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本編

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「格式高いフロージニス侯爵家の使用人となりたい者なんて、掃いて捨てるほどいるでしょうから、もっと有能で、もっと見目麗しい者達を集めましょうかね。若い執事なんて良いわよね?」
「「「是非是非!」」」

 侯爵夫人になる身としては、任される屋敷を狙い通り取り仕切りたい。そんなときに邪魔となる者は排除しておきたい。そして、たまに楽しめる若い男でも増やしたいというイザベラと、命令できそうな使用人を増やしたいというメイド達の思惑が一致した。
 実現する日を夢見て、楽しそうな彼女達から幾度となく繰り返されている、愚かがすぎる会話なのであった。


   ☆   ☆   ☆


 四十直前の子爵令嬢が、あり得ない会食の不満を吐き出していた時刻と同じ頃。
 フロージニス侯爵家の王都別邸にて、豪華な執務机で癇癪かんしゃくを起こす男性もいた。

「あれも駄目、これも駄目っ! 一体何をいくらで買うと言えば、これらの品は認められるというのだ!」

 部屋を使っているダルトン・フロージニス侯爵代理が、全て不許可として返されてしまった十数枚の書類ごと右手を机へ叩き付けた。
 クシャリと僅かに皺が寄るところを見て、青色の頭髪へ白髪が交じり始めた執事が困ったような顔を作る。

「しかし、旦那様、一定額以上となる金額を動かす場合や贅沢品の購入には、貴族院へ届け出て必要不可欠な品物であると認められなければなりません」

 腐敗を正す変革の時を経て、ロックハート王国では貴族にも年間予算の提出が義務付けられている。
 それらを精査しているのが貴族院であり、貴族関係の管理や審査を行っている王国行政府に属する組織である。一応、一般人に対する税の取り立てほど厳しくはないが、内容に矛盾があり過ぎる場合は細かく詰問きつもんされたりすることもある。
 ただし、今回の件には少々異なる事情があるようだが――
 ちなみに、貴族院の職員となるためには、行政書士のような王国の資格試験に合格する必要がある。兄弟姉妹の多い下級貴族の出身者には、貴族の指南役などにも雇われやすくなることから、食いっぱぐれることがなくなると貴族学院で取得を目指す者は多い。

「フロージニス侯爵家の収入を鑑みて決められている今年度の予算を割り当て終えている以上、お伝えしておりましたとおり突然の支出に審査が厳しくなることは致し方ないことかと……」

 現状のような年度末に駆け込むような申請は、比較的却下されやすい。という説明を受けた上で提出させているのに、不許可の赤文字を憎らしげにダルトンは数えたのである。

「我が侯爵家の金ではないか! 何故、必要なとき好きに使えぬ!」
「しかし、そう言って首が回らなくなり、爵位を売らざるを得なくなり途絶えた貴族は多うございました」

 賄賂が必須の状態など、王国の中枢で腐敗が進んでいた時期でもある。
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