もう二度と、愛さない

蜜迦

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式典会場④

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 クロエ・デヴォン──
 まさかこの場でその名を聞くことになるとは微塵も考えなかった。
 
 「クロエ・デヴォン伯爵令嬢か……私も話は聞いている」

 頭の中が真っ白になった。
 殿下がクロエ嬢の事を認識していた。

 「なんと!殿下のお耳にも既に届いておりましたか。デヴォン伯爵令嬢はそれは素晴らしい方なのです!」

 発言の許しを得たと感じたのか、ドラン伯爵はクロエ嬢の功績を並べ、褒め称えた。
 演説のように会場に響き渡るドラン伯爵の声。
 さっきからずっと、左胸がバクバクと嫌な音を立てている。

 「そなたの話を聞き、私もデヴォン伯爵令嬢と話をしてみたくなった」

 まるで死刑宣告を聞いているようだ。
 ついにふたりが出会ってしまう。
 (早く離れなければ)
 ふたりに近い場所にいれば、また同じ目に遭うかもしれない。

 「だが、個人的理由で式典を中断させた事は許しがたい。沙汰は追って伝えよう。それまでは屋敷に謹慎とする」

 「寛大なご処分感謝いたします。ご列席の皆さまにも迷惑をおかけして申し訳ありません」

 ドラン伯爵は深々と頭を下げ、衛兵とともに会場の外へ出て行った。

 「大丈夫か」

 殿下は身体を屈め、私の顔を覗き込んだ。
 深紅の瞳に映る私は、まるでいじめられた子どものような、ひどい顔をしていた。

 「確か右から三番目に座っている者が、ドランの親族だったはず」

 その騎士は居た堪れない様子でこちらを見ていた。
 親族があんな事をするなんて、夢にも思わなかったのだろう。
 気の毒だが、同情するほどの余裕は今の私にはない。

 「ドランはクロエ・デヴォンとやらによほど心酔しているのだろう。だが、そなたを害そうというような悪意は感じられなかった。あまり気にするな」

 「……はい。お気遣いありがとうございます」

 会場にはいつの間にかざわざわと不穏な空気が流れ出していた。
 ドラン伯爵の話を聞き、私の叙勲に疑問を抱いているのだろうか。
 壇上から降りようとする私をその場にとどめ、殿下は客席へ向かって声を張り上げた。

 「予期せぬ事態が起きたが、今回の叙勲者の選定に不正は一切ない。皆、私がこの目で見て相応しいと判断した者ばかりだ。他に異議がある者がいれば、今この場で名乗り出よ」

 




 
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