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父親の朝④
しおりを挟むそれから殿下は別人のように変わってしまった。
いや、これまでの優しさやひたむきさが、少しずつ壊れていったと言う方が正しいのかもしれない。
殿下はあらゆる手を使い、セオドールが死に至るまでの詳細な証拠と証人を集めた。
本陣の生き残りはほぼ貴族派ということもあり、証拠集めは難航を極めたが、殿下は手段を選ばなかった。
金と甘言を狡猾に使い、それがのちに内部崩壊を生んだと聞く。
そして殿下は、軍議での決定事項を我が身可愛さで勝手に覆した副官に、死刑を求めた。
しかし、貴族派の猛抗議により結局終身刑となった男は、今もトレドの牢獄に繋がれている。
信じることも、期待することもやめ、人を遠ざけ、近付く者は皮肉り、傲慢に接するようになったレティエ殿下。
今ではそれが当たり前の姿になってしまったが、先日娘から聞かされた話に、私は少なからず動揺した。
(殿下が自分の手で、負傷したアベル殿を修道院へ運んできたという話……あれはもしかしたら、セオドール殿のことを思い出したからではないだろうか)
アベル殿はセオドール殿と旧知の仲。
それに加え、殿下を幼少期からともに支えてきた同士のような関係だった。
そんなアベル殿が、今も変わらず殿下の側にいるということは……もしかしたら殿下は、周囲を牽制するためにあのように振る舞っているだけで、その本質はなにも変わっていないのかもしれない。
もしそうであるのなら、殿下は娘を預けるにあたって十分過ぎるほどの人物だ。
しかし、肝心のリリティスにその気がないのならどうしようもない。
それに、これまで婚約の話について無関心だった殿下が、なぜリリティスを伴侶に望まれるのか。
(本心を聞かなければ)
はぐらかされるようなら徹底抗戦するまでだ。
まずはどちらから攻めるべきか。
目の前にはもう、皇宮が見えていた。
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