もう二度と、愛さない

蜜迦

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殿下の宮で③

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 「殿下、おっしゃる意味がわかりません」

 「アンリ・オリオールを慕っているのか否か。これほど単純な質問を、賢いそなたがわからぬはずないだろう」

 「それが今の話と何の関係があるのですか?」

 殿下は眉間に皺を寄せ、少しの間だんまりを決め込んだが、開き直ったような態度で返してきた。

 「ある。だから答えてくれ」

 アンリ様と出掛けた事が、今回の事件と関係があるということなのか。
 まさか、オリオール伯爵家に何かしらの嫌疑がかかっているとでも?
 殿下の真意は知る由もないが、かといってまるっきりわからないわけでもない。
 灯台下暗し、獅子身中の虫。
 この大陸には、血で血を洗う歴史を持つ王族など山ほど存在する。
 皇族として生を受けた殿下にとって、例え身内といえど、警戒を怠らないのは当たり前のこと。
 今回の事に関して言えば、私の行動を把握する身近な人間の仕業だと考えられても不思議ではない。
 しかし私としては、長年家族ぐるみで良い関係を築いてきたオリオール伯爵家──そしてアンリ様が疑われるのは心外だ。

 「オリオール伯爵夫人と母は親友でして、その縁でご子息のアンリ様とも親しくさせていただいております」

 「男女の仲ではないのか」

 「は?」
 
 予想もしなかった問いに、思わず素っ頓狂な声が出た。

 「殿下、仮にもまだ私は殿下の婚約者候補に名を連ねております。家門の名を汚すような真似は誓っていたしません」

 「公の場に二人揃って出席すれば、色々邪推されても仕方ないだろう」

 「……ですから、そうならないようにとアンリさ──いえ、オリオール伯爵子息が身内の集まりに呼んでくださったのです」
 
 「本当に、男女の仲ではないのか?」

 しつこい。
 それに、例えアンリ様とそういう仲だったとして、殿下に何の関係があるのだ。
 それと気になる事がある。

 「それより、なぜ私がオリオール伯爵子息と出掛けたことをご存知なのです?」

 臣下の娘がどこの集まりに出席したとかそんな些細な事、いちいち皇太子の耳に入るわけがない。
 本人が知ろうとすれば別だろうが──

 「まさか、私を監視されていたのですか?」

 「そんな人聞きの悪い事はしていない。心配しているだけだ」

 「なぜ殿下が私の心配を?」

 殿下は視線を落とし、眉間に思いっきり皺を寄せた。
 そして目線を合わせないまま苦々しく呟く。

 「私がそなたを心配するのは、そんなにおかしいことか」

 「いち臣下の娘にそのように心を砕いては、あらぬ誤解を生むかもしれません。それに私の側には常に侯爵家の護衛もついております」

 

 
 

 
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