もう二度と、愛さない

蜜迦

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出発

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 帰宅後、自室に戻り着替えを済ませると、もう夕食の時間だった。
 食堂には既に家族が揃っており、ルカスとエリックが、興奮気味に身振り手振りを交えながら、父母に今日の出来事を語って聞かせていた。

 「あら、リリティス。お帰りなさい」

 私に気づいたお母さまが、着席を促す。
 見るとまだ全員が食事に手を付けていない。
 
 「もしかして、待っていてくださったのですか?」

 「気にするな。ルカスとエリックの土産話のお陰で、楽しく過ごしていたから」

 いつもなら行儀が悪いと叱るお父さまも、ルカスとエリックのはしゃぎように、苦笑しながらも愛おしそうに目を細めていた。

 「姉さま、殿下が淋しがってたよ」

 「え?」

 「うん。『……リリティスは、一緒ではなかったか』って、言っておられたよ」

 ルカスが殿下の声真似をすると、エリックもうんうんと頷いた。
 殿下が淋しがる?
 あの殿下に限ってまさかそんな。
 むしろ私がついてこなくて良かったと思っているはず。
 きっと弟たちの気のせいだ。

 「リリティス、授与式の日程が決まったと知らせを受けた」

 「いつですか?」

 「来週だ」

 「来週?それは随分急ですね」

 「ああ。その日は元々、先の紛争での功労者を称え、勲章を授ける予定だった。騎士団員──男ばかりの場だから、私もてっきり別日だと思っていたのだが……陛下が『リリティスとて此度の紛争における立派な功労者だ』と仰るのでな」

 男だらけの式典への参加は気が引けるが、私ひとりのためだけに、別日に授与式を開くとなれば、莫大な金額が余計にかかる上に、口うるさく騒ぐ者も出てくるだろう。

 「わかりました。準備をしておきます」

 「ねえ、お父さま!僕たちは行けるの?」

 エリックがテーブルに手をついて身を乗り出し、今度こそ母親から小言を食らった。
 ルカスはさすがにお兄さんなので、なんとかこらえたが、両手を膝の上で握り締め、瞳を輝かせて答えを待っている。 
 父は咳払いをひとつして、おとなしく返事を待つルカスとエリックの方へ顔を向けた。

 「当日、皇宮は一般立ち入り区域までは国民に開放される。式典会場には、授与者の家族は参加してよいとのことだ」

 「やったー!」

 お父さまが言い終わらぬうちに、ルカスとエリックは天に向かって拳を突き上げ、喜びを表現した。
 もちろん再びお母さまからさっきよりきつい小言が飛んだのは、言うまでもない。


 *
 

 授与式の日。
 一家揃って正装に身を包み、早朝に皇宮へ向けて出発した。
 エルベ侯爵邸に迎えに来た皇宮の馬車は二台。
 先頭には父母が乗り、遠足気分のルカスとエリックを連れた私の乗るのはその後ろの馬車。
 皇族の方々が使用するだけあって、車体は普通のものより遥かに大きく、そしてなにより造りが豪奢だった。
 私は、はしゃぐ弟たちを窘めながら、頭の中で今日の進行を確認していた。
 まず、皇宮に着いたあとは家族と別れ、別室で待機。
 そして授与者は会場の最前列に横並び、順に陛下から勲章を授かる。
 私が受け取るのは騎士の皆さまが授与を終えた後だと聞いている。

 「大丈夫だよ、姉さま」

 「うん。僕たちは会場から、うまくいくように祈ってるからね」

 正直、人生二度目なので、各種式典その他礼儀作法などはお手の物。
 どちらかといえば、前世よりも奔放さが増しているような気がしてならない君たちの方が心配なのだが。

 「ルカス、エリック、ありがとう。とっても心強いわ」

 そうだろう、と言わんばかりのふたりの顔に、私は思わず笑ってしまった。





 
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