上 下
17 / 26
本編

17.

しおりを挟む
 
「両家の馬車が揃って貴族院へ出入りしていましたから、間違いなく目立ったことでしょうね。そういうわけですから、両家が合意しているというのは、聞き間違いではございませんよ」
「バカな……」
「遊び呆けていた事実を知られたご夫人は大層お怒りの様子でしたし、助けを求められるような相手は残されていないというわけです」

 二人から交互に畳み掛けられて、カイセルの視線が定まらない。

「そ、そんなこと、は……」
「年若い頃に婚約した際の条件として、貴族学院の卒業時に継続するか解消するか、見直すというのは割と基本の条項ですよ。お互いに歩み寄ろうとしても、どうしても相性が悪い場合はございますし……、数年の内に情勢が変化する場合や良い出会いがあるかもしれませんからね」

 あり得ないと自信を持って続けられない、母親の怒れる顔を思い浮かべてしまったカイセルへ、マリアベルが元から想定されていたことだと締めに入った。

「まぁ、あなたくらい、しっかりと婚約破棄に至るほど失点を重ねる方は珍しいわけですけどね」

 言い負かされてうな垂れるカイセルを見て、興味を失ったかのようにエミリーが腕を抱き抱えることを止めた。
 さらに宣告を見守っていた周囲から、彼に追い打ちを掛けるような会話が聞こえてくる。

「貴族学院の在学中に古い婚約を解消して、新しい婚約者と結ばれるなんて話、良く聞くことだよな?」
「まぁな、実際、自分は仲良くなった後輩と婚約を結び直せたし……」
「へぇ」
「ほほぉ」

 誰なのか詳しく聞きましょうかと、近くの令息達が囲い始めた。
 そんな本人達の意思だけではなく、王太子となる存在の誕生や有力貴族の後継者が見直された場合など、婚約者が派閥の関係から玉突きのように動きやすい時期だってあるだろう。

「選ばれるかどうかという立場のはずなのに、選んでいるかのような発言を繰り返されているというのは、何度か耳にしましたわよね?」
「ええ、マリアベル様の元へ婿入りするはずなのに、俺様が受け入れてやっているなどと傲慢な発言をなされていたとか……」
「あの見た目で男爵令嬢などが寄って来ていましたから、勘違いなされたのかもしれませんわ。普通なら、あり得ませんけど……」

 百八十センチを超える身長、優しげなエメラルドの瞳、甘く囁くような声色だって魅力的かもしれない。
 学年で最上位とまでは言わないが、カイセルが着飾ってパーティへ出掛ければ令嬢の目を引いたことは確かだ。誘うように声を掛ければ、喜んで相手をする令嬢だっていただろう。

「まぁ、侯爵令息というだけで、お金を持っていると思われますからね、世情に疎い方などは勘違いされるというか……」

 男爵家などでは到底手の届かない品物が、ポンと情事の見返りに贈られただけで、生活に困らない一年を生み出せるかもしれない。
 ロックハート王国は他国に比べて安定しているが、それくらいに困窮している貴族がいないわけではない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」

まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。 気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。 私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。 母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。 父を断罪できるチャンスは今しかない。 「お父様は悪くないの!  お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!  だからお父様はお母様に毒をもったの!  お願いお父様を捕まえないで!」 私は声の限りに叫んでいた。 心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。 ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※タイトル変更しました。 旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」

悪役令嬢は処刑されました

菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。

【完結】何も知らなかった馬鹿な私でしたが、私を溺愛するお父様とお兄様が激怒し制裁してくれました!

山葵
恋愛
お茶会に出れば、噂の的になっていた。 居心地が悪い雰囲気の中、噂話が本当なのか聞いてきたコスナ伯爵夫人。 その噂話とは!?

【完結】夫の健康を気遣ったら余計なことだと言われ、離婚を告げられました

紫崎 藍華
恋愛
モーリスの健康を気遣う妻のグロリア。 それを疎ましく感じたモーリスは脅しのために離婚を口にする。 両者とも退けなくなり離婚することが決まった。 これによりモーリスは自分の言動の報いを受けることになる。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

婚約者に忘れられていた私

稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」  「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」  私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。  エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。  ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。  私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。  あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?    まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?  誰?  あれ?  せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?  もうあなたなんてポイよポイッ。  ※ゆる~い設定です。  ※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。  ※視点が一話一話変わる場面もあります。

処理中です...