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レティエの憂鬱②
しおりを挟む幼い頃は、民と国のためにこの身を捧げるのは当たり前だと思っていた。
けれど、いつの頃からか、手柄も賛辞も、ただ虚しいだけのものに姿を変えて行った。
なぜなら、反比例するかのように、大切なものがこの手からこぼれ落ちて行くから。
人のためだけに生きることの意味がわからなくなった。
そう思い始めたら最後、なにもかもがどうでもよくなってしまった。
皇太子に生まれついた時点で、私の人生は私のものではない。
この先一生、心のままに生きることは許されないのだ。
争いも結婚も、周りが好きに決めればいい。
私がなにも言わないのをいいことに、公の場に顔を出せば、周囲には皆同じような笑顔を貼り付けた人間たちが群がった。
秋波を送ってくる女たちなどは特にそう。
恥じらっているように見せかけて、水面下でお互いを牽制し合い、じめじめとした感情がふとした瞬間表情に出る。
醜い様に、毎回嫌気が差した。
(けれど……あれは違った)
リリティスは、私に群がる令嬢たちとはまるで違う。
彼女はいつも私に対し、どうだったのか。
かすかな記憶を必死で手繰り寄せたのだが……婚約者候補へ名前を連ねたあとも、彼女が私の側に寄ってきたことはなかったように思う。
アデールによれば、私への想いを相当に募らせていたというのにだ。
大概は人の迷惑など顧みず、距離感もわきまえないで喚き散らす。
そこまで極端ではなくとも、さりげなくアピールのひとつもするものだ。
なぜリリティスはそれをしなかったのか。
黙っていても、婚約者の座は自分の手に落ちてくるとでも思っていたか。
(それはないだろうな……)
見ている限り、彼女は生家の権威に胡座をかくような人間ではない。
だからといって、恥ずかしくて近寄れなかった……なんていうタイプでもなかろうに。
舞踏会での振る舞いに加え、アデールの所から帰る途中、私に対し物怖じせず発言していた姿が目に浮かぶ。
リリティスは私に……いや、他者に対し、嘘をついたり、適当に取り繕うことをしない。
儚げな見た目に反し、感情表現が豊かだが、わりあいに怒りっぽくて意地っ張りだ。
家族や知人の前でならわかるのだが、私に対してもそれだから、調子が狂う。
それと、身分を理由に他者を貶めたり、態度を急変させることもない。
自身の行動に見返りを求めず、叙勲の栄誉に見向きもしないところも好ましい。
リリティスの周りは空気が違う。
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