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本編
17.
しおりを挟む「両家の馬車が揃って貴族院へ出入りしていましたから、間違いなく目立ったことでしょうね。そういうわけですから、両家が合意しているというのは、聞き間違いではございませんよ」
「バカな……」
「遊び呆けていた事実を知られたご夫人は大層お怒りの様子でしたし、助けを求められるような相手は残されていないというわけです」
二人から交互に畳み掛けられて、カイセルの視線が定まらない。
「そ、そんなこと、は……」
「年若い頃に婚約した際の条件として、貴族学院の卒業時に継続するか解消するか、見直すというのは割と基本の条項ですよ。お互いに歩み寄ろうとしても、どうしても相性が悪い場合はございますし……、数年の内に情勢が変化する場合や良い出会いがあるかもしれませんからね」
あり得ないと自信を持って続けられない、母親の怒れる顔を思い浮かべてしまったカイセルへ、マリアベルが元から想定されていたことだと締めに入った。
「まぁ、あなたくらい、しっかりと婚約破棄に至るほど失点を重ねる方は珍しいわけですけどね」
言い負かされてうな垂れるカイセルを見て、興味を失ったかのようにエミリーが腕を抱き抱えることを止めた。
さらに宣告を見守っていた周囲から、彼に追い打ちを掛けるような会話が聞こえてくる。
「貴族学院の在学中に古い婚約を解消して、新しい婚約者と結ばれるなんて話、良く聞くことだよな?」
「まぁな、実際、自分は仲良くなった後輩と婚約を結び直せたし……」
「へぇ」
「ほほぉ」
誰なのか詳しく聞きましょうかと、近くの令息達が囲い始めた。
そんな本人達の意思だけではなく、王太子となる存在の誕生や有力貴族の後継者が見直された場合など、婚約者が派閥の関係から玉突きのように動きやすい時期だってあるだろう。
「選ばれるかどうかという立場のはずなのに、選んでいるかのような発言を繰り返されているというのは、何度か耳にしましたわよね?」
「ええ、マリアベル様の元へ婿入りするはずなのに、俺様が受け入れてやっているなどと傲慢な発言をなされていたとか……」
「あの見た目で男爵令嬢などが寄って来ていましたから、勘違いなされたのかもしれませんわ。普通なら、あり得ませんけど……」
百八十センチを超える身長、優しげなエメラルドの瞳、甘く囁くような声色だって魅力的かもしれない。
学年で最上位とまでは言わないが、カイセルが着飾ってパーティへ出掛ければ令嬢の目を引いたことは確かだ。誘うように声を掛ければ、喜んで相手をする令嬢だっていただろう。
「まぁ、侯爵令息というだけで、お金を持っていると思われますからね、世情に疎い方などは勘違いされるというか……」
男爵家などでは到底手の届かない品物が、ポンと情事の見返りに贈られただけで、生活に困らない一年を生み出せるかもしれない。
ロックハート王国は他国に比べて安定しているが、それくらいに困窮している貴族がいないわけではない。
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