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オリオール夫人とのお茶会
しおりを挟む「さあ、立ち話はこれくらいにして、そろそろ行きましょうか。マリオン、今日は庭に席を用意したのよ」
お母さまが促すと、アンリ様は自然な動作でオリオール夫人の介助に回る。
私は、彼のミルクティーのようなグレーブラウンの髪が、柔らかな風にさらさらと揺れるのを眺めながら、あとをついて行った。
庭園に設えられた真っ白なテーブルセット。
その中央に設けられた空間から伸びる自立した支柱には、テーブルセットと揃いの白い大きなパラソルが掛けられていて、強い日差しを和らげてくれる。
アンリ様が椅子を引き、ゆっくりと着席したオリオール夫人は、流れてくる花の香りに目を細めた。
「今日は風が気持ちいいから嬉しいわ」
お母さまは、オリオール夫人と向かい合わせに座った。
そして、お互い母親の隣に腰をおろした私とアンリ様も、自然と向かい合わせになる。
「この四人が顔を合わせるのは、本当に久しぶりね」
「ええ。これまでリリティスちゃんは色々忙しかったから……でも、最近は違うみたいね?」
「あはは……」
オリオール夫人の言わんとする『忙しい』とは、レティエ殿下の婚約者に選ばれようと、ひたすら自分磨きに励んでいた以前の私のこと。
けれど、わざわざそれを話題に出してきたということは、私の婚約者辞退の噂について、真偽を確かめたいのだろう。
「母上、リリティス様に失礼ですよ」
「あら、あなただって気になってるんでしょう?こういうことは探り合いなんて面倒なことをするよりも、はっきり聞いた方がかえってお互いスッキリするものよ」
オリオール夫人は他人の事情を会話のネタにするような方ではないし、信頼できる人に私の気持ちを知ってもらうのは、そう悪いことでもない。
いつか、見えない形で助力してもらえる可能性だって、なきにしもあらずだ。
「……どのような形で、オリオール夫人のお耳に入っているのかはわかりかねますが……多分、おおむね真実ですわ」
オリオール夫人はもちろんアンリ様も、面食らった表情で私を見た。
やっぱりと言うべきか、それとも残念と言うべきなのだろうか。
予想していた通りの反応だ。
おそらくふたりとも、私のレティエ殿下への熱狂ぶりを間近で見て知っていたから、流れている噂もどうせ眉唾だと思っていたに違いない。
それにしても、辞退の話を聞いた方々は皆一様にしてこの反応……なんかもう色々慣れたけど、どうにもやるせない。
(でも嘆いている暇なんてないわ。挽回……そう、今の私には挽回あるのみよ!)
「正直に申し上げますと、まだ陛下から正式にお許しはいただけていないのですが……私の気持ちはもう決まっておりますので」
「リ、リリアーヌ。リリティスちゃんのお話は本当なの?」
「……ええ。なんだか厄介なことになっているみたいだけど、本当よ」
途端、オリオール夫人の顔が希望に満ち溢れ、きらきらと瞳が輝いていった。
夫人のこういうわかりやすく素直なところを母も愛しているのだろう。
子どものようにくるくると変わる表情に、私もすっかり毒気を抜かれてしまった。
「アンリ、リリティスちゃんにお庭を案内してもらいなさいな!ね、ね?」
『ね?』の圧がやけに強いし、意図が透けまくりだ。
恥ずかしいのかアンリ様は苦悶の表情で下を向いた。
「ふ、ふふっ。アンリ様、行きましょうか」
なんだかいたたまれなくなったのと、親子のやり取りが微笑ましすぎて、私は自ら案内を申し出た。
「……すみません」
アンリ様は、小さな声でそう言うと、席を立った。
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