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本編
4.
しおりを挟むちなみに、卒業記念式典まで残された時間は四日ほど。話を通して疑惑の対象者を確保、行動できなくすることは簡単だ。
しかし、多くの貴族関係者が近郊まで馬車を進めているのは、遅くとも前々日までに到着しておく慣例があるからだ。母校で過ごした思い出を語り合いながら、旧知の王侯貴族と国際交流が繰り返される数日間は、些細な粗相から事案発生を嗅ぎ取られてしまう。
国境の都市から学術都市まで四日掛かるアーガイン侯爵の奇怪な行動、現時点での不在が、すでに注目を集め始めていたことが噂話の広がりを早めた要因だ。身勝手な計画を実行に移した人物が引き返せない、表舞台から退場させられる決定打となる。
「わたくしなら、王家に対してそこまで激怒しないだろうという勘定もありそうですけど……」
「まぁ、それがお嬢様ですから」
「ノクト様大好きさん、ですからねぇ」
張り詰めた空気感が続かないまま、彼女達の話し合いは騎士の到着から当日の警備体制へ移っていった。
★ ★ ★
夕焼けの会合から四日後、国立リルフレア魔法学院では滞りなく卒業証書授与式が終わった。
茜色に包まれて、程なく卒業を祝う式典の最後を飾る舞踏会が開演する時刻。
最上級に盛装する卒業生が、大人の一歩を踏み出す瞬間を待ち侘びる静寂。
そんな優美な控え室を凍り付かせる、歴史に名を残す暴挙が動き出す。
「こうして我々が集える最後に、皆に聞かせたいことがある!」
控えの広間に集まった同級生を見渡して、舞踏会場と指定された大広間『紺碧』へ繋がる両開きを背にして、アルフォンス・ロンドベルトが声を張り上げた。
このタイミングで騒ぎを起こすかと呆れるような視線を集めておきながら、期待するような視線が集まっていると勘違いするリグレット王国の王子が、成功を疑わない勝ち誇った笑みでゆっくりと歩を進める。
彼に付き従うのは、桃色ゆるふわ髪の女子学院生一名と、五名の男子学院生。
ネクタイや手袋などに縫われた紋章から、全員がリグレット王国出身者だと瞬時に把握される。
「私はこの場で、侯爵令嬢という立場を悪用した悪女、エリザベート・リルフレアの悪事を暴きたいのだ!」
アルフォンス王子が勢い良く指差した先では、輝くブロンドヘアを優雅に流して、青紫色のドレスの裾を広げて、女子学院生が驚くような顔をして振り返る。
「あら? わたくしをご指名ですか……」
「とぼけたところで無駄である! 聖女の資質を備える、メアリー・プリア男爵令嬢をお前がずっと虐げていたことは分かっているのだっ!!」
王子の左腕がその親密度をアピールするように、顔を伏せるように並んでいた女子学院生を抱き寄せた。
リグレット王国の田舎町に生まれたメアリー・プリアは、幼少期より神託を受ける聖女の資質ありと注目されてきた。プリア男爵家の跡継ぎにはならないであろう彼女が、魔法学院にその才能開花だけを見込まれて入学していることは有名な話だ。
男爵家だけで用意できない諸経費を、国庫から補填されていることも当然知られている。
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