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父親の朝②
しおりを挟むレティエ殿下の初陣は十三歳だった。
西方に位置する属国キルバスが、帝国に対し反乱を起こし、殿下は反乱軍の制圧及び粛清を命じられた。
十三といえば、カスティーリャではようやく騎士見習いとして入団が許される年だ。
しかしその頃既に、剣の腕で殿下の実力に勝る者はこの国にいなかった。
しかし殿下の強みは剣の腕だけではない。
幼い頃より戦略・戦術の権威に師事し、実際に戦場にも何度も足を運び、自分の目で見て学んでいた。
初めて剣を握られた日から、まるでなにかに追い立てられるように、懸命に学び続ける殿下。
遊びたい盛りだろうに、いったいなにが彼をここまで駆り立てるのか。
私は不思議で仕方なかった。
当時、まだ幼い殿下と思いがけず話す機会に恵まれ、無礼を承知で尋ねてみた。
なぜ、そこまでなさるのかと。
そして、返ってきた答えは──
『この国に生きる者たちの血を、一滴たりとも無駄に流させないためです』
私の半分にも満たない小さな身体に秘められた決意は、信じられないほど大きく、そして重かった。
殿下は民を守るために自らを鍛え、そして我が身を惜しむことなく争いの中に投じようとしている。
──なんて尊い方なのだ
私は、こんなにも素晴らしい主を我々に授けてくださった神に感謝した。
そして、軍師としての実力も十分に兼ね備えた殿下を、陛下は迷わず最高指揮官に任命した。
唯一の実子である殿下の地位を盤石なものにするためにも、史上最年少での任命は大きな意義があると考えられたのだろう。
しかしやはりというか、前例のない決断に反発はつきもので。
貴族派の連中は、殿下が初陣であることに加え、年齢と経験不足を不安材料に挙げ連ねた。
その結果、彼らは自分たちの推す経験豊かな軍人を、副官へとねじ込むことに成功した。
しかしそれが後に、レティエ殿下の人生を変えるほどの悲劇を起こす事件に発展しようとは、いったい誰が想像できただろう。
そしてそれぞれの思惑を胸に、戦いの火蓋が切られた。
皇太子であるにも関わらず、殿下は先陣を切って戦場を駆けた。
目の前の敵を次々と屠りながら前線を押し上げる殿下の姿は、兵士たちの士気をこれ以上ないほどに上げ、帝国軍はまさに破竹の勢いだった。
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