70 / 100
姉弟の一日①
しおりを挟むいつもより少し元気がなさそうな姿に、それ以上しつこく聞くことができなかった。
それから数日も経たないうちに、アンリ様から手紙が届いた。
ご友人が主催のガーデンパーティがあるそうで、内輪だけの気楽な集まりだから、一緒にどうかと誘われた。
ごく親しい集まりであれば、私もアンリ様も、後ろ指をさされるようなこともないだろうと思い、参加することにしたのだ。
「私は殿下から直接お誘いいただいたわけじゃないし、いきなりお邪魔してもご迷惑だわ。だから、今日は二人で楽しんできてね」
「殿下は、姉さまがくれば喜ぶと思うよ?」
上目遣いのエリックに、うっかり絆されそうになる。
「うふふ、ありがとう。稽古場といえど、騎士の皆さんに失礼のないようにね」
そのまま一緒に外へ出て、同じく見送りにきていた執事や侍女たちと、馬車に乗り込む二人を見守る。
二人はすぐに小窓を開けて、小さな顔を仲良く並べ、こちらに向かって元気な声で『行ってきます』と笑顔で挨拶をした。
御者の合図で馬車が走り出し、門を出たあとも、しばらく小窓からは小さな手がふたつ、こちらへ向けて振られていた。
「さて、私も準備しなきゃね」
振り返り、解散の合図のように伝えると、執事が口を開いた。
「お嬢様、本日は十時にご出発ということで、間違いありませんでしたでしょうか」
「ええ。アンリ様が迎えに来てくださることになっているから、よろしくね」
「かしこまりました」
*
「アンヌ、おかしくない?」
「とってもお綺麗ですわ。皆さまの視線をひとり占めされること間違いなしです」
ガーデンパーティ用に、いつもより少し丈が短めに作られたカジュアルドレス。
アンリ様の手紙には、ドレスコードは特にないが、堅苦しい正装は禁止だと書いてあった。
なるほど、いかにも内輪の集まりという感じだ。
「髪飾りはどれにいたしましょう」
目の前のテーブルに、ビロードの張られた薄型のジュエリーケースが置かれた。
幅と奥行きのあるその蓋を、アンヌは慎重な手つきで開く。
そこには、眩い輝きを放つ色とりどりの宝石が散りばめられた、たくさんの髪飾りが。
アンヌはうっとりとため息を吐いた。
「いつ見ても、本当に素晴らしいお品ですわ」
どれも、名工と名高い貴金属宝石細工工が手掛けた品だ。
精緻を極めた細工は、もはや芸術品と呼んでも過言ではない。
こめかみの辺りから丁寧に編み込んだ髪を後ろでひとつに束ねた今日の髪型。
(どれがいいかしら……)
例えカジュアルなパーティといえど、目立たぬ場所にこそ、こだわりを入れるもの。
悩む私の目に、ひとつの髪飾りが目に留まった。
月桂樹のモチーフに、エメラルドが散りばめられた髪飾り。
これは昔、お母さまから貰ったものだ。
「これにするわ」
アンヌは、私が指差したそれを確認し、頷いた。
1,381
お気に入りに追加
5,221
あなたにおすすめの小説
【完結】探さないでください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
私は、貴方と共にした一夜を後悔した事はない。
貴方は私に尊いこの子を与えてくれた。
あの一夜を境に、私の環境は正反対に変わってしまった。
冷たく厳しい人々の中から、温かく優しい人々の中へ私は飛び込んだ。
複雑で高級な物に囲まれる暮らしから、質素で簡素な物に囲まれる暮らしへ移ろいだ。
無関心で疎遠な沢山の親族を捨てて、誰よりも私を必要としてくれる尊いこの子だけを選んだ。
風の噂で貴方が私を探しているという話を聞く。
だけど、誰も私が貴方が探している人物とは思わないはず。
今、私は幸せを感じている。
貴方が側にいなくても、私はこの子と生きていける。
だから、、、
もう、、、
私を、、、
探さないでください。
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。
しげむろ ゆうき
恋愛
男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない
そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった
全五話
※ホラー無し
私の愛する人は、私ではない人を愛しています
ハナミズキ
恋愛
代々王宮医師を輩出しているオルディアン伯爵家の双子の妹として生まれたヴィオラ。
物心ついた頃から病弱の双子の兄を溺愛する母に冷遇されていた。王族の専属侍医である父は王宮に常駐し、領地の邸には不在がちなため、誰も夫人によるヴィオラへの仕打ちを諫められる者はいなかった。
母に拒絶され続け、冷たい日々の中でヴィオラを支えたのは幼き頃の初恋の相手であり、婚約者であるフォルスター侯爵家嫡男ルカディオとの約束だった。
『俺が騎士になったらすぐにヴィオを迎えに行くから待っていて。ヴィオの事は俺が一生守るから』
だが、その約束は守られる事はなかった。
15歳の時、愛するルカディオと再会したヴィオラは残酷な現実を知り、心が壊れていく。
そんなヴィオラに、1人の青年が近づき、やがて国を巻き込む運命が廻り出す。
『約束する。お前の心も身体も、俺が守るから。だからもう頑張らなくていい』
それは誰の声だったか。
でもヴィオラの壊れた心にその声は届かない。
もうヴィオラは約束なんてしない。
信じたって最後には裏切られるのだ。
だってこれは既に決まっているシナリオだから。
そう。『悪役令嬢』の私は、破滅する為だけに生まれてきた、ただの当て馬なのだから。
婚約破棄の夜の余韻~婚約者を奪った妹の高笑いを聞いて姉は旅に出る~
岡暁舟
恋愛
第一王子アンカロンは婚約者である公爵令嬢アンナの妹アリシアを陰で溺愛していた。そして、そのことに気が付いたアンナは二人の関係を糾弾した。
「ばれてしまっては仕方がないですわね?????」
開き直るアリシアの姿を見て、アンナはこれ以上、自分には何もできないことを悟った。そして……何か目的を見つけたアンナはそのまま旅に出るのだった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる