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からの、父親の歓喜③
しおりを挟む心穏やか暮らしなど、させてやることはできないだろう。
この先リリティスは、貴族たちの羨望を一身に集める存在となる。
【羨望】
その本質──恐ろしさを知る者は、この世にどれほどいるだろう。
人を羨む人間は、徐々に妬み、そして憎しむようになり、最後には対象の破滅を望むようになる。
僅かな瑕疵も見逃すまいと、虎視眈々と機会を狙う者たちの目に晒され、神経をすり減らすだろう。
あることないこと噂され、足元を掬われ、奈落の底に落とされるようなことだって起こり得る。
もしもそれが貶められて落ちたのではなく、自ら道を誤り落ちた奈落だったとしても──
「最後まで運命をともにすると誓おう」
膝に置かれたエルベ侯爵の両手が、トラウザーに深い皺を作る。
「色々並べ立ててはみたものの……嫌だよな。残念なことに親の気持ちはわからないが、私のような男に愛娘を託すのは、相当に覚悟のいることだというのは理解しているつもりだ」
「……私は娘の幸せを一番に願っております」
逆らうことの許されない立場から、絞り出すように出たひと言は、重い。
「わかっている。とにかく今は、私に時間をくれ」
***
「……あなたたち、こんな朝早くからどこに行くの?」
胴体が隠れるほど、ぎゅうぎゅうに荷物を詰め込んだ革袋を背負ったまるでダンゴムシ……いや、弟たちと出くわした。
よく見ると革袋からは長細い棒のような物が飛び出している。
「レティエ殿下が稽古に誘ってくれたの!」
エリックはよいしょ、と革袋を下ろすと、まだ使い込んでいない練習用の剣と木刀、そしてサンドウィッチにたくさんのおやつを見せてくれた。
「レティエ殿下はとっても背が高いから、たくさん食べるかと思って、料理長にお願いしたんだ!」
サンドウィッチはチキンとビーフ、野菜もモリモリの豪華版だ。
そして、『動いたあとは甘い物も食べたくなっちゃうんだよね』と、カラフルなロリーポップにショコラの詰め合わせ、甘ったるい口の中をスッキリさせるミントティーの入った水筒まで用意されている。
これでは稽古というより楽しいピクニックだ。
「僕はこれ」
ルカスの持ち物もほぼ同じだったが、その中に、大切そうに包まれていたペンとインク壺が目についた。
インク壺は蓋をされ、漏れないよう細い革紐でしっかりと巻かれている。
「貴重な機会だから、どんな些細なことも忘れないよう、できるだけ書き記しておこうと思って」
ほら、とルカスは、小さく切って、散らばらないよう紐でまとめた紙の束を見せてくれた。
おそらく、兵士でごった返す訓練場で、邪魔にならないようにと考えたのだろう。
「自分で作ったの?」
「えへへ」
エリックに比べれば控えめに、けれど心底嬉しそうに頬を染めるルカス。
(可愛い……やっぱりうちの弟たちは世界一可愛くて、いい子……!)
「そうだ、よかったら姉さまも一緒に行く!?」
「今日は……ごめんなさい。アンリ様とお約束があるの」
オリオール夫人とアンリ様をお迎えした日、朝早くから皇宮へ向かった父。
それとなく、なんの用だったのか尋ねると、返ってきたのは『領地についてちょっとな』という曖昧な答えだった。
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