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散策③
しおりを挟むこういう時、なんと答えるべきなのか。
婚約者候補辞退を申し出たとはいえ、それが受理されたわけではない。
アンリ様を知る──といっても、今の状態では男女としての交際は難しい。
子どものおままごとのような付き合いしかできないだろう。
それでも、男の人から真っ直ぐに気持ちを告げられるのは初めてで、とても嬉しかった。
「正直に申し上げますと……アンリ様のお気持ちは、とても嬉しいです」
これでも勇気を振り絞って伝えたのだが、アンリ様の表情は何故かショックを受けているようで。
「あの、アンリ様……?」
「いえ……大丈夫です。駄目で元々ですから」
「あの、それはどういう」
「リリティス様こそ、私にお気遣いは無用です……小説だと、そういう言葉の始まりは、たいていが『ごめんなさい』に帰結すると相場が決まっています」
そう言われ、先日読んだ小説の内容が頭に浮かぶ。
それは流行りの恋愛小説で、主人公のことを影に日向にずっと見守ってきた男性が、意を決して告白をした場面だった。
『あなたの気持ちはとても嬉しいわ』のあとに続いた言葉は『……でも、ごめんなさい』であった。
「ち、違います!」
慌てて訂正するも、アンリ様の眉は叱られた子犬みたいに下がったまま。
「先ほども申し上げましたように、まだ陛下からお許しがいただけていない状態で……アンリ様の望むようなお付き合いはできないかもしれません……でも、嬉しいと思う気持ちは本当なんです。だからちゃんと伝えておきたくて」
アンリ様はなんとも切なげに『えぇ!?』と小さく声を上げた。
「あ、あの、アンリ様?」
ちょっと吹き出しそうになってしまったのを必死で堪えながら、アンリ様がどんな状態なのか探ろうと声をかける。
「私は、てっきり迷惑だと……断られるものだと……」
「ふふっ。お願いですからそんな顔なさらないで。私、本当に嬉しいんです」
自分で言っておいて、ちょっと恥ずかしい。
けれど、不思議。
誰もが真っ先に気にするような、年齢だとか、男の見栄や意地なんて、まったく関係ない素の姿を見せてくれたアンリ様を、私はとても好ましく感じている。
「私はリリティス様になにも望みません。元々手の届かない方だと思っていたから……だから、いくらでも待ちます」
それは一見誠実なようでいてとても重く、熱量のある言葉だった。
いくらでも待つ。
でも、待った先に絶望しかなかったら?
まるで、レティエ殿下に夢中で、自分の幸せなど考えてもいなかった前世の自分を見ているような気持ちになる。
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