上 下
6 / 26
本編

6.

しおりを挟む
 
「そういった過去の悪例を学び、貴族院の審査を経る必要がある制度へ変更すると、フロージニス侯爵家も賛同した王国法で定められました。現状、そうなっている以上は……」

 無茶を通すことは無理でございますと執事が首を振った。
 侯爵代理であるはずのダルトンは、フロージニス侯爵家でいかほどの予算が組まれており、予算外にどの程度の品物なら買えるのか細かな数値を理解していない。自分達の裁量で、即座に動かせる金額を確保されていることも知らないかもしれない。
 だから、自分自身の好みやイザベラ、エミリーが欲しいと強請ねだった品物を届け出るように命令しているにすぎない。当たり前に認識しておくべき法律すら、出身のワライン伯爵家では跡継ぎになれないからと勉強してこなかったのだ。
 フロージニス侯爵家が管理している資産を把握している執事から、やんわりと無理な金額であることを伝えられただけで、その点を強く言い返せなくなってしまう。

「フンッ! 何かあればお前は王国法、王国法と言い出す。答えに困ったとき、そう言えば済むと思っておるのだろう?」
「まさか、まさか。決して、そのようなことは……」

 何度も思っていた苛立ちを向けるように、ダルトンが執事を睨み上げた。
 疑ったところで判断すべき情報を持ち合わせていない。貴族院が執事の作成書類を問題視していない以上、彼に取れる選択肢は少ない。
 ちなみに、予算を明確にすることは、商人から進められるがまま、見栄を張ってまで無駄遣いする貴族が確実に減った。そのことは、良い作用と言えるだろう。
 しかし、どんぶり勘定すら面倒臭がる彼のような上役ばかりならば、資格を有する経理担当者に誤魔化されていることがあるかもしれない。

「……フン、独り身となった私がイザベラと婚姻することまで、その王国法が邪魔をしておるということだったよなー」

 故ティアナリア前侯爵とダルトン侯爵代理の結婚は、突然伯爵だった父親から命じられた契約結婚だ。伝えられてしばらくは、王家に次ぐとまで噂される侯爵家に認められたと喜んだ。
 しかし、現実は残酷だった。王都別邸へ閉じ込められた屈辱に耐えて、我慢して、我慢して、ようやく侯爵家を我が意のまま好きに出来うる好機が巡ってきたと考えている。
 貴族学院で出会い愛し合ってきたイザベラと結ばれる、幸せにしてやれると思った矢先で、再婚を認められないと邪魔をしてきたのが憎き王国法であり、融通の利かない貴族院という認識だ。

「しかしですな、跡継ぎとなる可能性が残されている王侯貴族が、連れ添いの死別を理由に再婚する場合、お互いに二年以上は相手のいなかったことが条件となっておりますから――」

 その期間に産まれた子供は、ほぼ正確に出る魔法検査で親子関係を認められたとしても、正式な王位継承者、爵位継承者としては認められない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」

まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。 気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。 私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。 母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。 父を断罪できるチャンスは今しかない。 「お父様は悪くないの!  お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!  だからお父様はお母様に毒をもったの!  お願いお父様を捕まえないで!」 私は声の限りに叫んでいた。 心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。 ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※タイトル変更しました。 旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」

悪役令嬢は処刑されました

菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。

【完結】夫の健康を気遣ったら余計なことだと言われ、離婚を告げられました

紫崎 藍華
恋愛
モーリスの健康を気遣う妻のグロリア。 それを疎ましく感じたモーリスは脅しのために離婚を口にする。 両者とも退けなくなり離婚することが決まった。 これによりモーリスは自分の言動の報いを受けることになる。

【完結】何も知らなかった馬鹿な私でしたが、私を溺愛するお父様とお兄様が激怒し制裁してくれました!

山葵
恋愛
お茶会に出れば、噂の的になっていた。 居心地が悪い雰囲気の中、噂話が本当なのか聞いてきたコスナ伯爵夫人。 その噂話とは!?

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

処理中です...