82 / 100
殿下の宮で③
しおりを挟む「殿下、おっしゃる意味がわかりません」
「アンリ・オリオールを慕っているのか否か。これほど単純な質問を、賢いそなたがわからぬはずないだろう」
「それが今の話と何の関係があるのですか?」
殿下は眉間に皺を寄せ、少しの間だんまりを決め込んだが、開き直ったような態度で返してきた。
「ある。だから答えてくれ」
アンリ様と出掛けた事が、今回の事件と関係があるということなのか。
まさか、オリオール伯爵家に何かしらの嫌疑がかかっているとでも?
殿下の真意は知る由もないが、かといってまるっきりわからないわけでもない。
灯台下暗し、獅子身中の虫。
この大陸には、血で血を洗う歴史を持つ王族など山ほど存在する。
皇族として生を受けた殿下にとって、例え身内といえど、警戒を怠らないのは当たり前のこと。
今回の事に関して言えば、私の行動を把握する身近な人間の仕業だと考えられても不思議ではない。
しかし私としては、長年家族ぐるみで良い関係を築いてきたオリオール伯爵家──そしてアンリ様が疑われるのは心外だ。
「オリオール伯爵夫人と母は親友でして、その縁でご子息のアンリ様とも親しくさせていただいております」
「男女の仲ではないのか」
「は?」
予想もしなかった問いに、思わず素っ頓狂な声が出た。
「殿下、仮にもまだ私は殿下の婚約者候補に名を連ねております。家門の名を汚すような真似は誓っていたしません」
「公の場に二人揃って出席すれば、色々邪推されても仕方ないだろう」
「……ですから、そうならないようにとアンリさ──いえ、オリオール伯爵子息が身内の集まりに呼んでくださったのです」
「本当に、男女の仲ではないのか?」
しつこい。
それに、例えアンリ様とそういう仲だったとして、殿下に何の関係があるのだ。
それと気になる事がある。
「それより、なぜ私がオリオール伯爵子息と出掛けたことをご存知なのです?」
臣下の娘がどこの集まりに出席したとかそんな些細な事、いちいち皇太子の耳に入るわけがない。
本人が知ろうとすれば別だろうが──
「まさか、私を監視されていたのですか?」
「そんな人聞きの悪い事はしていない。心配しているだけだ」
「なぜ殿下が私の心配を?」
殿下は視線を落とし、眉間に思いっきり皺を寄せた。
そして目線を合わせないまま苦々しく呟く。
「私がそなたを心配するのは、そんなにおかしいことか」
「いち臣下の娘にそのように心を砕いては、あらぬ誤解を生むかもしれません。それに私の側には常に侯爵家の護衛もついております」
1,310
お気に入りに追加
5,221
あなたにおすすめの小説
【完結】探さないでください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
私は、貴方と共にした一夜を後悔した事はない。
貴方は私に尊いこの子を与えてくれた。
あの一夜を境に、私の環境は正反対に変わってしまった。
冷たく厳しい人々の中から、温かく優しい人々の中へ私は飛び込んだ。
複雑で高級な物に囲まれる暮らしから、質素で簡素な物に囲まれる暮らしへ移ろいだ。
無関心で疎遠な沢山の親族を捨てて、誰よりも私を必要としてくれる尊いこの子だけを選んだ。
風の噂で貴方が私を探しているという話を聞く。
だけど、誰も私が貴方が探している人物とは思わないはず。
今、私は幸せを感じている。
貴方が側にいなくても、私はこの子と生きていける。
だから、、、
もう、、、
私を、、、
探さないでください。
好きだと言ってくれたのに私は可愛くないんだそうです【完結】
須木 水夏
恋愛
大好きな幼なじみ兼婚約者の伯爵令息、ロミオは、メアリーナではない人と恋をする。
メアリーナの初恋は、叶うこと無く終わってしまった。傷ついたメアリーナはロメオとの婚約を解消し距離を置くが、彼の事で心に傷を負い忘れられずにいた。どうにかして彼を忘れる為にメアが頼ったのは、友人達に誘われた夜会。最初は遊びでも良いのじゃないの、と焚き付けられて。
(そうね、新しい恋を見つけましょう。その方が手っ取り早いわ。)
※ご都合主義です。変な法律出てきます。ふわっとしてます。
※ヒーローは変わってます。
※主人公は無意識でざまぁする系です。
※誤字脱字すみません。
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。
しげむろ ゆうき
恋愛
男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない
そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった
全五話
※ホラー無し
私の愛する人は、私ではない人を愛しています
ハナミズキ
恋愛
代々王宮医師を輩出しているオルディアン伯爵家の双子の妹として生まれたヴィオラ。
物心ついた頃から病弱の双子の兄を溺愛する母に冷遇されていた。王族の専属侍医である父は王宮に常駐し、領地の邸には不在がちなため、誰も夫人によるヴィオラへの仕打ちを諫められる者はいなかった。
母に拒絶され続け、冷たい日々の中でヴィオラを支えたのは幼き頃の初恋の相手であり、婚約者であるフォルスター侯爵家嫡男ルカディオとの約束だった。
『俺が騎士になったらすぐにヴィオを迎えに行くから待っていて。ヴィオの事は俺が一生守るから』
だが、その約束は守られる事はなかった。
15歳の時、愛するルカディオと再会したヴィオラは残酷な現実を知り、心が壊れていく。
そんなヴィオラに、1人の青年が近づき、やがて国を巻き込む運命が廻り出す。
『約束する。お前の心も身体も、俺が守るから。だからもう頑張らなくていい』
それは誰の声だったか。
でもヴィオラの壊れた心にその声は届かない。
もうヴィオラは約束なんてしない。
信じたって最後には裏切られるのだ。
だってこれは既に決まっているシナリオだから。
そう。『悪役令嬢』の私は、破滅する為だけに生まれてきた、ただの当て馬なのだから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる