮かべさせられてしまった。
 ちなみに、執事長などの古株はそれとなく訂正を試みたのだが、全く聞く耳を持たなかったことは記しておこう。
 下々が意見するなと我が道を行く身勝手さに、訪れるであろう身の破滅を心配されることもなくなっていった。引き返すための諫言を無視してきた結果が、本日へ集約されたということになる。

「血筋の関係がないリリカンド侯爵令息が、そのうちフロージニス侯爵になることも絶対に起こり得なかったことは理解できたな?」
「え、ええ……」

 婚約破棄が成立していることから、侯爵家の関係者となることもなくなったわけだが、今後もおかしなことを考えるなよと王子として釘を刺す。
 それから何かを思い出したように笑ったマリアベルが、残念な報告ばかりを聞かされていた鬱憤を晴らすかのように、他人事のように聞き流している子爵令嬢をやり玉に挙げる。

「そういえば、先日の報告書にありましたが、見下していた相手から馬鹿にされたと怒鳴り散らしていたそうですね。しかも、あなたがもうすぐ侯爵夫人になるなどと、かなり自分勝手な主張を展開していたらしいですが、貴族学院で学ぶ法律を理解している者からすれば、無知な存在に映ってしまうのも仕方ないことではないかしら?」
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